カレントアウェアネス-E
No.284 2015.07.09
E1686
京都大学オープンアクセス方針採択の経緯
京都大学は,2015年4月28日に「京都大学オープンアクセス方針」を採択した。この方針は,京都大学に所属する教員が,京都大学学術情報リポジトリ(KURENAI)で研究成果を公開することを義務化するものである。公開対象となる研究成果とは学術雑誌掲載論文であり,図書等は含まない。また,出版社の不許諾,京都大学以外の共著者の不同意,その他の理由により公開できない場合は,適用例外の申請ができる。この方針の目的は,研究成果の自由な閲覧を保証することにより,学術研究のさらなる発展に寄与し,大学としての情報公開の推進と社会に対する説明責任を果たすことである。現在,研究成果の登録や適用例外申請などが簡便に行えるシステムを開発中であり,2015年度中には実運用を開始する予定となっている。
5月初旬に方針を公表したところ,大学図書館関係者から採択の経緯に関する質問が多くあったため,本稿では京都大学でこの方針がどのように成立したかを伝えたい。
発端は,2014年3月に引原隆士京都大学図書館機構長が電子ジャーナル等の調査のために北米の大学図書館を訪問した際,カリフォルニア工科大学やカリフォルニア大学ロサンゼルス校がオープンアクセス(OA)方針を定めて研究成果の公開を強力に推進していることに深く感銘を受けたことである。帰国後,機構長は京都大学でもできるだけ早期にOA方針を宣言するという強い意思を持ち,学術情報リポジトリ特別委員会を最初の検討の場とすることを決定した。
機構長の意向を受けて,附属図書館事務部では,特別委員会で検討を行う際の基礎資料を作成するため,図書館職員8名からなる「京都大学オープンアクセスポリシー検討プロジェクト」を立ち上げた。プロジェクトは,5月から6月までの間に,自機関に所属する研究者などに対し論文のOA化などを義務づける方針を策定している機関についての情報等をまとめたウェブサイト“ROARMAP”等を元にさまざまな海外大学の事例調査を行って,各ポリシーを項目ごとに比較した一覧表や一部のポリシーの日本語試訳を作成した。また,ハーバード大学の“Good practices for university open-access policies”がOA方針策定の際の論点を的確に整理していることに注目し,参考資料に選定した。11月には,図書館職員3名がワシントン大学,ミシガン大学,ハーバード大学等を訪問し,調査を行った。
2014年6月に,吉﨑武尚教授を委員長とする第1回学術情報リポジトリ特別委員会が開催された。上述の調査結果等に基づいてOAの動向と方針の概要を紹介し,京都大学での策定について協議した。研究成果公開の義務化によって,教員の負担が増大する懸念もあったが,ある委員から「京都大学が日本のオピニオンリーダーとなってポリシーを策定すべき」との意見が出され,検討を開始することが合意された。
8月の第2回特別委員会では,方針策定の目的,原則(方針採択後に教員が生み出した学術成果はOA化する),実施方法(KURENAIへの登録,Webインターフェースの開発,図書館職員による支援)を規定した基本方針案を検討し,9月の第2回図書館協議会で,この基本方針により以降の検討を進めることが了承された。
10月の第3回特別委員会では,日本語のOA方針案を協議し,12月の第5回図書館協議会に提案した。協議会では,義務化対象となる教員の範囲(常勤・非常勤など)の確認や適用例外の理由を公表すべきとの意見があり,再検討が決まった。
2015年2月の第4回特別委員会で,日本語の方針案を修正し,英語の方針案を協議した。第6回図書館協議会で,日本語案,英語案が承認された。両案は,協議会後に各協議員が部局に持ち帰って教授会等で報告を行うとともに,全学の図書館職員も各図書館・図書室の運営委員会等に報告して,教員の理解を得るようにした。
この後検討の場は大学の管理運営機構へと移り,機構長が図書館担当理事,研究担当理事に報告し,事務サイドも関係する事務部署への説明を行った。4月に部局長会議,教育研究評議会および役員会での承認を経て,正式に「京都大学オープンアクセス方針」として採択された。採択後の国内外への広報として,京都大学や図書館機構等のウェブサイトへの掲載や,大学記者クラブ加盟社への連絡,SPARC Japanへの報告,海外機関(“ROARMAP”,“JISC-REPOSITORIES”,“OpenDOAR”等)への周知等を行った。
機構長の海外調査から1年程で,「京都大学オープンアクセス方針」を策定できたのは,機構長のリーダーシップと,特別委員会の委員長や委員の前向きな姿勢,事務を担った附属図書館情報管理課の大村明美電子情報掛長の精力的な準備によるものである。今後,詳細な事務要領の作成やKURENAIへの登録増加に向けた対応など課題は多く残るが,方針採択を第一歩として,OAを着実に推進していきたい。
京都大学附属図書館・島文子
Ref:
http://www.kulib.kyoto-u.ac.jp/uploads/oapolicy.pdf
http://roarmap.eprints.org/
http://cyber.law.harvard.edu/hoap/Good_practices_for_university_open-access_policies
http://www.john-man.rp.kyoto-u.ac.jp/staff/pdf/report/2.H26ジョン万研修報告書HP更新(図書系:3名).pdf