E1909 – 2017年NCCワークショップ・CEAL及びAAS年次大会<報告>

カレントアウェアネス-E

No.324 2017.04.27

 

 E1909

2017年NCCワークショップ・CEAL及びAAS年次大会<報告>

 

    2017年3月,カナダ・トロントにて,13日から14日まで北米日本研究資料調整協議会(NCC)主催のワークショップ,15日から16日まで東亜図書館協会(CEAL)年次大会(E1671ほか参照),さらに16日から19日までアジア学会(AAS)の年次大会が開催された。国立国会図書館(NDL)からは,筆者を含め2名の職員が参加した。

    NCCワークショップは,「日本研究におけるデジタル研究入門:革新と挑戦」(Doing Digital Scholarship in Japanese Studies: Innovations and Challenges)と題して,トロント大学ロバーツ図書館にて開催された。北米の日本研究司書を中心に,欧州の日本研究司書や,中国資料の専門司書の参加もあり,講師も含め70名ほどが参加した。参加者の募集が始まると早々に満員になったとのことで,今回のテーマの北米における関心の高さがうかがわれた。

    13日は最初に基調講演として,首都大学東京システムデザイン学部准教授の渡邉英徳氏から「参加のための新たなツールとしてのデジタルアーカイビング」(Digital Archiving as an Emerging Tool for Participation)というテーマで,「ヒロシマ・アーカイブ」などの構築について語られた。このアーカイブでは,広島への原爆投下時の写真や被爆者の証言映像などが位置情報に基づいてデジタル地球儀上に配置され,俯瞰することが可能となっている。講演では,広島の高校生が被爆者へのインタビューを行い,その映像をアーカイブ用に編集する様子や,アーカイブ利用者から寄せられるコメントが,その発信地点から対象の写真や映像の地点へと海を越えて青色の線で繋がれて表示される機能などが紹介され,デジタルアーカイブを基盤としたコミュニティづくりの重要性が強調されていた。

    その他,ワークショップでは,北米の各大学での資料デジタル化や学生によるメタデータ付与に関する報告,オープンソースのCMSである“Omeka/Neatline”を用いて歴史的な事件や物語を空間的・時間的にマッピングして視覚化するデモ,文章を貼りつけるだけで頻出語などが図やグラフで表示されるテキスト分析ツール“Voyant Tools”を用いた実習などが行われた。参加者は実習にも熱心に取り組み,質疑も活発に行われた。

    14日には日本のデジタルリソースについてのラウンドテーブルがあり,その中でNDLから国立国会図書館サーチの今後について発表を行った。このラウンドテーブルでは,同じく日本からの発表者として,国際日本文化研究センター図書館司書の坪内奈保子氏が同センターのオープンアクセス方針等について,同じく司書の江上敏哲氏が妖怪画像等のデータベースについて,国文学研究資料館教授の山本和明氏が「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」についてそれぞれ発表を行った。

   翌日からの,CEAL年次大会は,「挑戦と機会:東アジア図書館員の今日と明日」(Challenges and Opportunities: East Asian Librarianship Today and Tomorrow)をテーマとして開催された。15日の総会では,冒頭に協会人事等の報告があり,トロント大学図書館のロシャ(Fabiano Takashi Rocha)氏が新たに日本資料委員会(Committee on Japanese Materials:CJM)の委員長となることが発表された。

    総会に続いて行われた会長主催のパネルセッションでは,トロント大学図書館長のアルフォード(Larry P. Alford)氏,米国図書館協会(ALA)次期会長であるニール(James G. Neal)氏,米・カリフォルニア大学サンディエゴ校図書館のショットレンダー(Brian E. C. Schottlaender)氏の発表があった。3氏からはそれぞれ,地域から国際まで様々なレベルでの連携協力の状況や図書館員を取り巻くデジタル技術の概観,募集要項から見る東アジア専門司書に求められる技能などが報告された。質疑では,ボーンデジタルコンテンツの長期保存は図書館の能力を超えているので民間企業などの産業界に任せる可能性があるかという質問が出たが,ニール氏が,技術的なパートナーとなることはあっても収集の選択や決定は図書館の国際的な協働でなされるべきと力強く断言したのが印象的であった。

    また,CEALでは今回が初めての試みとなるポスターセッションが開催された。13のポスター発表があり,そのうち約半数が日本関係であった。テーマがデジタルヒューマニティーズということで,奈良絵本などの貴重書デジタル画像について,デジタル画像の相互運用のための国際規格IIIFを活用しての比較や,Twitterのフォロワーを職業や関心で分類しての可視化など多彩な研究発表がなされていた。

    15日に行われたCJMプログラムは,ポップカルチャーの研究・教育のための蔵書構築がテーマであった。カナダ・マギル大学東アジア研究学部教授のラマール(Thomas Lamarre)氏の講演では,マンガを授業でテキストとして行き渡らせるのが難しいことや,アニメやビデオゲームの再生がメディアのプラットフォームに依存する点など,教育や研究で取り扱うのが困難な点が紹介された。

    AAS年次大会では,NDLが初めて展示ブースの出展を行った。展示ブースは100近い企業や団体が参加しており,欧米や日中韓各国の学術出版社が中心だが,日本からはNDLのほか国立公文書館アジア歴史資料センターと渋沢栄一記念財団が出展していた。

    NDLでは,展示ブースにパンフレットやチラシを用意して,海外からも利用できるサービスやデータベースなどの紹介を行った。幸い多くの日本研究者と日本研究司書の訪問があり,意見や要望などを直接伺うことができた。また,中国や韓国を専門とする研究者で今後日本資料を使いたいと考えているという方もいた。最も高い関心が寄せられたのはデジタル化資料で,資料入手方法の改善についての要望も多く寄せられた。

    今回は日本研究司書の方々と一緒にワークショップを受講し,デジタルな技術や研究手法について先進的に取り組む様子を実感することができた。特定の主題や特別コレクションの専門家として,研究トレンドを体験するなどして専門性を追及していく姿勢は,国内の図書館員にとっても参考になるのではないかと感じた。このような機会を与えていただいたNCCの皆様に感謝を申し上げたい。

    2018年大会は米国ワシントンD.C.での開催となる。

関西館図書館協力課・小林廉直

Ref:
http://guides.nccjapan.org/torontodigital
http://hiroshima.mapping.jp/index_jp.html
https://voyant-tools.org/
http://www.eastasianlib.org/CEAL/AnnualMeeting/Annualmeeting.htm
http://www.asian-studies.org/Conferences/AAS-Annual-Conference/Conference-Menu/AAS-Conference-Homepage/Past-Conferences
E1671