E1539 – Europeana Cloud:Europeanaのクラウド化計画

カレントアウェアネス-E

No.255 2014.03.06

 

 E1539

Europeana Cloud:Europeanaのクラウド化計画

 

 欧州のデジタル文化遺産ポータルEuropeanaでは,2013年から2015年末までの3か年にわたってクラウド化を進める“Europeana Cloud”プロジェクトが進行中である。2013年1月のプロジェクト開始から1年余りが経過し,興味深い成果も報告され始めている。

 Europeana Cloudプロジェクト,正式名称“Europeana Cloud: Unlocking Europe’s Research via The Cloud”は,クラウドベースのインフラを構築し,メタデータとコンテンツを収集・提供することで,各国の文化機関のコスト削減と,研究利用の促進を図ることを目的としている。これらの実現のため,次の7つの作業計画(Work Plan:WP)が提示されている。

  • WP1:クラウド環境における研究者のニーズの評価と,研究者コミュニティへの関与の担保
  • WP2:インフラ構築
  • WP3:研究者向けサービスとツールの開発
  • WP4:コンテンツとメタデータの取り込み
  • WP5:法的,戦略的,経済的なEuropeana Cloudの継続性の課題
  • WP6:普及とネットワーク形成
  • WP7:プロジェクト・マネジメント

 これらの作業計画に対応する形で,各々4から7の成果物(Deliverables)が設定されている。WP1を例に挙げると,D1.1「研究コミュニティの選別とその定義」,D1.2「デジタル研究の実践におけるツールと学術的なコンテンツの利用の最新動向」,D1.3「ユーザ要件の分析と事例研究」,D1.4「人文学分野と社会科学分野の研究コミュニティにおけるコンテンツの優先順位」,D1.5「専門家によるフォーラムとその報告書」,D1.6「コンテンツの戦略」,D1.7「研究コミュニティの評価」が成果物として定義されている。同様にWP2では,開発環境の構築やアーキテクチャの初期設計に始まり,プロトタイプ構築を経てメタデータ及びコンテンツの移行までが成果物として定義されている。こうして,全39種類の成果物を,2015年末までに完成させることになっている。

 成果物には公開のレベルが設定されており,一般公開可能なものは,プロジェクトのドキュメントをまとめたページに掲載されている。主要な成果物の中には,Europeanaのプロジェクトのブログで取り上げられ,その概要が紹介されているものもある。WP1のD1.5「専門家によるフォーラムとその報告書」もその一つで, “Researchers tell us how to turn Europeana into research tool”などと,興味を引くタイトルで,2014年2月6日付のブログで紹介されている。成果物の内容は,全部で4回計画されているフォーラムのうち,2013年11月にアムステルダムで開催されたフォーラム2についての紹介である。Europeana Cloudのメンバー8名に加えて人文学分野の専門家11名を招き,Europeanaを研究で利用するにあたって,どのようなツールやコンテンツが有用なのかについて,研究者による実際の研究過程における既存のツールの利用状況等を踏まえて検討し,あるべき姿の提案もなされている。

 WP2のインフラ構築においても重要な成果物が公開されている。D2.2「アーキテクチャの初期設計」の“Europeana Cloud Architectural Design”である。こちらも“Visualising The Architecture Behind Europeana Cloud”と題した2014年2月24日付のブログで紹介されている。成果物である初期設計では,Europeana Cloudのプロジェクトの目的と背景を導入とし,対象とするユーザがEuropeana Cloudに望む事項を挙げている。次いで,それらを機能要件9つと非機能要件6つにまとめ,その要件をアーキテクチャの定義に落としこんでいる。Europeana Cloudがユーザとして主に想定し,要望事項を集めたのは,メタデータのアグリゲータである,Europeanaそのもの,欧州図書館(TEL),ポーランド電子図書館連盟(Polish Digital Library Federation)の3つである。Europeana Cloudの要件定義ともいえる文書とみなせる。また付録として,Europeana Cloudの展開の選択肢として,利用可能なクラウドベースのサービスについての評価も付されている。クラウドコンピューティング技術の特徴を分析し,利用可能なサービスモデルを挙げ,取りうる選択肢を評価するもので,既存のクラウド技術を分類・分析し,あるべき姿をまとめている。

 Europeana Cloudの検討結果として次々に公開される成果物は,クラウドベースのシステムによるデジタル・アーカイブの課題解決や研究における活用という点で,Europeanaでの利用に限らない示唆を含んでいると言えよう。今後も引き続き,動向に注目していきたい。

関西館図書館協力課・篠田麻美

Ref:
http://pro.europeana.eu/web/europeana-cloud
http://pro.europeana.eu/web/europeana-cloud/results
http://pro.europeana.eu/web/europeana-cloud/blog
http://pro.europeana.eu/documents/1414567/1861926/Europeana+Cloud+-+Description+of+Work?version=1.2
http://pro.europeana.eu/web/europeana-cloud/blog/-/blogs/researchers-tell-us-how-to-turn-europeana-into-research-tool
http://pro.europeana.eu/documents/1414567/1915215/D1.5+Third+Expert+Forum+-+Tools+%26+Content+for+Humanities+Research
http://pro.europeana.eu/web/europeana-cloud/blog/-/blogs/visualising-the-architecture-behind-europeana-cloud
http://pro.europeana.eu/documents/1414567/1861920/D2.2+Europeana+Cloud+Architectural+Design