E1389 – 講演会「HathiTrustの挑戦」<報告>

カレントアウェアネス-E

No.230 2013.01.24

 

 E1389

講演会「HathiTrustの挑戦」<報告>

 

 2012年12月18日,国立国会図書館(NDL)東京本館で,講演会「HathiTrustの挑戦:デジタル化資料の共有における『いま』と『これから』」が開催され,合計188名が参加した。

 HathiTrustは米国の大学図書館等が共同で運営しているデジタル化資料のリポジトリで,その活動は,紙/デジタル媒体の文化記録の長期的保存,他システムとの連携,印刷資料の管理支援,著作権調査等,多岐にわたる(CA1760参照)。

 本講演会では,第一部としてHathiTrust事務局長であり,ミシガン大学図書館副館長でもあるウィルキン(John Wilkin)氏の講演,第二部として大向一輝氏(国立情報学研究所コンテンツ科学研究系准教授),竹内比呂也氏(千葉大学文学部教授,同大学附属図書館長),大場利康NDL電子情報流通課長を交えたディスカッションを行った。

 第一部では,ウィルキン氏がHathiTrustの概要紹介とその具体的な戦略目標について講演した。同氏は,HathiTrustの目標として次の3点を紹介し,その達成に参加館が「協同」で取組みを行っている点を強調した。

 1点目は,「学術機関に共有された信頼できるアーカイブの創設」である。これは,Google Books以外でデジタル化されたコンテンツのデータベースへの取込みや,北米の研究図書館センター(CRL)が管理する「信頼できるデジタル・リポジトリのための監査及び認証(Trustworthy Repositories Audit & Certification:TRAC)」に準拠したデータベース構築等を目指すものである。

 2点目は,「コンテンツの長期保存,印刷資料の保管戦略の調整,参加館のための価値の確保等による公益の維持」である。これは,適正なインフラ構築と拡張性の確保,参加館にとって実現可能で適切な費用体系の構築,参加館全てに十分な利益とサービスを提供することを企図している。

 3点目は,「アクセスの向上」である。HathiTrustは,インターフェースの機能改善や全文検索,バーチャルコレクションの提供のほか,他システムとの連携を容易にするため,APIとタブ区切りファイル(Hathifiles)を提供している。

 ウィルキン氏は,「HathiTrustの真の価値は21世紀の図書館の業務・サービスの抜本的な変革のなかで明らかになる」と述べ,今後のさらなる意欲的な取組みを予感させつつ講演を締めくくった。

 第二部では,冒頭で日本側の登壇者が国立情報学研究所,大学図書館,NDLの取組みについてそれぞれ10分程度の簡単な報告を行い,その後,意見交換を行った。

 まず,ウィルキン氏から日本側の登壇者に対し,日本における資料のデジタル化の連携と課題について質問があった。登壇者からは,日本における資料のデジタル化の協働はまだ不十分であること,各機関単独での著作権処理には限界があるため,著作権調査の結果を共有する仕組みが求められること等が述べられた。

 次に日本側の登壇者とウィルキン氏との間で,HathiTrust事業の意義と参加のメリット,HathiTrustとGoogle Booksの違い,HathiTrust登録資料のメタデータの作成や同定,デジタル化資料の著作権処理の問題等について,活発な意見交換がなされた。

 最後に,会場からウィルキン氏に対し,「ミシガン大学は特に人文科学分野の資料のデジタル化を先駆的に行っているが,デジタル化資料の公開が人文科学の研究にどのような影響をもたらしたか」という質問があった。これに対しウィルキン氏から,「デジタル化資料の公開が研究にもたらした変化について定量的な評価を行うのは時期尚早であり,この分野については,2011年に設立されたHathiTrustリサーチセンターで調査・分析を進める」との回答があった。

 HathiTrustは,著作権処理や資料のデジタル化等の成果及び費用の負担を参加館で共有する仕組みが非常にうまく機能しており,今回の講演会は,今後の日本における図書館の提携によるデジタル化された知的資源の共有の在り方を考えるにあたり,大いに示唆に富むものであった。

 なお,ウィルキン氏の講演資料は,NDLホームページで公開されている。

(総務部支部図書館・協力課)

Ref:
http://www.hathitrust.org/
http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/20121218lecture.html
CA1760