カレントアウェアネス-E
No.332 2017.09.07
E1950
国立国会図書館における識別子に関する動向調査
国立国会図書館(NDL)は,2016年12月から2017年6月にかけて,当館業務に関係のある識別子(ID)に関する国内外の動向調査を行ったので,その概要を報告する。本調査は,NDLがこれまで各システムの中で用いてきた識別子について,今後の運用・活用方法の検討に資する情報共有を目的として行われた。
●識別子に関する動向の整理
まず,文献調査を行い,従来個別システムの管理番号として用いられてきた識別子が,システム間データ連携のキーとして,また,不安定なウェブコンテンツのアクセス保証としての機能をも担うようになった,という識別子に関する全体動向を把握した。システム内部の管理番号として用いられる識別子は,リテラルな文字列の形式で付与されるものが多く,また,当該システム外での利用を想定していないため,システムの移行や改修,運用上の理由で削除や変更が行われやすい。しかし,ウェブ環境で,データ連携の手段として用いられるためには,識別子が安定したURIとして提供され,リソースへの永続的なアクセスが担保される必要があり,それに関連する取組みが各国で行われていることを確認した。
●注目すべき海外の取組み
また,個別の識別子に関する追加的な文献調査と永続的識別子に関する国際プロジェクトが提供するウェブセミナーへの参加を通じ,今後NDLの業務の参考となる近年の海外における取組みとして,次の3点を抽出した。
まず,個人や組織を識別するIDについて,国際規格であるISNI(International Standard Name Identifier)を介して,本人申告制による研究者個人の識別子であるORCID ID(CA1740参照)や図書館が維持してきた典拠データに基づく個人の識別情報であるVIAF IDなど,分野・サービスごとに提供されている各種の識別子が連携を深めている点である(E1773参照)。ISNI参加機関は増加傾向にあり,2017年8月現在,ISNIの運営メンバーとしてISNIデータの維持管理に直接携わるISNI登録機関は14機関,ISNIの提供するデータを利用できるISNIメンバーは19機関,データを提供する機関やサービスは42種になる。
二つ目に,全国書誌番号や典拠IDなど図書館が管理してきた識別子が,学術情報の保存や集合知プラットフォームのサービス向上といった図書館外の文脈で利用される点である。オランダ王立図書館(KB)は,現在,出版物のみならず,研究データやその他の情報資源に対する識別子として全国書誌番号を割り当てるサービスを実施している。これは,e-Depotという同国内電子情報の長期保存システムの中で,URN:NBN:NL(それぞれUniform Resource Name,全国書誌番号,オランダの国名コードを表す)の形式で表される永続的識別子として付与されるもので,長期保存の対象を明確化するという意図がある。同国内の大学や研究機関も,KBの管理の下,公開するデータにURN:NBN:NLを付与することができる。対象資源への永続的アクセスを保証するために,オランダの学術情報の収集・提供機関であるDANS(Data Archiving and Networked Services)が,対応する国内情報資源へのリダイレクトシステムを提供している。また,典拠IDについては,WikipediaやDBpediaの記事中の典拠管理テンプレートを用いて,VIAF ID,ISNI,ORCID IDや各国国立図書館の典拠IDが参照される例がある(E1517参照)。
三つ目に,永続的識別子間の相互運用性を向上させ,学術論文・研究データ・ソフトウェアなどの研究成果と研究者とをシームレスに結び付けることによって,成果の帰属を明らかにし,オープンサイエンスに向けた動きを加速させようという取組みが広がりを見せている点である。ORCID IDとDataCiteのDOIの普及と連携を目指すODIN(ORCID and DataCite Interoperability Network)プロジェクトとして始まったこのような取組みは,現在,関係機関を拡大し,THOR(Technical and Human Infrastructure for Open Research)プロジェクトとして続けられている(E1850参照)。THORの成果は,THORウェブサイト内の情報共有ページ「ナレッジ・ハブ(Knowledge Hub)」で公開されているが,主要なものとして,DataCiteメタデータスキーマのRelatedIdentifierフィールドを使って,同一データの新旧バージョン,論文とその論拠となったデータ,データとその作成者・寄与者の関連付けを行っている機関の事例を分析し,永続的識別子間の関連付けについての概念モデルの提示を試みたフェンネル(Martin Fenner)らの論文がある。また,従来からCrossRefやDataCite等,一部のDOI登録機関がそれぞれに提供していた,クライアントのリクエストに応じてDOIが付与された情報資源のメタデータを返すサービス(コンテンツネゴシエーション)の機能が拡充され,異なる登録機関が維持するメタデータが相互に利用可能になった。そのほか,ソーシャルメディアでの参照数等いわゆるオルトメトリクスによって研究成果の有用性を多角的に評価することのできるイベントトラッキング機能の開発がCrossRefとDataCiteの協働で行われた。
●DOIを通じたNDLコンテンツの利用状況調査
NDLは,2014年3月からジャパンリンクセンター(JaLC)の共同運営機関の一つとして,「国立国会図書館デジタルコレクション」中の一部資料にDOIを付与している。今回の調査の一環として,筑波大学の高久雅生氏・吉川次郎氏に,DOIを通じたNDLコンテンツの利用分析を依頼し,結果の報告を受けた。報告では,NDLのコンテンツにアクセスする手段としてのDOIの利用は現在のところ限定的であるとされた。一方で,国際的認知度の高い永続的識別子を付与することはユーザの利便性を高め,さらには上述のような国際的コミュニティで開発される高度な機能を利用できる可能性を拓くことがメリットとして挙げられた。
電子情報部電子情報流通課・奥田倫子
Ref:
https://www.iso.org/standard/44292.html
https://www.kb.nl/organisatie/onderzoek-expertise/informatie-infrastructuur-diensten-voor-bibliotheken/registration-agency-nbn
http://dasish.eu/dasishevents/pidworkshop/presentations/Hogenaar.pdf
https://project-thor.readme.io/docs
https://project-thor.readme.io/docs/examples-of-linking-across-identifiers
http://doi.org/10.5281/zenodo.30799
http://doi.org/10.5281/zenodo.48705
https://blog.datacite.org/content-negotiation-update/
https://www.crossref.org/services/event-data/
E1773
E1517
E1850
CA1740