E1406 – “new stage”へ向かうHathiTrust: 2012年活動報告書より

カレントアウェアネス-E

No.233 2013.03.07

 

 E1406

“new stage”へ向かうHathiTrust: 2012年活動報告書より

 

 2013年1月29日,HathiTrustが2012年活動報告書をウェブサイトで発表した。HathiTrustは,米国の大学図書館等が共同で運営しているデジタル化資料のリポジトリで,そのコンテンツの大半はGoogleブックスプロジェクトによりデジタル化された参加機関の蔵書である。一方で,従来図書館が保持してきた資料保存・品質・プライバシー・アクセス等の価値を重要視している「図書館による図書館のための電子図書館」であることが特徴として挙げられる(CA1760参照)。

 HathiTrustにとって2012年最大の出来事は,Authors Guild訴訟(E1217参照)に進展があったことだろう。本件は“Special News”として活動報告書の冒頭で取り上げられており,この訴訟がHathiTrust及び同様の他事業に与える影響の大きさを感じさせるものとなっている。Authors Guild訴訟とは,2011年9月に,米国の著作者団体Authors Guild等が共同で,HathiTrustとミシガン大学等の5大学を著作権侵害で訴えたものである。原告側の主張は,HathiTrustがGoogleと提携することで著作権者の許諾を得ずに著作権保護期間内の資料をデジタル化していること等を,米国著作権法第108条で規定されている図書館での複製等が認められる場合を超えた行為でありまたフェアユースにも該当しないとするものであったが,2012年10月,ベア(Harold Baer)連邦地裁判事は,HathiTrustの行為がフェアユースの一例であり著作権の侵害には当たらないと判示した。これに対しHathiTrustは,活動報告書で「図書館及びフェアユースにとっての明白な勝利だった」としている。

 2012年は,フロリダ州立大学,アイオワ州立大学,バージニア工科大学等の12機関がHathiTrustに加わり,参加機関数は78となった。

 また,2012年に新たに追加されたコンテンツは62万点にのぼり,計1,060万点のコンテンツが登録済みとなった。うち31%にあたる327万点がパブリックドメインである。HathiTrustとしての運営が開始された2008年10月に190万点だったコンテンツ数は,5倍以上に増えたことになる。

 各プロジェクトの進捗状況としては,HathiTrustリサーチセンターにおいて2012年9月に開催され,HathiTrust参加機関内外から130人もの研究者,開発者,図書館員が集まった“UnCamp”が取り上げられている。UnCampでは,パブリックドメインとなっているデジタル化資料をHathiTrustのリポジトリから受け取り,そのOCRテキストを計算機で処理するためのシステムを初披露するデモが行われた。

 もう一つの大きなプロジェクトが“mPach”である。ミシガン大学図書館により開発されているmPachは,資料保存及び恒久的なアクセスを目的とし,ボーンデジタルのオープンアクセスジャーナル及びそれに付随する補足資料をHathiTrust内に保管するシステムである。2012年は主に,設計原理,要件及びシステム構成のブラッシュアップ,マイルストーンの設定,mPachのモジュールの設計と開発,ジャーナルのコンテンツをWordファイルからJATS形式のXMLファイルへ変換し補足資料とともにHathiTrustに配信するワークフローの設計と開発,等の項目に重点を置き,プロジェクトが進められた。

 また,HathiTrustのリポジトリシステムの機能改善としては,全文検索機能における複合条件検索を含む検索オプションの採用,CJK言語資料におけるインデキシング機能及びランキングロジックの改善,ミシガン大学図書館のユーザーインタフェース担当部署によるウェブサイトの全面的なデザイン変更がなされたほか,ビューワーであるPageTurnerにおいて,著作権保護期間内にある資料に対して合法的なアクセスが許可されている場合にそれを明示する機能等が追加された。

 2012年はHathiTrustにとって,助成を受け活動していた5年間の立ち上げ期の最後の一年であったが,参加機関の協同の輪は今まで以上に強くなったとしている。事務局長であるウィルキン(John Wilkin)氏は,2012年末に日本で行われた講演(E1389参照)において,これからのHathiTrustの課題として,書誌データの充実,検索性の向上そして参加機関の協同の輪を次のフェーズへと発展させること等を挙げている。立ち上げ期から“new stage”へ進んでゆくHathiTrustの動向が今後も注目される。

(電子情報部電子情報サービス課・南波佐間望)

Ref:
http://www.hathitrust.org/updates_review2012
http://www.hathitrust.org/updates
http://www.hathitrust.org/authors_guild_lawsuit_information
http://www.wired.com/threatlevel/2012/10/fair-use-book-scanning/
CA1760
E1217
E1389