CA1964 – SDGsと図書館 ―国内の取組から― / 中村穂佳

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カレントアウェアネス
No.342 2019年12月20日

 

CA1964

 

SDGsと図書館 ―国内の取組から―

調査及び立法考査局国会レファレンス課:中村穂佳(なかむらほのか)

 

1. はじめに

 2015年9月、国連サミットで「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(E1763 参照)が採択され、2001年のミレニアム開発目標(MDGs)の後継として17個の目標からなる持続可能な開発目標(SDGs)が立てられた(表1参照)。先進国も含めた全ての国と地域を対象とし、「誰一人として取り残さない」ことを目標としたものである(1)。17個の目標とそれに関わる169個のターゲットは多岐の分野にわたるものであり、採択から4年が経過した現在では、様々な場面でSDGsに関する活動やプログラム等が行われてきている。

 図書館界でも国内外で様々な取組が行われている。特に国際図書館連盟(IFLA)では2018年、11番目の目標である「包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する」に関するポジションペーパー(2)や、図書館がSDGsの達成にどう貢献しているかをストーリー化するためのマニュアル(3)を公開している。また、各国の図書館協会や国立図書館から提供された統計等を参照できるウェブサイト“IFLA Library Map of the World”(4)に設けられたコーナー“SDG STORIES”もある。各国の図書館がSDGs関連の取組を投稿し、共有できるコーナーであり、上述のマニュアルは同コーナーへの投稿促進を目的としたものである。

 日本国内でも、SDGsと絡めて、各図書館で特集コーナーが設けられるといった動きも見受けられる(5)。その背景としては、社会におけるSDGsに対する認知度の高まり、政府・地方公共団体による推進以外にも、塩崎亮氏が指摘するように、図書館とSDGsとの親和性が高いということが挙げられるだろう(6)。また、塩崎氏は、国内の図書館ではSDGsに関する取組が総じて低調であることに触れつつ、「ただ単にSDGsと関連付けて紹介・報告されていないだけとも捉えられる」とし、国内の図書館でこれまで展開されてきたサービス・事業の多くがSDGsと関わっていると指摘する(7)。筆者が確認する限りでも、SDGsとの関わりを明記していない取組の中に、SDGsの達成に貢献しているものが多く見受けられる。本稿では、そのような取組をいくつか紹介するとともに、SDGsのさらなる推進・普及のために何が必要かを考えてみたい。

 

表1 持続可能な開発目標(SDGs)の一覧(8)

No 持続可能な開発目標(SDGs)
1 あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる
2 飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する
3 あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する
4 すべての人々への包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する
5 ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う
6 すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する
7 すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する
8 包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する
9 強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る
10 各国内及び各国間の不平等を是正する
11 包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する
12 持続可能な生産消費形態を確保する
13 気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる
14 持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する
15 陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する
16 持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する
17 持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する

 

2. 国内の図書館における取組

2.1. 健康管理と地域コミュニティの形成

 新潟県の阿賀野市立図書館では、館内に「けんこう交流スペース」(9)が設けられている。これは施設内のギャラリーに脳年齢・血管年齢測定器や肌年齢測定器、血圧計、フットマッサージ器、ティーサーバーなどを設置し、くつろぎながら交流できるようにしたものである。また、同施設内の創作室と呼ばれる部屋ではフィットネス機器も利用できるようになっている。日々の健康を促進するとともに、近所の人や友人、仲間たちとのコミュニケーションや、緩やかにつながる地域コミュニティ(10)の形成にもつながるものである。まさに、SDGsが第3の目標として掲げる「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」ことに関連したものと言える。

 

2.2. 教育と読書機会の支援

 SDGsでは、「すべての人々への、包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」を第4の目標としている。京都府立図書館が携わる「不登校児童生徒読書活動支援事業」(11)や、鳥取市立図書館によるこども食堂実施団体への図書提供事業(12)はこの目標達成に寄与している。

 京都府立図書館では、府認定のフリースクールへの図書貸出や、府内公共図書館・読書施設と連携した教育支援センター・適応指導教室への図書支援を行っている。この取組は京都府教育委員会の平成30年度アクションプラン「社会的自立に向けた不登校児童生徒支援計画」に基づくもので、京都府立図書館から府内6か所にある京都府教育委員会認定のフリースクールに図書を貸し出すとともに、府内の市町村立図書館や読書施設に図書を支援し、そこから18市町村に設置されている教育支援センター・適応指導教室に図書を貸し出すといった連携事業を行うものである。

