E1751 – 「図書館に関係する著作権の動向2015」<報告>

カレントアウェアネス-E

No.295 2015.12.24

 

 E1751

「図書館に関係する著作権の動向2015」<報告>

 

 2015年10月24日,日本図書館研究会主催のセミナー「図書館に関係する著作権の動向2015」が開催された。図書館と著作権との関係の振り返りから,環太平洋戦略的経済連携(TPP)協定,デジタルアーカイブ,視覚障害者等の情報保障に関する動向まで広範かつ最新の内容を学べるセミナーで,関東から九州まで全国各地から参加者が集まり,関心の高さをうかがわせた。

 まず,セミナー前半には,4本の講演が行われた。

 1人目の国立国会図書館の南亮一氏からは著作権制度に関する「権利」と「権利制限規定」の構図,近年に行われた複数回の著作権法改正や,著作権制度の厳格化・自由化双方の動向が紹介された。図書館の活動が著作権制度と深く関わっていること,著作権制度は刻々と変化しているものであり,その動向には関心を払うべきことが理解できる内容であった。

 続いて福井健策弁護士からは,TPPの知的財産条項を軸に,その背景と目的,懸念される影響など,具体的事例を織り交ぜながら講演があった。

 出版・音楽等文化産業の市場縮小と海賊版対策,米国提案の条項がほぼ導入され知的財産ルールの米国化が起こる,といった大きな背景について説明があり,図書館界では知る機会の少ない話題であった。また,TPPは国内法に優先することから,TPPの知的財産条項が日本の著作権制度に大きな影響をもたらすであろうと思われた。

 TPPの知的財産条項は「最適な知的財産ルールはどこにあるのか」「TPPが最適なのか」「知的財産のルールメイカーは誰か」という問いを世界に投げかけていること,国内適用の際はフェアユース規定など日本モデルの知的財産ルール確立を模索すべき,など福井氏の指摘は明快で示唆に富むものであった。今後は著作物の製作・取扱者に対して著作権教育を強化すべき,という提言も印象的であった。

 東京大学の生貝直人氏からは,国内外のデジタルアーカイブと著作権制度の動向について講演があった。

 Europeana(CA1785参照)など海外のデジタルアーカイブは大規模な文化資源プラットフォームであるが,日本では分野ごとの構築が進んでいる。内閣の知的財産戦略本部が策定した「知的財産推進計画2015」では今後の施策として,アーカイブ間の連携促進等が挙げられているが,運営機関独自の利用条件の存在など利活用の促進に課題がある。

 アーカイブの利活用促進のため,「知的財産推進計画2015」や文化審議会著作権分科会では,孤児著作物に関する著作権制度見直しに触れられており,手続の簡素化や利用緩和を促す結論が出された。特に,著作権法第31条の「図書館等における複製」は,複製できる資料や「図書館等」の示す範囲が拡大し,国立国会図書館によるデジタル資料の図書館送信が可能となったことは,改めて図書館の業務に深く関わる変化として留意すべきと感じた。

 日本障害者リハビリテーション協会情報センターの野村美佐子氏は,(1)視覚障害者等の情報保障に係る国内における著作権をめぐる各種活動及び著作権法改正,(2)図書館における障害者サービス拡大について講演された。2010年2月に日本図書館協会等が策定した,「図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条3項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン」にも触れられた。

 世界の動向としてはマラケシュ条約(CA1831参照)の採択があり,日本の批准には障害者団体からの要望と権利者団体との調整や国内法の改正が必要となっている。野村氏によれば,「視覚障害者等」と総称しているが,その障害の種類は幅広く,さまざまな情報ニーズを拾い上げる必要がある,とのことであった。

 セミナー後半は討議で,参加者からTPP関連を中心に多くの質問が寄せられた。以下では,講師陣による回答の一部を紹介する。

 現行の国内の著作権制度へのTPPの影響については,権利侵害の非親告罪化や,実際の被害額以上の賠償額を請求され得る法定賠償金制度の導入といった変化が生じることも考えられ,TPPの主目的である海賊版対策とは異なる面でも影響が出ることが課題として挙げられた。これらの影響を抑える「セーフガード」として,日本型フェアユースの導入に関する議論が行われると予測されるとのことであった。世界の潮流は情報流通の促進にあり,次代の情報ルールを考える機会となる,と結ばれた。

 TPPやマラケシュ条約に対応する国内法改正については,過去に採択されながら発効しなかった偽造品の取引の防止に関する協定(ACTA)の例も挙げながら,慎重に検討すべき,と述べられた。

 アーカイブにおける肖像権などの権利侵害のリスクについては,ガイドラインの策定も検討されているが,ケースごとの判断となる場合も多いであろうと指摘され,アーカイブの運営機関では,そうした権利侵害のリスクについて判断ができる人材の育成と確保が必要になるとのことであった。

 講師陣からは,日本の著作権制度が今後どうあるべきか,関係者として個人や団体の意見を積極的に発信してもらいたい,と会場への語りかけがあり,総括をもって終了した。

大阪大学附属図書館・小村愛美

Ref:
http://www.nal-lib.jp/events/seminar/2015/invit.html
http://togetter.com/li/890791
http://www.kantei.go.jp/jp/headline/tpp2015.html
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/chizaikeikaku20150619.pdf
https://www.jla.or.jp/portals/0/html/20100218.html
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/ipr/acta.html
CA1785
CA1831