E2544 – フィンランドの公共図書館の環境への意識や影響に関する調査

カレントアウェアネス-E

No.445 2022.10.13

 

 E2544

フィンランドの公共図書館の環境への意識や影響に関する調査

三重大学情報教育・研究機構・和気尚美(わけなおみ)

 

●はじめに

  フィンランドでは公共図書館の環境への影響や持続可能な開発目標(SDGs;CA1964参照)に関する取組の調査“Bringing environmental awareness of public libraries to the 2020s”(以下「本調査」)が行われ,同名の報告書(以下「報告書」)が2021年にフィンランド語で公開され,2022年7月にその要約版が英語で公開された。本稿はこの調査および報告書について概観する。

●調査の目的

  フィンランドでは,2020年から2021年まで,図書館の環境問題への意識向上を目指し,教育文化省からの予算で2020年代に向けた公共図書館の環境意識向上プロジェクトが実施された(以下「プロジェクト」)。ヘルシンキ市立図書館がプロジェクト全体を取りまとめ,オウル市立図書館等7館が協力した。

  本調査は,公共図書館の枠組みの中でSDGsの意味を提示すること,また公共図書館の環境への影響がどの要素からもたらされているかを特定することを目的として実施された。なお,プロジェクトの概要や調査結果等は特設ウェブページの“Vihreä kirjasto”に掲載されている。

●調査の方法

  本調査は以下のように実施された。なお,カーボンフットプリントとは,プロダクトやサービスのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算して表示することを意味する。他方,カーボンハンドプリントは,どの程度CO2の排出を防いだかというポジティブな影響を測るものである。

(1)環境意識に関するアンケート調査

  オンライン調査として2020年秋に実施された。685館にメールを送信し,有効回答数は166件で,有効回答率は24.2%であった。自治体別では112の基礎自治体から回答が得られた。

(2)カーボンフットプリント・カーボンハンドプリントに関する調査

  Positive Impactという環境調査の専門団体との協力により2020年秋に実施された。フィンランド全土から規模や地域の異なる13の公共図書館を選択し,施設の暖房使用,電力消費,種類別廃棄物量,資料等の調達・輸送,移動図書館活動,図書館職員の出張,オンラインコミュニケーションの頻度や時間とそのシステムなどの調査が行われた。

●調査の結果

(1)環境意識に関するアンケート調査の結果

  図書館資料については,資料の修理・補修を行なっているか尋ねる質問に対し,「はい」58%,「一部行っている」38%の回答であった。資料を長持ちさせる取り組みが多くの図書館ですでに行われていることがわかる。環境に関して最新で信頼できる資料を提供しているか尋ねる質問には,「はい」46%,「一部行っている」46%という回答であった。さらに,環境に関する情報・資料が見つけやすいよう工夫しているかという質問には,「はい」22%,「一部行っている」44%の回答であった。報告書は,利用者が環境について信頼できる情報・資料にアクセスしやすいよう整備を進めることは環境に配慮した図書館の主要な課題としている。

  図書館におけるエネルギー消費については,夜間や週末にパソコンやその他機器の電源をオフにしているかという質問に対し,「はい」59%,「一部行っている」31%という回答であった。また,LED照明の使用については,「はい」35%,「一部行っている」34%であった。この結果から,報告書は照明や電子機器等については省エネ対策が進んでいるとしている。その一方で,再生可能エネルギーの使用については,熱エネルギー(太陽光等)で「はい」4%,「一部行っている」10%と,限定的であることが示された。

(2)カーボンフットプリント・カーボンハンドプリントに関する調査の結果

  対象となった13館の平均では年間3万2,000トンのCO2を排出しており,平均的なフィンランド人の約3,100人分の排出量に相当することが明らかになった。

  さらに項目別に見ると,暖房は34%,照明は24%と,暖房と照明で全体の半分以上を占めた。報告書は特に小規模の図書館ほど,暖房と電気消費によるCO2総排出量が全体に占める割合が大きいことを指摘している。

  また,電子書籍は紙の書籍より収集・輸送・保存にともなって排出されるCO2が減少するため,環境負荷の低い資料であると示している。ただし,今回の調査では読書時に電子書籍リーダーから排出されるCO2については計測しておらず,今後の課題とされている。

  他方カーボンハンドプリントについて,物理的な書店から紙の図書を購入して読書する場合には1.16kgのCO2が排出される一方,図書館で紙の図書を借りて読書する場合には,0.46kgとなり,0.7kgのCO2排出を防ぐことができると示す。図書資料購入によるCO2排出量は,素材・製造・輸送時の排出量から計測している。図書館で購入する紙の図書1冊は,除籍されリサイクルにまわるまで最大100回程度利用されており,個人で書店から図書を購入し読書するより環境負荷が少ないと結論付けている。

●おわりに

  本調査は,公共図書館の活動サイクルにおいて,具体的にどの活動からどの程度のカーボンフットプリントがあるか,また図書館の組織や職員が環境についてどのように意識しているかを明示しており,国際的にも先進的である。

  カーボンフットプリント調査の結果が示すように,公共図書館からの総CO2排出量の半分以上は暖房と照明が占める。抜本的な改善となると,施設・設備の改修や,使用するエネルギーの契約見直し等をともなう。しかしながら,報告書でも触れられているが,多くの場合,図書館の現場の判断で実行することは不可能で,行政の他部署や市区町村議会との議論を経て決定する。今回行われた調査とその報告書は,図書館外の組織や他部署と議論を進める際に具体的なエビデンスとして活用していける可能性がある。また自治体全体の環境計画との接続・調整にも活かせるだろう。今回の調査結果を次なる改善の段階へいかに繋げるかが問われている。

Ref:
“Bringing environmental awareness of public libraries to the 2020s project’s materials now in English”. Libraries.fi. 2022-07-01.
https://www.libraries.fi/news/environmental-awareness-of-public-libraries-project-materials-in-english?language_content_entity=en
Sahavirta, H.; Sonkkanen, L. Raportti: Yleisten Kirjastojen Ympäristötietoisuus 2020-luvulle. 2021, 44p.
https://www.kirjastot.fi/sites/default/files/content/-%20Yleisten%20kirjastojen%20ympa%CC%88risto%CC%88tietoisuus%202020-luvulle_0.pdf
Sahavirta, H.; Sonkkanen, L. Summary: Bringing environmental awareness of public libraries to the 2020s. 2022.
https://www.kirjastot.fi/sites/default/files/content/Summary%20Bringing%20environmental%20awareness%20of%20public%20libraries%20to%20the%202020s.pdf
“Kirjastojen ympäristötietoisuus 2020-luvulle hanke – Environmental awareness of public libraries to the 2020s -project”. Kirjastot.fi.
https://www.kirjastot.fi/ajankohtaista/vihreakirjasto/Milt%C3%A4/n%C3%A4ytt%C3%A4%C3%A4/yleisten/kirjastojen/ymp%C3%A4rist%C3%B6toiminta/hankkeen/loppuraportti?language_content_entity=fi
Positive Impact Finland Oy. Kirjastot Matkalla Hiilineutraaliin Jakamistalouteen, 2021, 24p.
https://www.kirjastot.fi/sites/default/files/content/kirjastot_matkalla_hiilineutraaliin_jakamistalouteen_0.pdf
“Vihreä Kirjasto: Ympäristötyön Edistäminen Kirjastoissa”. Kirjastot.fi.
https://www.kirjastot.fi/vihreakirjasto
中村穂佳. SDGsと図書館 ―国内の取組から―. カレントアウェアネス. 2019, (342), CA1964, p. 6-8.
https://doi.org/10.11501/11423546