E2150 – Asia OA Meeting 2019<報告>

カレントアウェアネス-E

No.371 2019.06.27

 

 E2150

Asia OA Meeting 2019<報告>

 

 梅雨の時節となり,筆者が勤務する大学構内でも色とりどりの傘が行き交う様をよく見る。相合傘でしのぐ学生たちをほほえましく思う傍ら,最近では傘からオープンサイエンスを連想することも多くなった。

 オープンサイエンスという言葉は,オープンアクセス,オープンデータなど様々な概念を内包することから,それ自体に統一的な定義付けがなされづらい。一方で同様の理由から,そのイメージとして傘に例えられることが多い。今回,筆者が出席したAsia OA Meeting 2019においても,何度かその例えが用いられた。

 Asia OA Meeting 2019は,2019年3月6日から7日にかけて,バングラデシュの首都ダッカにて開催された。オープンアクセスリポジトリ連合(COAR)の主催により,各国の情報共有やコミュニティの醸成,開催国の活動促進を目的として実施されている。筆者は前回(E1988参照)に続いての参加となったが,前回よりもさらに,開催国バングラデシュの発展に焦点を置いていると感じられた。

 オープニングセッションにおいて,バングラデシュのICT担当大臣であるZunaid Ahmed Palak氏は,デジタル化推進政策であるDigital Bangladesh(E1949参照)の成果を強調し,そのひとつとして初等教育における学校単位の情報環境整備とICT教育の拡大に言及した。

 これに限らず,今回の各セッションでは,オープン化による教育環境への貢献とその発展が多く訴えられている。バングラデシュオープン大学のMostafa Azad Kamal氏による発表では,バングラデシュの学生の実に7割近くが経済的理由から教科書を入手できていないことに触れられた。この窮状の打開のために,ライセンスフリーでの教材のオープン化を進めるべきとされた。またそれは同時に,学校やクラスに合わせた教材のカスタマイズを容易とし,教育全体の発展にも繋がると述べられた。また,同国のCentre for Open KnowledgeのNurunnaby Chowdhury氏は,クリエイティブ・コモンズ(CC)ライセンスとその活用について話し,既にライセンス下で公開されている教材や画像データ等を紹介したほか,可能であればバングラデシュで発行される全ての本にCCライセンスを付与したい,とまで述べた。

 程度はさておき,オープン化による教育資源の公開とその活用が望まれていることは強く感じられた。殊に,政策的に情報教育を推進するバングラデシュにおいては,その効率的な発展を促すものとして期待が大きいものと思われる。

 これらと同様に,様々なセッションで強調されたのが,機関単位あるいは国家単位でのオープン化方針(政策)の策定である。

 同国イーストウェスト大学のDilara Begum氏による発表では,オープンサイエンス推進のための各機関の役割として,プラットフォームの開発や機関ごとの方針策定などが挙げられたほか,バングラデシュ政府による教育資源のオープン化(Open Education Resources:OER)に係る政策動向も紹介された。また,本会議のコーディネーターでもあるバングラデシュ農業研究協議会のSusmita Das氏は,バングラデシュ全体でのオープン化に言及し,2016年に開設した政府主導のデータプラットフォーム“Bangladesh Open Data”をその第一歩とした上で,特に基幹研究である農学系の国立研究機関において,適切な方針の策定とデータキュレーションによるデータの広範な利活用を促進すべきと述べた。同氏はまた,閉会後に行われたインタビューにおいても,今回の成果として国家規模でのオープンアクセス方針(National Open Access Policy)の策定について言及している。

 Das氏を含む参加者の多くから,今回の会議を,バングラデシュにおける国家規模での方針策定の追い風にしようとする意識を感じ取ることができた。コミュニティ全体としての機運を高めようとするこの姿勢は,機関ごとの方針策定の流れが大きい日本において見習うべき点も多いと思われる。

 会期中,Das氏やCOARのKathleen Shearer氏をはじめ様々な出席者から,オープンサイエンスが「持続可能な開発目標(SDGs)」の17目標全ての達成に関連する,あるいはその前提条件である旨の発言がなされた。現地参加者との交流においても,発展途上にある自国が加速度的な発展を遂げるために,これら情報環境の利活用拡大に期待を寄せている,といった声が聞かれた。

 本稿で取り上げた教材・教育環境のオープン化の推進や,機関あるいは国家単位での方針に基づく戦略的なオープンサイエンス推進などは,そのような国境を越えた持続的発展の基盤構築と,それらを活用した発展を求める多くの人々の希望の表れのように感じられた。

 Das氏は,会議のもうひとつの成果として,報道等で取り上げられたことによる一般の人々の認識の高まりを挙げている。オープンサイエンス推進に社会的な後押しが必要であると同時に,オープンサイエンスは全ての人々をステークホルダーとし得る,ということを改めて認識させられた。

 オープンサイエンスの傘の下では,その様々な概念による恩恵を,世界の人々が等しく享受できるはずである。あるいは,日本で開いた傘の下で,遠く離れたバングラデシュの人々や,その他の世界中の人々と相合傘をしているかもしれない。そう思うと,より大きな傘を差せるようにと,オープン化の推進にもより一層身が入るように思える。

鳥取大学附属図書館・中谷昇

Ref:
https://www.coar-repositories.org/community/asia-oa/asia-oa-meeting-2019/
http://en.banglatribune.com/tech-and-gadget/news/32680/Speakers-for-open-access-policy-in-Bangladesh
http://www.thelibrariantimes.com/volume-05/bangladesh-is-going-ahead-based-on-four-pillars-zunaid-ahmed-palak/
http://data.gov.bd/
http://www.thelibrariantimes.com/volume-05/lets-make-our-minds-open-an-exclusive-interview-with-dr-susmita-das/
E1988
E1949

 

 

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