E1620 – Europeanaの2015-2020年の戦略:文化で世界の変革を

カレントアウェアネス-E

No.269 2014.10.30

 

 E1620

Europeanaの2015-2020年の戦略:文化で世界の変革を

 

  欧州文化遺産プラットフォームEuropeanaの,2015年から2020年を対象とした戦略“Europeana Strategy 2015-2020”が発表された。「文化で世界を変える」というサブタイトルが示すように,前5年の戦略計画(E1148CA1785参照)で示されたEuropeanaの目的を引き継ぎ,多くの関係者を巻き込みながら,文化資源の提供により,欧州の社会的経済的発展の実現を目指す戦略が示されている。

 冒頭では,Europeanaの定義を再確認し,三つの行動原則を掲げている。一つ目は,社会や経済を変える触媒としての文化を,情報技術を活用して「利用しやすく(usable)」すること。二つ目は,文化機関から商用ソフトウェア開発者に至るまでが連携したネットワークとして,各機関「相互(mutual)」の創造的協同,チームワークでイノベーションを生み出すこと。三つ目は,文化機関の代表として,文化遺産の保護を推進し,「信頼できる(reliable)」デジタルデータを提供することとしている。

 次いで,Europeanaがなすべきことを,優先順位とともに示している。欧州の文化遺産3億件のうち,10%しかデジタル化されておらず,そのうちオンラインで利用できるものは34%,再利用されたものはたった3%であったという。これをふまえ,当面の目標として,デジタル化されている10%について,より利用しやすくすることが掲げられている。また,社会的・経済的利益を生み出せるよう,標準化の推進,新しい技術の導入,著作権法の改正,新しいビジネスモデルの構築を通じて,文化機関のコンテンツ公開を支援していくとしている。

 その実現にあたっては,2014年の事業計画(E1557参照)で示されたように,ポータルから「多面的」プラットフォームへというコンセプトを打ち出している。人々が,コンテンツを再利用したり,遊んだり,コンテンツを介して他の人と交流したりすることを可能にするために,より多くの品質の高いコンテンツと開かれたインフラが必要であるとする。それを実現するプラットフォームは,(1)メタデータ,コンテンツ,技術からなる「コア」,(2)データにアクセスするためのポリシーやインタフェースを提供する「アクセス」,(3)エンドユーザー(end-users),新規サービス製作者(creatives),文化機関の専門職(professionals)の三つの利用者グループを想定する「サービス」の三つのレベルで構成するとしている。そして,この3層に対応する形で,三つの優先課題が示されている。  

 第一の課題はコアレベルに関するもので,データの質の改善である。各機関の最良のコンテンツを共有し人々を惹きつける,よりオープンなライセンスを適用する,収集プロセスを改善することで,Europeanaから利用できる文化資源を3倍に増やせるとしている。第二の課題はアクセスレベルに関するもので,データのオープン化である。各データを著作権の範囲内でよりオープンに利用・再利用できるようにする,パブリックドメインのデータについては制約なしに再利用できるよう協力機関や政策立案者と共同で取り組む,パブリックドメイン憲章(E1043参照)や公的資金を投じてデジタル化した資料をオンラインで公開することを求める欧州委員会(EC)の“The New Renaissance”レポート(E1143参照)の適用を働きかけていく,すべての資料のメタデータをオープンにする,といったことなどが示されている。第三の課題はサービスレベルに関するもので,三つの利用者グループ間で相互に価値が循環する「コモンズ(Commons)」を育てていくことである。

 今回の戦略においては,Europeanaは利用者にどのような利益をもたらすのかといった,経済的なインパクトへの意識が示されていることが特徴といえよう。直接的な経済効果の測定は困難であるとしながらも,質的な分析や,ログと利用者行動の分析を行い,Europeanaにはポジティブな効果,影響が期待できるという洞察が得られたとしている。また,著作権のような主要な課題の解決やEuropeana 1914-1918(E1535参照)など欧州全体の関心事を扱うことが最も効果的であるとも指摘している。今後,Europeanaが成功しているか否かについては,

  • 社会や文化のより深い理解のためにどのような貢献をしてきたか。
  • 公平かつ持続可能な方法で集団的な経済福祉に対してどのような貢献をしてきたか。
  • 直面する課題を解決できる力を備えたネットワークの改善や強化のために何をしてきたか。

という三つの観点で評価していくとしている。

  Europeanaの財源については,まずは公的資金である,EUの政策パッケージConnecting Europe Facility(CEF)が挙げられている。ただし,この予算の大幅削減(90億ユーロから10億ユーロへ)を背景に,Europeana自身の継続的な財政計画や,多様な財源を得ることが求められることとなった。そこで,パートナーを共同経営者とすること,具体的には,Europeana Cloud(E1539参照)の高品質なサービスについては参加機関から費用負担を求めること,創造産業によるコンテンツの再利用を促進し,収益を上げることで「消費者」から「顧客」とすること,効率性を追求することが挙げられている。

 新たな戦略の実現にあたっては,運営やアカウンタビリティの再検討が行われ,ネットワークとしてのEuropeanaを体現する新しい運営の仕組みの構築が予定されている。

関西館図書館協力課・篠田麻美

Ref:
http://pro.europeana.eu/documents/858566/640ac847-0dfc-4b01-9f36-d98ca1212ec9
http://europa.eu/rapid/press-release_IP-11-17_en.htm?locale=nl
http://pro.europeana.eu/documents/858566/0610b04a-8100-4c8a-8043-114515001043
http://pro.europeana.eu/documents/858566/be4bb60a-403f-4351-a976-b1b5b5a80765
http://pro.europeana.eu/documents/858566/39966841-b158-4d5e-bafe-320df5d1db1c
http://pro.europeana.eu/documents/858566/73f29c36-ad97-4cbe-b82a-95a28d72e6d5
CA1785
E1043
E1143
E1148
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