カレントアウェアネス-E
No.187 2011.02.03
E1143
「デジタルルネサンス」に向けた欧州委員会への提言
2011年1月10日,欧州委員会(EC)情報社会・メディア総局の有識者委員会(Comite des Sages)が,報告書“The New Renaissance”をECへ提出した。報告書では,博物館,図書館,文書館等の文化機関の所蔵資料をデジタル化して公開することが,文化や知識へのアクセス向上につながり,教育面でも大きな効果があること,また,デジタル化の新たな技術とサービスの発展に寄与するとして,経済的な利益をもたらすものであると述べられている。そして報告書では,その環境整備のために,6項目の提言が示されている。各項目の主たる内容は次の通りである。
<デジタル化されたパブリックドメイン資料へのアクセス向上と利用促進>
- 文化機関は,公的資金でデジタル化したパブリックドメイン資料をできる限り幅広く利用できるようにすべきである。
- 文化機関が作成したメタデータは広くかつ自由に利用できるようにされるべきである。
<著作権保護対象資料のデジタル化とオンラインアクセスの促進>
- 孤児作品に関する法的文書は早急に採択される必要があり,今後孤児作品が生じないような手段が講じられなければならない。
- 欧州各国政府とECは,流通していない作品のデジタル化と国境を越えたアクセスを保証すべく努めるべきである。
<Euroepanaを欧州文化へのレファレンスポイントとするための機能強化>
- Europeanaはオンラインでの欧州の文化遺産の唯一のレファレンスポイントとなるべきであり,そのために欧州全体および欧州各国の財源・政治的資本を集中させるべきである。
- 公的資金によってデジタル化された全ての資料について,Europeanaを通じてアクセス可能な状態とするよう,欧州各国は努めるべきである。併せて,2016年までに全てのパブリックドメインにある主要な著作物をEuropeanaに登録するようにすべきである。
<デジタル資料の継続性の保証>
- デジタル化資料とボーンデジタル資料の保存は,文化機関が責任をもって行わなければならない。
- 著作権法及びその関連法制は,文化遺産機関に保存のための複製を可能とするようなものでなければならない。
- 欧州レベルで,文化機関が所有するデジタル資料の永続的識別子に関する取り組みが行われなければならない。
<資料デジタル化とEuropeanaの継続的な財政基盤の確保>
- 公的機関は資料デジタル化を進める主体としての責任があり,各国政府はデジタル化への資金投入を大幅に拡大させる必要がある。
- 各国政府は,資料デジタル化事業が欧州の企業にとっての新たなビジネスチャンスとなるように努めるべきである。
<私企業との提携関係による,公的機関の資料デジタル化財源の補完>
- 私企業との提携関係を結びながら,公的機関の利益を確保するためには,公的機関と私企業との間の契約内容を公にすること,欧州各国の一般市民がデジタル化されたパブリックドメイン資料を無料で利用できること等が最低限必要である。
報告書では,欧州の市民や経済が,オンラインで提供される欧州の文化遺産によって,最大限に利益を得られるようにするため,私企業ではなく,欧州各国の政府や文化機関,EC等が自らの責任を果たすべきと繰り返し強調している。そして,「我々の目標は,欧州をデジタル暗黒時代へと突入させるのではなく,デジタルルネサンスの時代を迎えさせることにある」と括られている。
Ref:
http://ec.europa.eu/information_society/activities/digital_libraries/doc/reflection_group/final-report-cdS3.pdf
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=IP/11/17&format=HTML&aged=0&language=En&guiLanguage=en