 鳥取市立図書館は、「こども食堂を利用する子どもたちが、自分の力で楽しみながら読書ができ、また、夢や希望を持って将来の自分や家庭・地域を考えることができるよう支援するため」に、2018年7月からこども食堂実施団体への図書提供事業を行っている。鳥取市人権福祉センターとの連携事業であり、図書館は20冊程度の図書が入った本箱5箱程度を人権福祉センターに届け、人権福祉センターはこども食堂の開所日に1箱から数箱を持参し、子どもたちが利用できるようにする。希望があれば、読書ボランティアによる読み聞かせの仲介も行っている。

 

2.3. ジェンダー平等の達成

 女性支援に関する取組は各地方公共団体やNPO・NGO等でも広く行われているが、大阪市立中央図書館による「WikiGapエディタソン2019 in 大阪」(13)の開催もその一つである。女性についての記事コンテンツをWikipediaに追加するというイベントであり、2019年10月にスウェーデン大使館との共催により実施された。インターネット上のジェンダーギャップを埋めることを掲げた取組であり、SDGsの第5の目標「ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う」に寄与するものである。

 女性支援については、大阪府立男女共同参画・青少年センター(ドーンセンター)(14)内の情報ライブラリーが行っている専門図書館としての活動も注目に値する。同館では、女性情報と男女共同参画社会に役立つ情報を中心に、女性による地域の活動グループの広報誌や行政資料なども所蔵しており、豊富な関連資料を活かして情報相談等を活発に行っている。その件数は年間数千件にのぼるという(15)。女性向けのキャリアカウンセリングやブックサロンなどのイベントも充実しているほか、ドーンセンター内に託児所が設けられ、母親がセンター内での読書や情報収集、休憩、イベント参加等の際に子どもを預けられるよう、一時保育サービスも提供している。

 

2.4. 働く人の支援と環境整備

 SDGsの第8の目標は、「包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する」ことである。公共図書館では、2000年前後からビジネス支援サービスへの取組が積極的になされているが(CA1950 参照)、これらもSDGsと関わりを持つものと言える。

 大阪市立淀川図書館がハローワーク淀川と共催している就職支援セミナー「図書館de ハローワーク」(16)もその一例である。仕事と子育ての両立を考えている人を対象としたセミナーであり、乳幼児向けの催しの後に、ハローワーク淀川の職員によるハローワークの使い方の説明が行われる。就業支援のみならず、女性支援という側面も有する取組である。

 働く人の支援と環境整備に関しては、労働専門図書館である大阪産業労働資料館(エル・ライブラリー)の取組も紹介したい。同館では、労使関係、労働問題と労働運動など労働に関するもの全般のほか、経済、公害問題、環境・原発問題、市民運動などの分野の書籍、及び明治期以降の社会・労働運動や産業・経済に関する資料を所蔵しており、それらを活用して労働及び労働問題に関わる情報支援を続けている(17)。その他会員限定ではあるが、閉館後の閲覧室内をラーニング・コモンズ(CA1804 参照)として利用に供し、館内資料を利用した勉強会・研究会等もできるようになっている。

 

3. まとめ

 ここまで、SDGsとの関わりを前面に出していなくとも、実はSDGs達成に貢献する取組が各地の図書館で行われていることを紹介した。このように見ると、SDGs達成のために国内の図書館が果たしている役割は決して小さいものではない。一方で、SDGsとの関わりが明示されていないと実態としてなされている貢献が見えにくいという側面もある。このような取組とSDGsとの関わりを明示し、図書館が果たしている貢献を可視化していくことが出来れば、SDGsのさらなる推進・普及にもつながるのではないか。

 可視化を進める上では、関連する取組事例の集約・共有も有効である。「はじめに」に述べたIFLAによる“SDG STORIES”はその実践例であり、その他にも、例えば韓国図書館協会では、韓国国内の図書館におけるSDGsに関する取組を国内外で共有するため、事例収集を行っている(18)。このように各図書館の取組をまとめ、可視化し、共有することで図書館間における連携・協力ができ、またお互いの刺激にもなるのではないだろうか。

