カレントアウェアネス-E
No.371 2019.06.27
E2151
2019年CEAL及びAAS年次大会・NCC公開会議<報告>
2019年3月,米国コロラド州デンバーにおいて,東亜図書館協会(CEAL)年次大会と北米日本研究資料調整協議会(NCC)公開会議が19日から21日にかけて,アジア学会(AAS)の年次大会が21日から24日にかけて開催された(E2028ほか参照)。国立国会図書館(NDL)からは,筆者を含む2人の職員が参加した。
CEAL年次大会では,19日にプレコンファレンスがあり,RDA Toolkit再構築プロジェクト(3R project)の更新情報等を反映した目録作成トレーニングのワークショップやCEALレセプションがコロラド大学ボールダー校で行われた。20日からは会場を市内のホテルに移し,総会が開催された。今年の総会のテーマは「デジタル時代の課題に対応するためのCEALの組織及びメンバーの強化」である。
総会は2部構成で,初日の午前は「デジタルスカラーシップにおける東アジア図書館及び図書館司書の役割」のテーマのもと,3人の基調講演が行われた。オランダ・ライデン大学教授のデ・ヴェルト(Hilde De Weerdt)氏からは,東アジア言語のテクスト分析のためのツールMARKUSの紹介があった。次に,米・カリフォルニア大学バークレー校C.V.スター東アジア図書館長のチョウ(Peter Zhou)氏は,デジタルスカラーシップの動向と課題及び研究図書館に与える影響について,デジタル資料の持続可能性の面から問題提起を行った。米・ワシントン大学副学長・図書館長のウィルソン(Betsy Wilson)氏からは,図書館司書は研究者のデジタルニーズを予測し,図書館が研究者の活動にもたらす価値を実証するために,ユーザ評価と図書館司書の様々なプログラムとの連絡役としての能力形成に継続的に取り組む必要があるとの指摘があった。
午後は5人の図書館司書による発表と,一般財団法人人文情報学研究所主席研究員の永崎研宣氏が参加してのパネルディスカッションが行われた。最初に登壇したワシントン大学の田中あずさ氏は,同大学のデジタルスカラーシッププロジェクトの一環として実施した,同大学所蔵の外邦図コレクションの組織化について紹介し,それらのデータの活用可能性について述べた。米・ハーバード大学日本デジタル研究所のマツウラ(Katherine Matsuura)氏からは,日本災害デジタルアーカイブ(JDA)プロジェクトの紹介を中心に,プロジェクトを立ち上げる際の体制や資金のほか,成果の持続可能性や保存が重要なポイントであることが強調された。JDAは連携機関のデジタルアーカイブへのアクセスが可能な震災アーカイブのポータルサイトである。利用者がデジタルアーカイブの収録資料を編集して自身のコレクションを作成・公開する機能や,位置情報が付与された資料をリアルタイムで表示する機能等が備えられており,他のユーザと個人の経験等を共有できる「参加型」アーカイブとうたわれている。
2日目はCEAL各委員会のプログラムが開催された。日本資料委員会(CJM)はウェブアーカイブをテーマに取り上げ,3人の発表者がケーススタディを紹介した。NCCの会長をつとめる米・イェール大学の中村治子氏からは,アイビー・プラス図書館連合による日本のLGBTQに関するウェブアーカイビングプロジェクト“Queer Japan Web Archive”についての説明があった。マツウラ氏からは前日紹介されたJDAの仕組み等についてより詳細な説明が行われた。米・スタンフォード大学のカオ(Regan Murphy Kao)氏からは,同大学東アジア図書館が取り組んでいる,日本に関するウェブアーカイブ“Snapshot of Japan, 2016-2018”(CA1930参照)の紹介があった。発表されたこれらの事例は,いずれも関係機関のウェブアーカイブや主要なウェブサイトから,必要な情報資源をできるだけ重複を避けながら収集し活用したもので,NDLのインターネット資料収集保存事業(WARP)もデータソースとしてそれらに貢献していることが分かった。
21日に開催された今年のNCC公開会議は日本の著作権法改正をテーマに取り上げたもので,NDLから調査及び立法考査局文教科学技術課の舟越瑞枝と筆者が,2018年の日本の著作権法改正の概要とNDLのサービスへの影響につき発表した。特に開始直前であった海外図書館等へのデジタル化資料送信サービスについて重点的に説明を行った。続いて永崎氏が発表し,2018年の法改正のポイントの1つである「柔軟な権利制限規定の導入」に焦点を当て,研究者の視点から今後活用が期待できる新しいプロジェクトの見込み等を紹介した。
公開会議ではNCCから新たなプロジェクトComprehensive Digitization and Discoverability Grants Programの紹介があった。学術的に有用な日本関連資料のデジタル化とその活用の促進,国内外の協同と基盤構築を目的とした新しい助成金プロジェクトであり,NCCが近年デジタルヒューマニティーズの分野に力を入れていることが反映されている。
AAS年次大会で筆者が参加した「日本研究の死」をテーマとしたセッションは100人を超す聴講者が会場に詰めかけ,入場制限も行われる盛況ぶりであった。北米,欧州,オセアニア等各地域から7人の日本研究者や日本語教師等が参加して討論を行い,フロアからも活発な意見が多数飛び交った。大学等教育機関における地域研究や人文科学の縮小傾向などが課題として言及される中,小規模大学における日本研究への援助の必要性を指摘する声や,研究者自身が学問におけるトランスナショナル(越境性)や分野横断の重要性を認識することが必要との意見が出された。
上記の各会議では,多くの日本研究司書や研究者,関係者が集まり,交流を深める機会ともなっている。筆者はこれらの参加者と話をする機会を得て,NDLの各サービスに対する期待も苦言も受け取った。国境を意識することなく,必要な情報を得る手段としてNDLのサービスを最大限活用してもらえるよう,今後も継続して努力を続けていきたい。
2020年大会は米国マサチューセッツ州ボストンで開催予定である。
関西館文献提供課・津田深雪
Ref:
https://www.eastasianlib.org/newsite/meetings/
https://www.eastasianlib.org/newsite/meetings/#cjm-program
https://guides.nccjapan.org/homepage
https://guides.nccjapan.org/mvs/newproject
https://www.eventscribe.com/2019/AAS/
http://www.asian-studies.org/Portals/55/Conference/2019%20Stats.pdf
E2028
CA1930