E1898 – COAR Asia オープンアクセスサミット<報告>

カレントアウェアネス-E

No.322 2017.03.23

 

 E1898

COAR Asia オープンアクセスサミット<報告>

 

    2016年11月14日から15日にかけて,マレーシアのクアラルンプール郊外に位置する街であるシャー・アラムにおいて,オープンアクセスリポジトリ連合(COAR)の地域コミュニティであるCOAR Asiaが主催するアジアにおけるオープンアクセス(OA)に関するサミット“Positioning Asia in the Global Movement of Open Science”が開催された。これは2016年3月4日に東京で開催された会議に続く,第2回目の会議となる。第1回目の会議では,アジア地域でOAを推進するコミュニティとして,COAR Asiaの立ち上げが確認された。今回の会議には,8つの国・地域から約150名が集い,日本からも京都大学,国立情報学研究所(NII)から3名が参加した。

    2日間にわたり,ディスカッションを含む7つのセッションが行われた。各登壇者の発表資料はウェブサイトで公開されているが,特に印象に残った点を中心に紹介したい。

    セッション1では,COARの事務局長であるKathleen Shearer氏から,OAの世界的動向とCOARの取り組み,さらに研究データのオープン化を含めたオープンサイエンスへの広がりについての報告があった。続いて,シンガポール科学技術研究庁(A*STAR)のKostas Repanas氏からは,OA,研究データのオープン化に関する先導的な組織・団体の紹介があった。グローバルな団体から特定地域の団体まで幅広く紹介されており,発表資料は,把握しておくべきウェブサイトの一覧としても活用できるものとなっている。

    セッション2では,NIIの山地一禎氏から,リポジトリの付加価値を高める方法として,他のシステムとの連携が提起された。また,シンガポールマネージメント大学のAaron Tay氏から,OAを推進するうえでの障壁についての体験談が報告された。これは,OAやリポジトリに関する認識不足,リポジトリ登録の動機付け不足,他のリポジトリサービスとの共存といった「リポジトリ担当者あるある」と言えるもので,大きくうなずく参加者が多数見られた。続くパネルディスカッションでは,セッション1,2の登壇者をパネリストとし,チャット形式で会場から質問を集めるサービスsli.doも活用しながら,活発な意見交換がなされた。その中には,OAは現在の研究者だけではなく,将来の研究者となる学生に対しても意識を根付かせることが重要だという意見もあった。

    セッション3およびセッション4では,各国・地域(シンガポール,日本,中国,インド,香港,マレーシア)のOAや研究データ管理の取り組み状況についての報告があった。日本については,筆者(田口)がNIIのJAIRO Cloudを含む機関リポジトリ構築連携支援事業及び2016年7月に設立したオープンアクセスリポジトリ推進協会(JPCOAR)について報告した。また,開催国となったマレーシアからは,リポジトリの現状を含む学術情報流通の取り組みについて紹介された。この中で特に印象的な取り組みに,中国での,OAに関するさまざまな事項の小冊子作成があげられる。この小冊子は,A5のハンディなサイズで,紙媒体ではあるものの,OA推進のコミュニケーションツールとして活用できるのではないかとの印象を受けた。また,日本においてもOAに関する様々な事項をどこかの時点でまとめて記録しておくことが必要であると感じた。

    セッション5では,オープンサイエンスを支える機関の役割として,筆者(冨岡)が京都大学オープンアクセス方針(E1686参照)とその実装に関する取り組みを報告した。続いて,シンガポール南洋理工大学のGoh Su Nee氏から研究データ方針とその実装に関する取り組みの報告があった。同大学では,オープンアクセス方針(2015年)に続き,研究データ方針(2016年)を採択している。研究データ管理計画(DMP)の作成にあたっては,図書館が積極的にサポートする体制を構築しているとのことであった。

    セッション6では,ORCIDアジア・太平洋地区ディレクターの宮入暢子氏から,ORCID(CA1880参照)の概念や連携の仕組み等についての説明があり,リポジトリとの親和性やコミュニティ,コンソーシアムによる採用の広がりが示された。

    セッション7では,フリーディスカッションとして,活発な意見交換が行われた。OA,研究データのオープン化の推進は,グローバルな流れであるが,その実装にあたってはそれぞれの機関のローカルな事情を考慮する必要がある。そのため,コミュニティ,特にアジア地域のコミュニティを通じて情報を共有することが重要であるとして閉会した。また,参加した国・地域それぞれの連絡代表者を決め,次回の開催地や次回までに各国・地域で何ができるのかについて,検討を進めることとなった。

    2017年3月現在,会議での合意を踏まえ,アジア諸国・地域のOA活動に関する情報を共有することを目的とした活動状況調査が各国で進められている。この調査の報告書は,COAR Asiaによって作成され,2017年前半にCOAR Asiaのメーリングリストとウェブサイトを通じて公表される予定である。また,次回会議は,2017年秋に,ネパールでの開催が予定されている。

京都大学附属図書館・冨岡達治
国立情報学研究所・田口忠祐

Ref:
https://www.coar-repositories.org/community/asia-oa/meeting-of-asia-oa/
https://www.coar-repositories.org/news-media/asian-open-access-meeting-2/
E1686
E1810
CA1880