カレントアウェアネス-E
No.402 2020.11.12
E2324
Asia OA Meeting 2020<報告>
オープンアクセスリポジトリ推進協会事務局・安原通代(やすはらみちよ)
2020年9月9日から16日にかけて,オープンアクセスリポジトリ連合(COAR)が組織するAsia OA Meeting 2020 “Building a Sustainable, Asian Knowledge Commons for Open Science Era”が開催された。Asia OA Meetingはアジア各国によるオープンアクセス(OA)およびオープンサイエンスに関する情報共有を支援する国際会議である(E2150ほか参照)。今回の会議は韓国科学技術情報研究院(KISTI)の主催であり,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により,オンラインでの開催となった。
全体のプログラムは3部構成になっており,イベント1 ではVirtual Conference として8人のスピーカーによる講演動画がウェブサイトで公開され、参加登録をすればコメントや質問の投稿が可能となっていた。日本からは国立情報学研究所(NII)オープンサイエンス基盤研究センター(RCOS)の山地一禎氏が登壇し,日本における国際レベルの研究データ基盤開発についての講演が公開された。KISTIのHey-Sun Kim氏による講演では,韓国のオープンサイエンスの現状およびKISTIの活動が紹介された。韓国全体でのOAポリシーは策定されていないが,データマネジメントプランの適用については試験的に実施されているとのことである。また,KISTIが2020年3月に正式に公開したOAプラットフォームであるKorea Open Access platform for Researchers(KOAR)や,2018年から開発している研究データプラットフォームKorea Research Data Platform(KRDP),2019年に開始した国家研究データプラットフォームであるDataOnの機能や提供するサービス等について説明があった。
イベント2ではZoomウェビナーを使用し,アジアにおけるOAの促進をテーマに,COARの事務局長であるKathleen Shearer氏やNIIの船守美穂氏を含む5人のパネリストによるパネルディスカッションおよび一般参加者との質疑応答があった。アジア諸国が協働できるオープンサイエンスプロジェクトにはどういったものが考えられるかという参加者からの質問には,まずは共通のビジョン,目的,価値観を確立する必要があり,そのためにはネットワークを確立して議論しなければいけないとの回答があった。また,地域のニーズと国際的な相互運用性のバランスをとるために,地震等の災害やCOVID-19等の国や地域を越えて共通する課題に焦点を当てた共同プロジェクトを実施する必要性について議論された。
イベント3ではAsia OA Member Workshopとして,Zoomウェビナーを使用して各国の報告者が自国のOA,オープンデータの現状について報告し,情報交換が行われた。日本からは筆者が日本の機関リポジトリの状況について,オープンアクセスリポジトリ推進協会(JPCOAR)の活動内容を中心に報告を行った。その他には,例えば,ミャンマーからの報告では2020年2月に公開されたMyanmar Education Research and Learning Portal(MERAL)について紹介された。MERALはミャンマー国内の研究成果を公開するリポジトリであり,本稿執筆時点で,19の大学が参加している。またNIIがミャンマー教育省高等教育局,ミャンマー大学学長協会およびEIFL(CA1800参照)と国際交流協定(MOU)を締結し,NIIにより開発中のリポジトリソフトウェアであるWEKO3を用いてMERALの構築を支援している。パレスチナの報告では,パレスチナにおける研究成果の可視化やアクセシビリティの向上のためのResearch Output Management through Open Access Institutional Repositories in Palestinian Higher Education(ROMOR)プロジェクトが紹介された。2017年から2019年の3年にわたる同プロジェクトでは,参加機関の機関リポジトリの立ち上げ,研究データ管理ポリシーの作成,OAへの理解促進や機関リポジトリ構築等のための研修教材の作成等の成果をあげ,同プロジェクト非参加機関のOAへの関心を高める効果ももたらしたことが報告された。
2019年に開催された同会議(E2150参照)と比較すると,今回の会議はオンライン開催であったこともあり,参加国数が大幅に増加した。特にイベント3のワークショップでは,2019年に報告を行ったのがインド,バングラデシュ,日本の3か国であったのに対し,今回は15の国と地域が報告を行い,オープンサイエンスに向けての活動状況が把握しにくい国や地域の情報を得ることができた。また,一般参加者からの質問もZoomのQ&A機能を利用して活発なものとなった。全体を通して,アジア地域での協力体制の必要性についての議論もあり,このAsia OA Meetingの開催が更なるOAおよびオープンサイエンスに関する情報共有と,事業協力の活性化へつながることが期待される。
Ref:
Asia OA Meeting 2020.
https://2020korea.asiaoa.org
KISTI.
https://kisti.re.kr/eng/
“Myanmar Education Research and Learning Portal”. EIFL. 2020-05-31.
https://www.eifl.net/news/myanmar-education-research-and-learning-portal
MERAL.
https://meral.edu.mm/
“Myanmar to be first country in ASEAN Region to launch free and open national research portal”. NII. 2020-02-21.
https://www.nii.ac.jp/en/news/release/2020/0221.html
“ミャンマーの国家ポータルMERALの創設において、NIIは国際交流協定(MOU)を締結しました”. RCOS. 2020-02-21.
https://rcos.nii.ac.jp/news/2020/03/20200303-0/
ROMOR.
http://romor.iugaza.edu.ps/romor/
Awadallah, Rawia. Research Output Management through Open Access Institutional Repository. ROMOR, 26p.
http://romor.iugaza.edu.ps/romor/images/documents/ROMOR_IUG_ROMOROVERVIEW_200117_Rawia-Awadallah.pdf
中谷昇. Asia OA Meeting 2019<報告>. カレントアウェアネス-E. 2019, (371), E2150.
https://current.ndl.go.jp/e2150
中谷昇. COAR Asia Meeting 2017<報告>. カレントアウェアネス-E. 2018, (340), E1988.
https://current.ndl.go.jp/e1988
冨岡達治, 田口忠祐. COAR Asia オープンアクセスサミット<報告>. カレントアウェアネス-E. 2017, (322), E1898.
https://current.ndl.go.jp/e1898
井上奈智. EIFL:その組織と活動. カレントアウェアネス. 2013, (317), CA1800, p. 5-7.
https://doi.org/10.11501/8308152