E2459 – Asia OA Meeting 2021<報告>

カレントアウェアネス-E

No.427 2021.12.23

 

 E2459

Asia OA Meeting 2021<報告>

オープンアクセスリポジトリ推進協会事務局・安原通代(やすはらみちよ)
 

   2021年10月25日から27日の3日間にわたり,オープンアクセスリポジトリ連合(COAR)が組織するAsia OA Meeting 2021 “Innovation, Growth and Sustainability of Open Scholarship in Asia”が開催された。Asia OA Meetingはアジア各国のオープンアクセス(OA)およびオープンサイエンスに関わるコミュニティが,最新情報を交えながら議論する国際会議である(E2324ほか参照)。2021年はSingapore Alliance of University LibrariesのResearch Services Task Forceが主催となり,2020年に引き続き,オンラインで開催された。筆者も参加したので,内容の一部を報告する。

  期間中,学術コミュニケーションの分野におけるオープンインフラストラクチャーの現状と課題,ピアレビューへのさまざまなアプローチ等,テーマが異なる4つのパネルディスカッションが行われた。そのうちの一つである26日のパネルディスカッション2では,研究データリポジトリがテーマとされた。最初に,各パネリストが所属する機関の研究データリポジトリの紹介が行われた。インドネシアのNational Research and Innovation AgencyのHendro Subagyo氏らは,インドネシアの国立研究データリポジトリであるNational Scientific Repositoryについて,次に,東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センターのShuai Wang氏らは,社会科学データを収集,提供するSSJデータアーカイブについて紹介した。また,香港中文大学図書館のWendy Hoi Yan Wong氏は10月に試験運用が開始された同大学の研究データリポジトリを紹介し,タイ・マヒドン大学Mahidol Oxford Tropical Medicine Research UnitのNaomi Waithira氏は同機関におけるデータ管理と共有の取り組みについて説明した。後半のディスカッションでは,研究データ保存の大きな課題は何かといった質問がモデレータであるシンガポールの南洋理工大学図書館のYuyun Wirawati Ishak氏からあり,パネリストからはデータの質の担保や,研究者からデータ共有への理解を得ることの難しさ等の課題が挙げられた。一般参加者から研究者のデータ共有への意欲を高めるファクターについての質問があり,研究者間の協力がより可視化されたり,研究者がデータ共有することに利益を感じられたときにデータ共有への意欲が高まるといった回答があった。まとめとして,これから研究データ管理に関与する参加者へのアドバイスを求められ,パネリストからは,チームである研究者とのコミュニケーションが重要であることや,ポリシー等を作成する際には全ての関係者にわかりやすくシンプルにすることが大切である等の意見があった。

   2日に分けて行われたCommunity Update Sessionでは15の国と地域の報告者が各国のOA,オープンデータの現状について報告した。日本からは筆者がオープンアクセスリポジトリ推進協会(JPCOAR;E1830参照)の活動内容を中心に報告を行った。開催国であるシンガポールについては,National Institute of EducationのOoi Lian Ping氏が,シンガポールの主な研究助成団体のOA義務化のポリシーや,研究機関のOAポリシー,研究データ保存のポリシー等について紹介した。ネパールの非営利団体であるSocial Science BahaのJagadish Chandra Aryal氏は,COVID-19の影響によるネパールにおけるOAの重要性の高まりについて報告した。また,ベトナム科学技術アカデミー(Vietnam Academy of Science and Technology)のChu Ngan氏はベトナムのオープン教育資源であるVietnam Open Educational Resourcesを紹介した。

   27日のBusiness Meetingでは,2020年10月にCOARが公表したリポジトリに関するフレームワーク“COAR Community Framework for Good Practices in Repositories”を基にして,JPCOARの作業部会メンバーが作成したチェックリスト案と,チェックリストを用いて日本国内における機関リポジトリ・データリポジトリの運用実態を把握することを目的としたアンケート調査の計画についてファシリテータから紹介があり,アジアでの合同の調査が呼びかけられた。

   2020年に開催されたAsia OA Meetingでは,アジア地域での協力体制の必要性についての議論があったが,2021年の同会議は,アジア地域で共同しての活動がさらに具体的な形で呼びかけられることとなった。アジアの国や地域での事業協力が今後更に広がることが期待される。

Ref:
Asia OA Meeting 2021.
https://library.smu.edu.sg/asiaoa2021
“Asia OA Community of Practice”. COAR.
https://www.coar-repositories.org/asia-oa/
Repositori Ilmiah Nasional (RIN).
http://rin.lipi.go.id
東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センター.
https://csrda.iss.u-tokyo.ac.jp
CUHK Research Data Repository.
https://researchdata.cuhk.edu.hk
MORU Tropical Health Network.
https://www.tropmedres.ac
Nanyang Technological University.
https://www.ntu.edu.sg
Social Science Baha.
https://soscbaha.org
Vietnam Academy of Science and Technology.
https://vast.gov.vn/web/vietnam-academy-of-science-and-technology
Vietnam Open Educational Resources.
https://voer.edu.vn
“COAR Community Framework for Good Practices in Repositories”. COAR. 2020-10-08.
https://www.coar-repositories.org/coar-community-framework-for-good-practices-in-repositories/
リポジトリのグッドプラクティスのためのCOARコミュニティフレームワーク 第1版. JPCOAR, 2020, 6p.
http://doi.org/10.34477/00000534
“「リポジトリのグッドプラクティスのためのCOARコミュニティフレームワーク」チェックリスト ver.1”. JPCOAR. 2021-11-18.
https://jpcoar.repo.nii.ac.jp/records/2000087
安原通代. Asia OA Meeting 2020<報告>. カレントアウェアネス-E. 2020, (402), E2324.
https://current.ndl.go.jp/e2324
中谷昇. Asia OA Meeting 2019<報告>. カレントアウェアネス-E. 2019, (371), E2150.
https://current.ndl.go.jp/e2150
中谷昇. COAR Asia Meeting 2017<報告>. カレントアウェアネス-E. 2018, (340), E1988.
https://current.ndl.go.jp/e1988
冨岡達治, 田口忠祐. COAR Asia オープンアクセスサミット<報告>. カレントアウェアネス-E. 2017, (322), E1898.
https://current.ndl.go.jp/e1898
江川和子. オープンアクセスリポジトリ推進協会の発足. カレントアウェアネス-E. 2016, (309), E1830.
https://current.ndl.go.jp/e1830