E1558 – 2014年CEAL年次大会・NCC公開会議<報告>

カレントアウェアネス-E

No.258 2014.04.24

 

 E1558

2014年CEAL年次大会・NCC公開会議<報告>

 

 2014年3月26日から27日,米国フィラデルフィアにおいて,東亜図書館協会(CEAL)年次大会と北米日本研究資料調整協議会(NCC)公開会議が開催された。会議に先立ち,25日夜にNCCプレカンファレンスとして,日本語の古典籍への国際的なアクセスをテーマとしたラウンドテーブルが開かれた。

 25日夜のラウンドテーブルでは,国文学研究資料館の海野圭介氏から, 「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」の概要が示された。大学や研究機関に分散している日本語古典籍のうち30万点の原本画像を整備し,「日本古典籍総合目録データベース」の情報を加えた,統合的なシステムの構築を,2014年度からの10か年計画で行うという。

 翌26日のCEAL総会は,学術研究ネットワーク,デジタル学術研究(e-Scholarship),学際的な研究をテーマとして開催された。

 第1部では,アンドリュー・W・メロン財団のウォーターズ(Donald Waters)氏からデジタル人文学(Digital Humanities)に関する講演が行われた。ウォーターズ氏は,豊富なデジタル資源とツールが人文学分野の研究手法を変えたと述べ,ツールの一例として,地図上に研究データをマッピングして視覚的に表現し,分析できるオープンソース・ソフトウェア“WorldMap”の実例を示した。

 カリフォルニア大学ロサンゼルス校のスティール(Virginia Steel)氏からは“Think Globally, Act Locally”と題し,グローバリゼーションの時代における研究図書館の戦略について講演があった。キャンパスで多文化環境を創造し,国際教育にあたる教員へのサポートを強化するための戦略として,コラボレーションが強調された。図書館,文化機関,プロバイダー等の組織の垣根や国を超え,よりいっそうのコラボレーションが求められる点として,リソースや専門性をシェアする,デジタル資源を理解する,従来の手法でない革新的なアプローチを行う,といった点が挙げられた。

 第2部では研究者の視点から,シンガポール国立大学のリー(Seung Joon Lee)氏が,デジタル化の目ざましい進展により同じ時間で以前より多くのリサーチが可能になった反面,キーワード検索により,個々の情報のコンテクストが失われたとした。たとえば新聞記事であれば,見出しの大きさや同時に掲載されていた広告など当時の記事のおかれていた文脈を失うことになりがちである。それでもデジタル以前の研究環境に戻りたくはないと述べた。

 第3部は,グローバリゼーションの時代における地域研究(Area Studies)とライブラリアンをテーマにしたフォーラムが開かれた。予算の制約等,地域研究を取りまく厳しい現状認識を背景に,インディアナ大学のウィルソン(Marion Frank-Wilson)氏が,地域研究の図書館によるアドヴォカシーの重要性を主張し,その要点を述べた。コレクションが大学内で少数の学部・学科にしか関係がない,というイメージに対抗するアクションを起こすこと,国際的な協調関係を構築するうえでの地域研究の価値を定期的に宣伝すること,である。

 会場の参加者からは活発な発言がされた。「あるライブラリアンは20もの異なる部署を調整している。ライブラリアンは,もはや地域研究のスペシャリストではいられなくなっている」「伝統的な地域研究の文脈では,世界を地理的に分割し,当該地域について,社会,言語,文化,政治の観点から考察してきた。組織再編の名の元に,キャンパスではすべての地域研究を国際研究(International Studies)のプログラムに吸収できると思われているふしがあるが,各々の地域研究に多様性があり,国際研究では扱いきれない」

 27日午前のNCC公開会議では,議長のマクヴェイ山田久仁子氏が,TPP交渉での著作権法保護期間延長に懸念を示す意見書を,昨年8月に内閣官房TPP政府対策本部に宛てて送付したことを報告した。

 午後は,日本研究のためのデジタル技術の進展をテーマとしたNCCジョイントセッションが開催された。人文情報学研究所の永崎研宣氏から,近代デジタルライブラリーのコンテンツをテキストデータ化する実験的プラットフォーム「翻デジ2014」が紹介され,注目を集めた。米国議会図書館の伊東英一氏からは,「米国議会図書館蔵『源氏物語』翻字本文検索」のテキスト検索機能や,原本画像のくずし字と,翻字を対比させて表示する機能の紹介が行われた。

 今回の会議をとおして,参加者は“collaboration”という言葉を多用した。あるパネリストは,我々はコラボレーションしたほうが良い,のではなく,コラボレーション“しなければならない(have to)”,と呼びかけた。デジタル技術の進展やグローバリゼーションによる環境の変化に対し,北米のライブラリアンは,組織や国を超えたコラボレーションにより,困難な時代を乗り越えようとしている。

              

関西館電子図書館課・奥村さやか

Ref:
http://www.eastasianlib.org/
http://guides.nccjapan.org/homepage
http://www.nijl.ac.jp/pages/cijproject/plans.html#section01
http://worldmap.harvard.edu/
https://www.facebook.com/NCCJapanInfo/posts/503810106365888
http://lab.kn.ndl.go.jp/dhii/omk2/
http://www.ninjal.ac.jp/LCgenji/search/