E1557 – ポータルからプラットフォームへ:Europeana事業計画2014

カレントアウェアネス-E

No.258 2014.04.24

 

 E1557

ポータルからプラットフォームへ:Europeana事業計画2014

 

 Europeanaは,「欧州の図書館,ミュージアム,アーカイブズおよび視聴覚アーカイブズの保有する電子化資料への統合的なアクセスを提供するポータルサイト」(CA1785参照)と紹介されてきた。既に約2,300機関(うち,アグリゲータ150機関とデータ連携)から,3,000万件以上のメタデータを集約するまでに成長している。しかし,もはや,単なる「ポータル」を超えて,「プラットフォーム」へとその姿を変えつつある。

 ここでは,2014年3月付で刊行された「Europeana 事業計画(2014年版)」を紹介する。2014年は,現行の2011-2015年を対象とした5か年戦略計画(以下,「戦略計画」)から,次期戦略計画(2015-2020年)の策定へ向けた移行期と位置付けられている。事業計画では,戦略計画で挙げられていた活動範囲及びバックオフィス領域について,多様な取組み事項とその業績指標が明記され,また,予算及び主要イベントのスケジュールが示されている。

 計画上,4つの優先事項(ポータルからプラットフォームへの移行,データの品質向上,参加メリットの強調,協力体制の強化)が掲げられているが,眼目は「ポータルからプラットフォームへ」というスローガンに尽きよう。これは,検索画面上での個人利用を軽視するということではない。コンテンツを利活用するコミュニティを育てること(ユーザ参加型コンテンツ等を含む)に,より焦点を当てるということを指す。特に,創造産業(Creative Industries)との関係構築が興味深い。API等によるデータ提供(Europeana Labs),開発者やクリエイターが新たなアプリ,ゲーム及びサービスを作り出せる環境づくり(Europeana Creative)に取り組むとされている。

 そのためにも,ウェブ上で自由に利用可能かつ高品質のデータを充実させていかねばらないという。具体的に,2014年の業績指標として次が掲げられている。データ件数を3,300万に増加させ(うち,30%について,デジタルオブジェクトを直接ダウンロード可能とする),かつ,そのすべてに権利情報が付与された状態とする(うち,1,100万点にCC-BY等のオープンライセンスを付与)。また,全データの85%にプレビュー画像,25%に地理情報が付加されていることとする(リンク切れは2%程度にとどめる)。加えて,データの登録状況調査にもとづき,国・分野(文書館及び音楽映像アーカイブが低調)・年代の偏り(近世が弱い)を解消することが目指されている。

 また、品質担保のためにも,参加機関が積極的に関与する仕組みや,有機的な協力体制の枠組みが欠かせないとされている。Google,Wikipedia,Linked Open Dataコミュニティなどと連携の上,参加機関がより広く・容易にデータ流通できる環境(Europeana Cloud;E1539参照等)を提供していくことが重要であるという。そこで,データ連携の標準化・相互運用性をさらに向上させ,課題を共有する場やGLAM-Wikiツール(Wikimediaへの一括アップロード等)の提供を行うとともに,文化が政治・経済・社会構造にもたらす影響力について,協同して主張していくことが実施内容に盛り込まれている。あわせて,参加機関のネットワーク拡大と強化を図ることを目的として,各種イベントが開催される予定である(開発者向け会議,政策決定者向けイベント,参加機関フォーラム,年次総会など)。

 当然のことながら,経営諸資源が無くては,これらの活動を持続できない。緊縮財政の中,「プラットフォーム」としての価値を,政策決定者等のステークホルダーへ広く訴え続けていく必要がある。その際,ソーシャルメディアの利用が重要視されており,かつ,ウェブサイト自体の全体的な見直しも行われるという。2015年からは,エネルギー・交通・通信ネットワーク分野のインフラ関連プロジェクトを支援するEUの政策パッケージConnecting Europe Facility(CEF)のもと,「デジタル・サービス・インフラ」に係る一事業として資金提供を受ける予定となっている。本年は,第一次世界大戦開戦から100年,冷戦終結から25年に当たり,コレクションサイトEuropeana 1914-1918(E1535参照)及びEuropeana 1989は,格好の宣伝材料となるだろう。

 翻って,国内の状況はどうか。たとえば,国立国会図書館によるNDLサーチは,図書館・美術館・博物館等の垣根を超えた「ポータル」として,既に約7,500万件ものメタデータを収集し,検索できるようにまでなった。APIも整備され,メタデータの外部提供も行われている。とはいえ,現状,関連諸機関のコミュニティが強固に形成されているとは言い難く,Europeanaのようにデータの二次利用に係るライセンス情報を明示してもいない。日本又は東アジア等において,Europeanaのような「プラットフォーム」は求められているのか,もし求められているのであれば,何を検討・実施しなければならないのか。国内での議論を進めるに当たって,Europeanaがすでに実現したこと,これから実現しようとしていることは,大いに参考になるだろう。

電子情報部電子情報サービス課・塩崎亮

Ref:
http://pro.europeana.eu/documents/900548/f19cc4ff-56a3-422c-83d9-f156ecc9b4ca
http://labs.europeana.eu/
http://pro.europeana.eu/web/europeana-creative
http://www.kennisland.nl/uploads/fckconnector/d0342958-7aad-4882-83d4-28143bcefc84
http://ec.europa.eu/digital-agenda/europeana-%E2%80%93-single-access-point-europes-cultural-heritage-0
http://iss.ndl.go.jp/
CA1785
E1535
E1539