 また、エル・ライブラリーやドーンセンター情報ライブラリーのような専門図書館においては、それぞれの分野と絡めたSDGsに関する取組を継続的に実施していくことができるという強みがあると言える。専門図書館については2019年の第105回全国図書館大会分科会でも「地域とつながる専門図書館」がテーマとされているように、その図書館が扱う分野を専門とする人々への奉仕だけでなく地域とのつながりも重要視されてきている(19)が、この2つの図書館は大阪市立島之内図書館作成の「中央区まちじゅう図書館マップ」(20)に掲載されているなど、地域の一図書館としても活動し、地域の中で生きてきた図書館でもある。こうした図書館では、専門資料を求める人だけではなく地域の図書館や他の施設とも連携していくことで、地域レベルでSDGsの理念を広めていくことができるのではないだろうか。

 

(1) “SDGsとは?”. 外務省.
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html,(参照 2019-11-18).

(2) “Sustainable Cities and Communities”. IFLA, 2018-02-27.
https://www.ifla.org/files/assets/hq/topics/libraries-development/documents/ifla_contribution_-_ngo_mg_sdg_11_position.pdf, (accessed 2019-11-18).

(3) “Libraries and the Sustainable Development Goals: a storytelling manual”. IFLA, 2018.
https://www.ifla.org/files/assets/hq/topics/libraries-development/documents/sdg-storytelling-manual.pdf,(accessed 2019-11-18).

(4) “IFLA Library Map of the World ”. IFLA.
https://librarymap.ifla.org/, (accessed 2019-11-18).

(5) 国内の図書館における取組事例は以下の文献でも紹介されている。
丸山高弘. SDGs(持続可能な開発目標)と図書館. 現代の図書館. 2019, 57(2), p. 74.

(6) 塩崎亮. 国連の「持続可能な開発目標」(SDGs)と図書館. 聖学院大学総合研究所NEWSLETTER. 2018, 28(2), p. 28.
http://doi.org/10.15052/00003559, (参照 2019-11-18).

(7) 前掲, p. 29-30.

(8) 各目標の日本語訳は総務省の仮訳による。
“持続可能な開発目標(SDGs)”. 総務省.
http://www.soumu.go.jp/toukei_toukatsu/index/kokusai/02toukatsu01_04000212.html, (参照 2019-11-18).

(9) 阿賀野市市長政策・市民協働課. 広報あがの. 阿賀野市. 2019, 183, p. 5.
http://www.city.agano.niigata.jp/uploaded/attachment/17591.pdf, (参照 2019-11-18).
“本館(阿賀野市立図書館)”. 阿賀野市立図書館.
http://city.agano.niigata.jp/lib/shisetsu/, (参照 2019-11-18).

(10) 緩やかなコミュニティの形成に関しては、図書館界に限らず様々な分野で言及されている。
小谷みどり. 地域の緩やかなつながりをどう作るか. Life design report. 2018,(227), p. 65-67.
平田オリザ. 市町村長「行財政特別セミナー」・地域経営塾① 新しい広場を作る:文化による街作り. アカデミア. 2014, 110, p. 2-7.
http://www.jamp.gr.jp/academia/pdf/110/110_03.pdf, (参照 2019-11-18).
柏市教育委員会. “柏市図書館のあり方”. 柏市. 2019-02-22.
http://www.city.kashiwa.lg.jp/soshiki/280700/p046994.html, (参照 2019-11-18).

(11) “不登校児童生徒が夢や希望を持って成長していけるために”. 京都府教育委員会. 2019-08-30.
http://www.kyoto-be.ne.jp/soumu/kouhou/kouhou010830.pdf, (参照 2019-11-18).

(12) “こども食堂(実施団体)への図書提供事業を開始します”. 鳥取市. 2018-06-29.
http://warp.da.ndl.go.jp/collections/NDL_WA_po_print/info:ndljp/pid/11346305/www.city.tottori.lg.jp/www/contents/1530781122087/activesqr/common/other/NDL_WA_po_5b3de460003.pdf, (参照 2019-11-18).

(13) “終了報告WikiGapエディタソン2019 in 大阪”. 大阪市立図書館. 2019-10-14.
https://www.oml.city.osaka.lg.jp/index.php?key=jod8qbknk-510,(参照 2019-11-18).

