カレントアウェアネス-E
No.187 2011.02.03
E1142
研究者の電子ジャーナル利用行動調査の最終報告書(英国)
英国の研究情報ネットワーク(RIN)は,2011年1月に,研究者の電子ジャーナル利用行動に関する2年間の調査プロジェクトの最終報告書“E-journals: their use, value and impact final report”を公表した。プロジェクトの第1フェーズの調査結果は2009年4月に公表されており,最終報告書では,第2フェーズの調査結果が掲載されている。
第1フェーズでは,10の機関の6つの分野(生物科学,化学,地球・環境科学,経済学,物理学,歴史学)の研究者について,電子ジャーナル提供サイト(ScienceDirect及びOxford Journals)へのアクセスログが分析され,行動の傾向等が示された。第2フェーズでは,そうした傾向の詳細や要因について,インタビューや質問紙調査等の調査結果を基に分析が行われた。
ログ分析では電子ジャーナル提供サイトの滞在時間が短く検索機能も使われていないことが明らかになっていたが,インタビュー調査により,研究者は,情報検索にはGoogle,Web of Knowledge,PubMedなどのサイトを好み,ジャーナル提供サイトは目的の論文を得るために利用されているということが確認できたとしている。このようなサイトが好まれる理由として,多くの雑誌タイトルの記事に加え学会発表やテクニカルリポート等の多様な情報が検索できること,検索結果やリンクから偶然の発見があること,直感的に使えること等が挙げられている。
質問紙調査では,各学問分野の研究者とも,60-80%が電子ジャーナルを毎勤務日かほぼ毎勤務日に利用していることが判明した。学問分野ごとの特徴の例として,歴史学者は毎日利用するという割合が16%と最も低いが,1回あたりの利用時間は比較的長いことが挙げられている。これは,自然科学分野と比べると歴史学分野の資料はその長さ等のために必要な情報を得るのに時間がかかるという特性等によるとされている。アクセスの問題についても,自然科学分野ではオープンアクセスで利用できる資料も多いのに対し,歴史学では,電子化が進んでいないことや言語の問題等,課題が多いと指摘している。
論文の読み方については,重要なポイントや自分の研究に関係のある部分のみを読むという研究者が約4割であった。このような読み方は以前から行われていたが,電子ジャーナルの普及によりさらに行いやすくなり,それが電子ジャーナルの利用増の要因にもなっていると指摘している。また,研究者の情報探索行動は,研究室,自宅,移動中など図書館の建物の外からや,勤務時間外や週末に行われることも多いという結果を踏まえ,研究者は図書館資料をどこへでも持ち運ぶことができると認識していると指摘している。紙版の雑誌を読むために図書館を訪れるのは,人文系の研究者を中心とする14%のみであった。
電子ジャーナルが論文執筆に与える影響に関しては,1990年から2007年までの論文の参照文献リストの分析が行われており,アクセスできる電子媒体資料の増加と分野横断的な総合的な検索ツールにより,以前よりも幅広い情報源からの多くの文献が参照文献として挙げられるようになっているとしている。
また,関連する情報として,図書館と電子ジャーナルをめぐる,2004年から2008年にかけての状況の変化がまとめられている。2004年を100とした場合の2008年の数値として,電子ジャーナルへの支出は141.7,紙の雑誌への支出は80.9,電子ジャーナルのタイトル数は131.8,紙の雑誌のタイトル数は68.6,論文のダウンロード数は262.1,図書館間貸出の利用冊数は66.7等の数値が挙げられ,図書館の電子ジャーナル関連サービスの拡充傾向が示されている。
Ref:
http://www.rin.ac.uk/our-work/communicating-and-disseminating-research/e-journals-their-use-value-and-impact
http://www.rin.ac.uk/system/files/attachments/Ejournals_part_II_for_screen_0.pdf