E1949 – 東南・南アジアにおけるOAの現状:Asia OAの報告書から

カレントアウェアネス-E

No.332 2017.09.07

 

 E1949

東南・南アジアにおけるOAの現状:Asia OAの報告書から

 

    2017年6月,オープンアクセスリポジトリ連合(COAR)の地域コミュニティであるAsia OA(E1898参照)が,近年,多数の学術成果を生み出しているアジア地域のオープンアクセス(OA)の現状を把握することを目的に行った調査の報告書“Asia Open Access Regional Survey”を公開した。

    報告書は,アジアの16の国・地域を対象として,2017年1月にアンケート形式で行われた調査の結果をまとめたものとなっている。そして,アジア地域ではOAが活発である一方,多くの国では総合的な戦略が欠如しており,インフラの整備や維持に必要な資金が不十分であるなど,政策と実態に乖離が生じていると指摘している。

    また,報告書では,OAポリシーの採択・リポジトリの導入・OAジャーナルの刊行の3つに分けて,各国のOAの現状について具体的に紹介されている。そこで,本稿では,それらのなかから,東南アジアや南アジアのOAに関する事例を紹介したい。

●OAポリシーの採択

    まず,OAポリシーの採択では,シンガポールやインドの事例が多い。シンガポールでは,科学技術研究庁(A*STAR)がOAポリシーを採択し,研究成果発表後12か月以内のセルフアーカイブを求めているほか,論文処理費用(APC)の助成も行っている。助成機関では,国家医療研究協議会(NMRC)がA*STARと同内容のポリシーを採択しているほか,国立研究財団(NRF)が,助成金取得機関に対してOAポリシーの採択を求めている。インドでは,科学技術省のバイオテクノロジー局(DBT)と科学技術局(DST)が共同でOAポリシーを採択しているほか,DBTと英・ウェルカム財団が共同で実施している助成プロジェクトIndia Allianceのポリシーが,公表した学術成果への無制限のアクセスを求めている。その他,実践コミュニティであるOpen Access Indiaが国レベルのポリシーの草案を策定している。

   上記以外の国では,ネパール図書館情報コンソーシアム(NeLIC)が政府と連携して採択を推奨する活動を行なっているほか,バングラデシュ政府が,OAの概念を普及させるため,“Digital Bangladesh Vision 2021”を策定している。また,東南アジアでは,シンガポールの南洋理工大学(NTU)・シンガポール経営大学(SMU),フィリピンの国際稲研究所(IRRI)が,南アジアでは,ネパールの国際総合山岳開発センター(ICIMOD)といった機関が機関単位で採択している。

●リポジトリの導入

   次にリポジトリの導入である。東南アジアでは,マレーシア・シンガポール・インドネシアの多くの研究機関で機関リポジトリが設置されている。特に,インドネシアでは,国立図書館の“One Search Indonesia”から各リポジトリに登録されているOA論文を検索できるようになっている。この他,タイでは,機関リポジトリの設置率は20%であるが,学術研究会議(NRCT)図書館の機関リポジトリが,地方の大学・研究機関の学術成果や博士論文を登録しているほか,国の助成機関4機関の助成を受けた研究成果を登録する“Thai National Research Repository”(TNRR)というリポジトリも存在する。また,ミャンマーでは,EIFL(CA1800参照)による“eLibrary Myanmar Project”の支援を受けて,ヤンゴン大学・マンダレー大学が機関リポジトリを設置しており,ネパールでは,NeLICが構築したリポジトリが,全ての研究機関からの学術成果の登録を受け入れている。

   南アジアに目を転じると,インドの事例が多い。博士論文のリポジトリである“Shodhganga”には287の大学が参加し,14万3,800点の博士論文が登録されているほか,36の農業を専門とする州立大学や準大学(大学補助金委員会によって「大学」と認定された高等教育機関)が“KrishiPrabha”というリポジトリに学術成果を登録している。また,DBT・DST傘下の研究機関の機関リポジトリに登録された研究成果を収集するためのハーベスタも開発されている。その他,バングラデシュでは,ダッカ大学や10の農業研究機関,国際下痢性疾病研究センター(ICDDR)が機関リポジトリを設置していること,パキスタンでは,20%の大学に機関リポジトリが存在することが紹介されている。

●OAジャーナルの刊行

   最後にOAジャーナルの刊行についてである。まず,タイに関しては,OAジャーナルのディレクトリDOAJに20タイトルが登録されている。インドでは,科学産業研究委員会(CSIR)が発行するジャーナル18タイトルがOAであり,農業研究協議会(ICAR)がオンラインで公開しているジャーナル30タイトルもほぼOAとなっている。その他,DOAJには244タイトルが,OAの学術情報資源の書誌データを公開しているROADには1,855タイトルが登録されている。バングラデシュでは,“BanglaJOL”が,同国の研究成果へのオンラインアクセスを提供しており,140のジャーナルが参加している。パキスタンでは,医学系の“PakmediNet”や,ウルドゥー語の“Iqbal Cyber Library”といった,学術成果をOAで公開するプラットフォームがあるほか,様々なOAジャーナルが存在する。

   報告書では,Asia OAの取組を通じ,OAが国際的潮流であることを示す事例や知見,アジアでの様々な成功例を共有し,アジア各国の個々の条件下でのOAの進展を促したいと述べ,報告をまとめている。

関西館図書館協力課・武田和也

Ref:
https://www.coar-repositories.org/news-media/asia-open-access-regional-survey/
https://www.coar-repositories.org/files/Asia-OA-survey-results-June-15-2017.pdf
https://www.coar-repositories.org/community/asia-oa/
E1898
E1810
CA1800