E1752 – The 2015 Altmetrics Workshop<報告>

カレントアウェアネス-E

No.295 2015.12.24

 

 E1752

The 2015 Altmetrics Workshop<報告>

 

 2015年10月9日,オランダのAmsterdam Science ParkでThe 2015 Altmetrics Workshop(以下altmetrics15)が開催された。Altmetrics Workshopは今回が4度目の開催で,欧米・アジアなどから,altmetricsに関わる研究者・大学図書館員など約80名が参加した。

 altmetrics(E1593参照)とは,研究成果の影響度を従来の被引用数に基づく指標とは異なる手法で測ろうという試みである。例えば,ある論文がSNSなど,インターネット上でどの程度注目を集めたかを数値化するもので,altmetricsの指標を提供する具体的なサービス(以下altmetricsプロバイダー)としては,Mendeley(CA1775参照),Altmetricなどが挙げられる。2010年に“altmetrics: a manifesto”(以下altmetrics manifesto)が提唱され,2015年で5年目を迎えた。この節目の年に,altmetrics15は“5 years in, what do we know?”というテーマを掲げて開催され,5つのセッションと分科会で構成された。

 筆者は,altmetrics15の前日まで開催されていた,第2回Altmetrics Conferenceにポスター発表を目的として参加しており,altmetrics15には,altmetricsに関する情報収集を目的に参加した。

 altmetrics15では,altmetricsを分析した調査結果が数多く発表され,またaltmetricsの品質に関して提言されるなど,多様なトピックに関するセッションが開かれた。本稿では,筆者が関心をもった講演を取り上げる。

 最初のセッション“Analyzing altmetrics”では,シンガポール・南洋理工大学のMojisola Erdt氏らによる“Altmetrics of altmetrics literature”という講演があった。Erdt氏らは,エルゼビア社の抄録・索引データベースScopusで“altmetrics”をキーワード検索し,391件の検索結果を得た。これらの論文から112件を抽出し,ソーシャルメディア毎に分類して「altmetricsに関する論文のaltmetricsを調査」した結果,「全ての論文にAltmetricスコアが付いており,97%もの論文がTwitterで言及され,77%の論文がMendeley上で読まれていた」と発表した。提唱されて未だ5年しか経っていないaltmetricsが研究対象となっていること自体にまず驚きがあり,SNSでは,FacebookよりもTwitterが,文献管理サービスでは,CiteULikeなどよりもMendeleyのほうがaltmetricsに強い影響力を持つことが示された。

 3つ目のセッション“Data quality”で,オランダ・ライデン大学のZohreh Zahedi氏らによって発表された“Consistency among altmetrics data provider/aggregators: what are the challenges?”では,3つのaltmetricsプロバイダーであるMendeley,Lagotto,Altmetric間でデータの一貫性を調査した結果,矛盾があることが明らかになった。

 MendeleyやTwitterなどが公開するAPIを利用する各altmetricsプロバイダーであるが,それぞれにおいてデータ収集に独自のアルゴリズムがある。altmetricsの信頼性を高めるためにも,データ収集方法の標準化が迫られていると感じた。altmetricsプロバイダーは,DOI(CA1481CA1836参照)やPMID(PubMedでの論文ID)といった研究成果の識別子を参照元としてデータを集積するのだが,MendeleyのWilliam Gunn氏からは,「同一研究成果に対する複数のDOIに対してもサポートすべきではないか」との提言があった。例えば,figshareやResearchGate(CA1848参照)に異なるプレプリントを登録し,更に機関リポジトリでも公開された場合,同じ研究成果に対して複数のDOIが付与されることになる。altmetricsプロバイダーは記事レベルで「名寄せ」を行った上でのaltmetrics提供が求められそうである。

 最後に,セッション4“Differentiating between various types of audiences and impact”にてドイツ・ハインリッヒ・ハイネ大学のNatalie Friedrich氏らが発表した“Do tweets to scientific articles contain positive or negative sentiments?”を紹介する。研究成果がTwitterで言及される際,言及内容にポジティブ,ネガティブいずれの評価・感想が含まれているかを分析した調査で,この概念は“SentiStrength”と名付けられた。調査結果は,11.0%がポジティブな内容で,7.3%がネガティブなもの,それ以外の81.7%は分析できなかったという。altmetrics manifestoが創案されて間もない2011年12月,論文“Can Tweets Predict Citations? Metrics of Social Impact Based on Twitter and Correlation with Traditional Metrics of Scientific Impact”が発表され,Twitterによるインパクトが注目されたように,何らベクトルを持たない(感情が入っていない)ツイートや自動的にツイートされるボットをフィルタリングすることで,Twitterによるインパクトを評価指標としてより有効に使えるのではと感じた。

 以上のセッションから,altmetricsを研究評価に利用するに当たり,いくつかの課題が示唆されたが,それらを解決することでaltmetricsは有用となり得ると思われる。altmetricsプロバイダーの混在により,データの一貫性に問題があることは指摘されたため,データのみを用いて,的確な研究評価を行うことは困難であろうが,だからといってaltmetricsを全く使えない指標だと切り捨てるのではなく,どうすれば,偏りのないデータ収集が可能となるか,この新たな指標をどのような目的で,何を対象に使うのか,などaltmetricsの標準を追求する取組が重要ではないだろうか。その意味では,2015年末に公開が予定されている米国情報標準化機構(NISO)の「altmetricsに関する標準・推奨指針」が期待される。

 まだ関心を持つ人が少ないaltmetricsであるが,altmetricsはオープンアクセス活動においても重要な要素である(E1360参照)ことが学術コミュニティの間で共通認識とされ,国内においても注目が高まっている(E1504参照)。国内からも事例や研究を発表する研究者・図書館員が数多く現れ,今後のAltmetrics Workshopの場などで様々な知見が共有され,altmetricsへの理解が深まり,普及することを願っている。

 なお,altmetrics15の発表内容は24本あり,その全ての要約や全文がウェブサイトで公開されているので参考にされたい。

MyOpenArchive・坂東慶太

Ref:
http://altmetrics.org/altmetrics15/
http://altmetrics.org/manifesto
http://altmetrics.org/altmetrics15/program/
http://www.altmetricsconference.com
http://altmetrics.org/altmetrics15/erdt/
http://support.altmetric.com/knowledgebase/articles/84649-about-altmetric-and-the-altmetric-score
http://mendeley.com
http://www.citeulike.org
http://altmetrics.org/altmetrics15/zahedi/
http://lagotto.io
http://figshare.com
http://altmetrics.org/altmetrics15/friedrich/
https://dx.doi.org/10.2196/jmir.2012
http://www.niso.org/topics/tl/altmetrics_initiative/
http://webscience.org/category/acm-websci/
E1593
E1360
E1504
CA1775
CA1481
CA1836
CA1848