カレントアウェアネス-E
No.347 2018.05.31
E2028
2018年NCC25周年会議・CEAL及びAAS年次大会<報告>
2018年3月,米国・ワシントンD.C.において,20日に北米日本研究資料調整協議会(NCC)創立25周年のプレカンファレンス,21日から22日まで東亜図書館協会(CEAL)年次大会(E1909ほか参照),さらに22日から25日までアジア学会(AAS)の年次大会が開催された。国立国会図書館(NDL)からは,筆者を含む3人の職員が参加した。
NCC創立25周年のプレカンファレンスは,「NCC25周年記念―過去,現在,未来」(NCC’s 25th Anniversary Celebration: Past, Present, and Future)と題し,ジョージ・ワシントン大学ゲルマン図書館において開催された。まず,NCCのこれまでの25年を,NCC前事務局長のべスター(Victoria Lyon Bester)氏と,元NCC会長でデューク大学のトゥルースト(Kristina Troost)氏が概観した。次に,元NCC会長でハワイ大学マノア校図書館のバゼル山本登紀子氏が,自身の経験を交えてNCCの目的を説明し,会員がNCCの活動にボランティアとして参加することの重要性を訴えた。
21日のCEAL総会は,「東アジア関係の蔵書構築とサービスにおける新傾向」(New trends in East Asian Collection Development and Services)をテーマとして開催された。
会長主催パネルセッションでは,ジョージ・ワシントン大学図書館及びアカデミックイノベーション学部長のヘンリー(Geneva Henry)氏とロチェスター大学のベルナルディ(Joanne Bernardi)氏が発表した。ヘンリー氏は,ジョージ・ワシントン大学図書館の概要を説明し,東アジア関係の蔵書構築における各国との協力関係の重要性を強調した。日本との協力では,2017年に開始された沖縄県との協力が取り上げられた。ベルナルディ氏からは,20世紀初頭の日本の旅行パンフレット,はがき,レコード等をデジタル化したロチェスター大学のプロジェクト“Re-Envisioning Japan”の紹介があった。
続く副会長主催パネルセッションでは,「東アジア研究支援:大規模定性調査結果」(Ithaka S+R Research Project: Supporting Research Across East Asian Studies: Findings from a Large-Scale Qualitative Study)と題し,コロラド大学ボルダー校図書館のXiang Li氏,クレアモント・カレッジズ図書館のXiuying Zou氏,ワシントン大学のHyokyoung Yi氏の3人の司書が発表した。東アジアを対象として研究を行っている169人の大学教員へのインタビュー調査結果から,研究がますます学際的になっていることが報告された。そのため,アジア研究司書は,他の学問分野の担当司書とも連携し,様々な情報,資料にアクセスできるよう取り組む必要があるとの指摘があった。
その後,五つのCEAL及びアンドリュー・W・メロン財団助成プロジェクトの報告があった。この中で,ワシントン大学の田中あずさ氏は,日本の出版社と米国の24の大学の協力を得て,多巻資料の所蔵確認の簡便化を目的として実施した,目次の電子化プロジェクトについて報告した。
22日の日本資料委員会(CJM)プログラムでは,「日本占領関係資料:デジタル化と資料アクセスの課題・デジタルスカラーシップの可能性」(Occupation Period-related materials: Issues of Digitization, Access and Opportunities for Digital Scholarship)をテーマとして,4人が発表を行った。NDLからは,利用者サービス部政治史料課の成原貴彦が,「日本占領関係資料の収集及び利用提供」(Collecting and Making Available Materials Related to the Occupation of Japan)と題し,NDLによる40年にわたる日本占領関係資料の収集と,そのデジタル化及び利用提供サービスの現状について報告した。続いて,メリーランド大学の巽由佳子氏が,NDLとの共同事業であるプランゲ文庫資料の媒体変換の意義を説明し,資料の検索方法及びデジタル画像の利用提供に向けた取組について報告した。その後,巽氏,バゼル山本氏及びミシガン大学の横田カーター啓子氏が,各図書館所蔵の日本占領関係資料の特色やデジタル化の事例を紹介し,様々な機関で所有する占領期資料を横断的に利用する仕組み作りについて,デジタルスカラーシップでの取組,コミュニケーションツールの立ち上げの必要性等,課題を提示した。
今年は,NCCの25周年記念イベントとして,AAS年次大会においても,NCC主催のパネルセッションが行われた。テーマは,「デジタル日本研究の未来:共同研究の触媒としてのNCCの進化する役割」(The Future of Digital Japanese Studies: NCC’s Evolving Role as a Catalyst for Collaborative Research)で,国文学研究資料館館長のロバート キャンベル氏,プリンストン大学教授のコンラン(Thomas Conlan)氏,ワシントン・アンド・リー大学教授のルブラン(Robin Le Blanc)氏,カリフォルニア大学バークレー校東アジア図書館のマルラ俊江氏,スタンフォード大学のカオ(Regan Murphy Kao)氏から報告があった。デジタルアーカイブの利用を促進するため,単にデジタル化した資料をアーカイブに搭載するだけでなく,どのように資料を見せるかに重点が置かれた報告が多く,大変参考になった。セッションの後,フロアから,北米での日本関係資料へのアクセス向上のため,NCCは電子化や研修の面で今後も大きな役割を果たしていけるといったコメントが寄せられた。
会議参加を通じ,NDLのデジタル化資料のアクセス拡大への期待の大きさを改めて実感した。また,今後はデジタル化資料の「見せ方」が重視され,所蔵機関の連携により同一テーマの資料利用の利便性向上を実現することが求められていく中,NDLが果たす役割への期待もさらに高まっていくと感じられた。
2019年大会は米国・コロラド州デンバーで開催予定である。
総務部支部図書館・協力課・中沢綾
Ref:
http://guides.nccjapan.org/c.php?g=814564&p=5830692
http://www.eastasianlib.org/CEAL/AnnualMeeting/Annualmeeting.htm
http://www.eastasianlib.org/cjm/meetings.html
https://www.eventscribe.com/2018/AAS/
http://guides.nccjapan.org/c.php?g=814564&p=5830699
E1909