E2525 – 慶應義塾大学のHathiTrustへの加盟

カレントアウェアネス-E

No.441 2022.08.18

 

 E2525

慶應義塾大学のHathiTrustへの加盟

慶應義塾大学三田メディアセンター・関秀行(せきひでゆき)

 

●はじめに

  2022年2月,慶應義塾大学(以下「本学」)は,米国のデジタルライブラリーHathiTrust(以下「ハーティトラスト」;E1389CA1760参照)に加盟した。本稿ではその経緯と加盟による利点について報告する。

●始まりはGoogleプロジェクト

  日本の一大学が,米国の大学図書館が中心となって運営するハーティトラストになぜ参加するに至ったのか? 事の始まりはGoogle社が実施しているGoogleブックス図書館プロジェクト(以下「Googleプロジェクト」)への参加である。Googleプロジェクトは,図書館の蔵書のデジタル化を目的として,2004年から欧米の大学図書館を中心に展開されていた。日本からの参加を求める動きの中,本学が世界で26番目,欧米以外では初のGoogleプロジェクト参加館となり,2007年から2010年にかけて,著作権保護期間が終了した和書約10万冊のデジタル化を実施した。

●ハーティトラストへの蔵書データ登録から加盟まで

  一方,ハーティトラストは2008年に米・ミシガン大学を拠点に発足した。参加する図書館の蔵書データを集積する巨大なデジタルライブラリーであり,その登録冊数は本稿執筆時点で1,700万冊を越える。米国でのGoogleプロジェクト参加館の多くがハーティトラストに参加しデータを登録している。

  本学とハーティトラストの関係は,2012年にハーティトラスト側から,Googleプロジェクトでデジタル化した本学の蔵書データの登録のオファーがあったことをきっかけに始まった。ハーティトラストへの加盟について,それ以前から検討はしていたものの,年会費が相当な額に及ぶという試算から踏み切れないでいた。この時のオファーは,(加盟を伴わない)データ登録のみでの参加,という本学の状況に配慮された内容であった。本学にとっては自館の蔵書データを米国の大学図書館コミュニティによる半永久的なリポジトリに置くことができ,ハーティトラストにとってはユニークな日本語コレクションを加えることができる,という相互の利益が見込まれた。その後,覚書を締結し,各種準備作業を経て,2014年に蔵書データ約9万件のハーティトラストへの登録が実現した。

  2014年以降,デジタルライブラリーの一角を担う機関として「加盟」の実現に向けて検討を続けていたが,ハーティトラストの会費算出のしくみが変わったことで年会費が本学にとって受入れ可能なものとなり,2022年2月にアジア圏初の加盟館となったのである。ハーティトラストの運営は加盟館の会費で成り立っており,本学は登録した蔵書データの維持費を含めた運営コストの負担に加わるべき立場にあったことを考えると,ようやく本来あるべき形になったのだと言える。

●加盟による利点

  加盟したことによる利点は,加盟館の所属者,すなわち本学の図書館ユーザーが加盟館固有の拡張機能を使えるようになる,というものである。ハーティトラストで資料を閲覧し1ページずつダウンロードすることは,加盟館所属者であるか否かに関わらず世界中すべての人ができる。加盟館所属者の場合,この蔵書データのダウンロードを1冊単位でできるようになる。限られた利点ではあるが,ハーティトラストを研究リソースとして本格的に活用する際の利便性は大いに高まる。

●おわりに

  ハーティトラストが実施するプロジェクトや会議への日本からの参加には,物理的距離や時差の面から限界があることは否めない。しかしながら,ハーティトラスト側は事業の国際的な広がりを視野に入れており,本学としても米国外からのハーティトラスト加盟館としての貢献の可能性を追求していきたい。特に,登録した日本語蔵書データのグローバルな利活用の可能性を広げることで,国内外における日本研究の発展に寄与できればと思っている。さらに将来的には,日本からの加盟館が増え,日本の図書館コミュニティとハーティトラストとの関係が深まることで,日本国内でのハーティトラストの利用環境の改善等につながっていく,そういった展開にも期待したい。(なお,加盟に当たって蔵書データの登録の義務はなく,本稿執筆時点で加盟館全体の約4分の3はデータ登録を行っていない。)

  以上,ハーティトラスト加盟の経緯と加盟による利点を中心に報告した。ハーティトラストに関するより詳細な情報はhathitrust.orgや他の記事を参照されたい。

Ref:
HathiTrust.
https://www.hathitrust.org/
“HathiTrustへのデジタル化資料の登載について”. 慶應義塾大学メディアセンター(図書館). 2014-04-24.
https://www2.lib.keio.ac.jp/hathitrust/
杉山伸也. 慶應義塾とグーグル社のライブラリ・プロジェクトでの提携について. MediaNet. 2007, (14), p. 29-30.
https://www2.lib.keio.ac.jp/publication/medianet/article/pdf/01400290.pdf
慶應義塾大学. アジアから唯一 慶應義塾大学が米国大学図書館によるデジタルライブラリーHathiTrust へ加盟. 2022, 2p.
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2022/6/9/220609-1.pdf
時実象一.大学図書館書籍アーカイブHathiTrust. 情報管理. 2014, 57(8), p. 548-561.
https://doi.org/10.1241/johokanri.57.548
総務部支部図書館・協力課. 講演会「HathiTrustの挑戦」<報告>. カレントアウェアネス-E. 2013, (230), E1389.
https://current.ndl.go.jp/e1389
田中敏. デジタル化資料の共同リポジトリHathiTrust―図書館による協同の取り組み. カレントアウェアネス. 2011, (310), CA1760, p. 14-19.
https://doi.org/10.11501/3485918