E1773 – 識別子の架け橋:国際標準名称識別子ISNI

カレントアウェアネス-E

No.299 2016.03.03

 

 E1773

識別子の架け橋:国際標準名称識別子ISNI

 

 国際標準名称識別子(International Standard Name Identifier:ISNI)は,知的創作物やコンテンツに関連する個人及び組織に付与される国際的かつ分野横断的な識別子である。システムや識別子の維持管理主体に依存しないオープンな「架け橋としての識別子」(bridge identifier)を目指して設計され,2012年に国際規格ISO 27729:2012として発行された。ISNIの体系は16桁のシンプルなもので,15桁の数字と1桁のチェックディジットからなる。例えば小説家・村上春樹氏のISNIは「0000 0001 2146 8778」である。2016年2月時点でISNIの付与対象である「公開アイデンティティ」(Public Identity)は約900万件に及び,うち約255万件は研究者,約53万件は組織である。本稿ではISNIの概要を,特に「架け橋」としての機能に焦点を置いて説明する。 

●ISNIのミッション

 ISNIが登場する前は,図書館界,学術研究コミュニティといった分野ごとに,VIAF ID(後述)やORCID(CA1740参照)などの名称に関する識別子があったが,分野横断的な相互運用性のある国際標準がなかったため,創作に関連する情報を正確に交換・共有することは困難だった。このような状況において,ISNIは設計された。ISNIの付与対象は分野を問わず,発明家,著作者,芸術家(集団),バンド,劇団,出版社,研究機関,データセンターなど個人,団体,法人にまで及ぶ。ISNIは公開アイデンティティの識別に必要な最小限のメタデータしか持たないが,関連情報や詳細を参照できるURI等の情報を保持している。ISNIは,Wikipedia,VIAF,フランス国立図書館(BnF)の蔵書目録,Bowker社の書籍流通用メタデータONIX2.1のデータ,世界の研究機関情報データベースGRIDなどで導入され,各分野のIDの架け橋として機能している。 

●ISNIの組織体制

 ISNIを管理しているISNI国際機関(International Agency:ISNI-IA)は,欧州国立図書館長会議(CENL)や国際複製権機構連合(IFRRO)などの創設メンバーから構成され,ISNIのデータモデルの方針やシステム開発の計画を策定している。ISNI-IAの下にはISNI-AA(Assignment Agency)と品質管理チームがある。ISNI-AAはISNIの情報源を提供するISNI登録機関(Registration Agencies:RAGs)とISNIメンバーから成る。RAGsは他機関の代わりにISNIを付与することができ,現在のRAGsはBnF等3機関だけである。これに対して自身のデータにISNIを付与するISNIメンバー(ISNI Members)は,2016年2月現在,米国議会図書館,ハーバード大学,ISSN国際センター等の17機関である。一方,品質管理チームは,英国図書館,オランダ国立図書館,BnFに置かれ,典拠コントロールの専門家が継続的に,ISNIの分割・統合・削除といった作業を行っている。 

●ISNIの付与単位

 ISNIは,言語や綴りの違い,略称を同一に扱い,付与される。例えば,19世紀ロシアの作曲家チャイコフスキーには「チャイコフスキー, ピョートル」「Tchaikovsky, Peter Ilich」「Чайковский, П.」など異なる綴りや略称があるが,1つのISNIが付与されている。一方,筆名を使い分けている場合などは,それぞれに別のISNIが付与される。ただし,異なる筆名や別名が同一人物や同一組織であるなどということが公表されている場合は,ISNIのメタデータ要素“related ISNI”を用いて関連するISNIを記述したり,メタデータ要素“relationship”を用いてその関係性を記述したりする。例えば,『ハリー・ポッター』シリーズの著者「J・K・ローリング」は,「Galbraith, Robert」という名前で探偵小説を出版して話題になったが,この2つの名前には異なるISNIが付与されている。そのため,“related ISNI”に互いのISNIを,“relationship”に他のアイデンティティの名称と同一人物である旨を記述することで,アイデンティティ同士の関係を示している。 

●ISNIの付与方法と情報源

 ISNIの付与には,大きく4つのプロセスがある。
(1)データの重複を防ぐための情報源の有効性と情報充実度の確認
(2)追加データと高精度でマッチする既存データの選択
(3)OCLCがVIAFで開発したアルゴリズムを用いたマッチングの評価
(4)既存データと追加データの統合及び格納 

 特にISNIはデータの信頼性に重点を置いており,(2)では,十分に信頼できる情報源に由来する名称であっても,他のどのデータともマッチせず,ISNIのデータベースにも見当たらない場合,人手で確認した上でISNI内に新たに基本ファイルとして位置づけ,ISNIを付与している。

 現在,ISNIのデータベースはOCLCが管理,分析,アルゴリズムの改善を行っており,Wikipediaの音楽版MusicBrainz,機関情報のRinggold Institutions,欧州図書館のThe European Network,VIAFなど世界の様々なデータベースを情報源としている。また,ORCIDとは2013年に相互運用性のための協力の覚書を取り交わしている。そのほか,ISNIの重要な情報源の一つであるVIAFでは,同定処理によってデータをクラスター化(グルーピング)し,そのクラスターにVIAF IDを付与している。VIAF IDはISNIと類似しているように見えるが,大きな違いがある。VIAFのクラスター化は自動処理が基本であるためVIAF IDは元データへの依存度が高く,元データに変更があればクラスターも変化する場合もある。一方,ISNIは,元データから独立的だと言える。ISNIでは,提供されたデータを人手で確認して,必要があれば分割・統合する。また,手作業で修正したデータが変更されないように保護する場合もある。データ修正は品質管理チームが担当し,利用者からのフィードバックを確認・分析し,その結果を活用している。

 2011年のISNIのデータベース公開以来,ISNIは普及が進み,2016年2月1日には,韓国国立中央図書館がISNIメンバーとして同館の著者データベースに含まれる韓国人の著者に対してISNIの付与を開始すると発表した。データの信頼性を期したIDであるISNIのさらなる普及に期待したい。

電子情報部電子情報流通課・福山樹里

Ref:
http://www.isni.org/
http://www.iso.org/iso/catalogue_detail?csnumber=44292
http://library.ifla.org/985/
http://isni.org/isni/000000012148628X
http://www.ifrro.org/sites/default/files/2014_06_25_isni_a_bridge_webinar_angjeli_1.ppt
http://dx.doi.org/10.1080/01639374.2012.730601
http://www.ringgold.com/blog/progress-isni-ringgold-id-and-orcid
https://www.digital-science.com/products/grid/
http://orcid.org/blog/2013/06/27/orcid-plans-launch-affiliation-module-using-isni-and-ringgold-organization
https://www.researchgate.net/publication/280566836_I2_and_ISNI_Expanding_the_Use_of_an_Identifier_to_Serve_Multiple_Needs
http://support.orcid.org/knowledgebase/articles/115265-what-is-the-relationship-between-isni-and-orcid
http://www.nl.go.kr/nl/commu/libnews/article_view.jsp?board_no=8392%C2%ACice_type_code=3&cate_no=4
CA1740
CA1747