(14) ドーンセンターは一般財団法人大阪府男女共同参画推進財団によって運営されている。この財団では「明るく元気な大阪のために」「女性も男性も、子どもも高齢者も、すべての人が生きやすい男女共同参画社会づくりのために」を2大スローガンに、ドーンセンターの管理運営のほか、さまざまな事業を行っている。
“運営基本方針”. 一般財団法人大阪府男女共同参画推進財団.
https://www.dawn-ogef.jp/wp-content/uploads/2019/02/dawn_002.pdf, (参照 2019-11-18).
“設立趣意書”.一般財団法人大阪府男女共同参画推進財団.
https://www.dawn-ogef.jp/wp-content/uploads/2019/02/dawn_001.pdf, (参照 2019-11-18).

(15) 一般財団法人大阪府男女共同参画推進財団編. ドーンと未来へ:大阪府男女共同参画推進財団20年の歩み. 一般財団法人大阪府男女共同参画推進財団, 2014, p. 33-34.

(16) 大阪市立淀川図書館. “図書館de ハローワーク”. 大阪市立図書館.
https://www.oml.city.osaka.lg.jp/?action=common_download_main&upload_id=23405, (参照 2019-11-18).

(17) エル・ライブラリーの資料は、1978年に財団法人大阪社会運動協会(2012年より公益財団法人)が設立された時から『大阪社会労働運動史』の編纂を目的に収集され始め,当初は非公開であったが2000年大阪府労働情報総合プラザの運営を始めて以降に公開されるようになった。その後2008年の大阪府労働情報総合プラザの廃止に伴い、大阪社会運動協会が蔵書を大阪府から引き取って私立図書館としてエル・ライブラリーを設立した。
谷合佳代子. エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)のデジタルアーカイブとデータベース. コンピュータ&エデュケーション. 2018. 44, p. 22-23.
https://doi.org/10.14949/konpyutariyoukyouiku.44.22,(参照 2019- 11-18).
“公益財団法人大阪社会運動協会の歴史”.公益財団法人大阪社会運動協会.
http://shaunkyo.jp/shaunkyo/history.html, (参照 2019-11-18).

(18) “[안내]지속가능발전목표(SDGs)에관한도서관실천사례공모안내”. 한국도서관협회 . 2019-04-03.
https://kla.kr/jsp/info/association.do?procType=view&f_board_seq=56732, (参照 2019-11-18).

(19) 第105回全国図書館大会三重大会. “第5分科会 専門図書館”. 第105回全国図書館大会三重大会.
http://105th-mietaikai.info/subcommittee/section09, (参照 2019-11-18).

(20) 大阪市立島之内図書館. “「中央区まちじゅう図書館マップ」を作成しました!”. 大阪市立図書館. 2017-03-26.
https://www.oml.city.osaka.lg.jp/index.php?key=joop4y0ln-510, (参照 2019-11-18).

Ref:
Think the Earth編. 未来を変える目標: SDGsアイデアブック. Think the Earth, 2018, 176p.
尼川洋子. 女性情報のグローバルなネットワークをめざして―女性情報によるエンパワーメント戦略の展望と提言―. 国立女性教育会館研究紀要. 2004, 8, p. 93-99.
http://id.nii.ac.jp/1243/00016862/,(参照 2019-11-18).
新井美希. 近年の国際開発目標をめぐる動向: MDGsから2030アジェンダへ. 調査と情報. 2016, (898), p. 巻頭1p, 1-13.
https://doi.org/10.11501/9906768, (参照 2019-11-18).
江口愛子, 森未知, 尼川洋子, 橋本ヒロ子, 安達一寿, 堀久美. <ヌエック公開シンポジウム>女性情報を有効に使うために―女性情報シソーラスの開発と活用. 国立女性教育会館研究紀要. 2003, 7, p. 119-136.
http://id.nii.ac.jp/1243/00016846/, (参照 2019-11-18).

 

[受理:2019-11-19]

 


中村穂佳. SDGsと図書館 ―国内の取組から―. カレントアウェアネス. 2019, (342), CA1964, p. 6-8.
https://current.ndl.go.jp/ca1964
DOI:
https://doi.org/10.11501/11423546

Nakamura Honoka
Domestic Initiatives Related to Sustainable Development Goals and Libraries