E1774 – 研究成果の計量的指標に関するガイド<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.299 2016.03.03

 

 E1774

研究成果の計量的指標に関するガイド<文献紹介>

 

Roemer, Robin Chin.; Borchardt, Rachel. Meaningful metrics: a 21st century librarian’s guide to bibliometrics, altmetrics, and research impact. Association of College and Research Libraries, 2015, 241p, ISBN 978-0-8389-8755-1.

 研究成果の影響度を,Twitterからの言及数や文献管理ソフトへの登録数など,従来用いられてきた論文の被引用数に基づく指標とは異なる手法で測ろうというaltmetricsの試みが世界的に注目を集めている(E1504E1593E1752参照)。日本の大学図書館員等からの関心も高まりつつあるものと思われるが,では具体的に自身の業務にaltmetricsがどう関わってくるのか,想像がつくだろうか。Web of ScienceやJournal Citation Reportsのような,論文の被引用数に基づく指標を閲覧できるデータベースの講習を行う大学図書館は少なくないが,例えばaltmetricsについて同じような講習を開くことはできるだろうか。あるいは,教員や大学院生に「自分のaltmetricsを知りたい」と質問されたら,対応できるだろうか。

 このようなaltmetricsを実務につなげる場面で助けとなるのが本書である。著者はワシントン大学図書館のRobin Chin Roemer氏とアメリカン大学図書館のRachel Borchardt氏の二人の図書館員である。また,altmetricsを代表するウェブサービス“Impactstory”の共同創設者であるJason Priem氏とHeather Piwowar氏が序文を寄せている。この序文の中で両氏は,図書館員は,研究者や大学経営層が計量的指標を扱う上で独自の役割を果たしうるとしている。

 本書発行の動機は序文にあるとおり,altmetricsについて図書館員向けのガイドを提供することにあるが,扱う範囲はaltmetricsのみにとどまらない。本書は4部に分かれており,各部が2章ずつを含んだ全8章構成をとっている。第1部は研究インパクト(impact)総論,第2部は従来の被引用数に基づく計量書誌学的指標(bibliometrics),第3部はaltmetricsを取り上げており,これらの部はそれぞれが背景や指標そのものの説明を行う“Understanding”の章と,具体的な指標の確認方法や,業務につなげる上でどのような方法があるのか,どういったことを考える必要があるかを述べた“In Practice”の章から成っている。第4部は各論(Special Topics)であり,分野ごとの違いに関する章(Disciplinary Impact)と,図書館員の役割に関する章(Impact and the Role of Librarians)を含んでいる。後者ではそれまでの“In Practice”の章で挙げられたことに加えて,図書館員が果たすべき役割,さらに今後図書館員が担うことになりうる役割等がまとめられている。

 本書の特長はまずその構成の妙にある。研究インパクト,計量書誌学的指標,altmetricsのそれぞれについて,理解を深める章と実践につなげる章という「型」を設けることによって,教科書的な読みやすさ・理解しやすさが生まれている。また,研究インパクトに関する部では研究成果の計量指標を4つのレベル(個別の研究成果そのものが対象,雑誌等の成果発表の場が対象,個別の研究者が対象,グループや機関が対象)に分けて説明しているが,このレベル分けを他の章における指標の説明でも用いることによって,どの計量書誌学指標とaltmetricsが対応関係にあるのか,あるいはそれぞれの指標やサービスはどの段階を評価することができるものなのか,といったこともわかりやすくなっている。“In Practice”の章は各データベースやサービスをどう使うかという説明に終始せず,具体的な業務にどう応用するのか(例えば自館の研究者向けのガイドをどう作るのかや,研究者からの質問・依頼にどう対応するのかなど)にまで踏み込んでいる。各章末尾に各図書館で考えるべきことや,より深く学ぶためのウェブサイト・文献等も紹介されており,まさに実務のための「教科書」として使えるものとなっている。

 また,計量的指標を実務につなげようという図書館員は,具体的なサービスの情報やその使い方だけではなく,指標の限界や注意点を知ること,そして指標を扱う者に求められる態度を身に付けることも必要である。その点において,本書は優れたバランス感覚を見せている。例えば,第1部では「厳密にいえば,そもそも研究成果のインパクトを測ることは不可能である」と明言されている。どのような指標も研究成果の一側面を見たものでしかなく,万能の指標など存在しないというのは計量指標を扱う上で最も注意すべき点の一つであるが,本書でも徹底してその態度が貫かれている。また,研究分野を横断して指標を用いることの危険性も計量指標を扱う上で留意すべきことであるが,本書はその点について単に注意を述べるにとどまらず,前述のとおり1章を割いて分野ごとの違いを詳細に説明している。

 このように,本書は研究成果に関する計量指標を扱う者に求められる態度を養うとともに,実践へのガイドを提供しようというものである。これからaltmetricsを業務に取り入れようという大学図書館員はもちろん,altmetricsに限らずリサーチ・アドミニストレータ等の研究評価に関わる者や,自身の研究成果のインパクトを測ることに興味を持ち始めた研究者にとっても有益と言えよう。

同志社大学・佐藤翔

Ref:
http://www.ala.org/acrl/sites/ala.org.acrl/files/content/publications/booksanddigitalresources/digital/9780838987568_metrics_OA.pdf
E1504
E1593
E1752

 

 

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