CA1800 – EIFL:その組織と活動 / 井上奈智

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カレントアウェアネス
No.317 2013年9月20日

 

CA1800

 

 

EIFL:その組織と活動

 

電子情報部システム基盤課:井上奈智(いのうえなち)

 

1. EIFLの組織

 本稿では、開発途上国において、図書館を通じた情報へのアクセス向上に取り組んでいるElectronic Information for Libraries(以下、EIFL)の組織と活動を紹介する。

 EIFL(1)は、1999年に設立された非営利団体である。設立当初の名称は「eIFL.net」であったが、2010年に「EIFL」に変更された(正式な名称は、現在も「eIFL.net」のままである)。名称の変更に併せて、「Knowledge without boundaries」(境界なき知識)というスローガンを設けた(2)

 EIFLは、その使命に、開発途上国の情報格差を埋めるために、図書館を通じた知識へのアクセスを可能にすることを掲げている。知識へのアクセスが、教育や研究、生活の向上、社会の発展を成り立たせる人類の生産活動の基礎となることは言うまでもない。しかし、商用のデジタル情報資源の高騰、法的障壁、技術基盤の不十分さなどの要因により、世界の多くの人々が知識へのアクセスを十分に享受できない状況が存在してきた。EIFLはこの点に危機感を持ち、良質な情報資源及びサービスの提供を行う図書館の機能が十分に発揮できるよう、多角的な活動を行い、知識へのアクセスの向上を図っている(3)

 この使命は、EIFLが初期に手掛けた仕事からもうかがえる。設立当初は主に、中欧・東欧諸国の大学図書館や学術研究図書館のために、商用の電子ジャーナルを手軽な価格でアクセスが可能となるように、運動を繰り広げていた(4)

 EIFLは、現在、オランダとイタリアにオフィスを置き、アフリカ、アジア、ヨーロッパ、ラテンアメリカにある60以上の開発途上国で活動を行っている(5)

 EIFLは、もともとジョージ・ソロスが創設した財団ネットワークであるOpen Society Institute (OSI。現在のOpen Society Foundations(OSF))のプロジェクトとして開始された。OSIの基金がその活動資金であった(6)。2012年におけるEIFLの予算は、1,677,096ユーロ(現在のレートで約2.2億円)である(7)。その96.3%は、プログラムによる収益や、OSI中核活動資金によるとされている。残りの3.7%は、スポンサーや利子などによる収入であり、アンドリュー•W•メロン財団、ビル•アンド•メリンダ•ゲイツ財団、フォード財団などの財団や、欧州委員会の第7次フレームワーク計画及びテンプス計画、ユネスコなどから資金が提供されている(8)

 EIFLは、その使命を達成するため、長年の間、さまざま組織と連携して活動している。例えば、国際図書館連盟(IFLA)、ユネスコ(UNESCO)、世界知的所有権機関(WIPO)、SPARC Europe(CA1469参照)などと提携している。またCreative Commons、DOAJなどにも関与している(9)

 

2. EIFLの活動

 EIFLの活動の中心は、人々の知識へのアクセスに関わる5つのプログラムを実施することである。EIFLはこれらを、2つの領域、すなわち、「教育・学習・研究のための知識へのアクセス」と「持続可能な地域開発のための知識へのアクセス」に大別している(8)

 まず教育・学習・研究のための知識へのアクセスについては、EIFL-Licensing、EIFL-OA、EIFL-IP、EIFL-FOSSの4つのプログラムを実施している。開発途上国の中には、学生や学者が、学習や研究のための情報源へのアクセスについて、完全に図書館に頼っていることも少なくない。この状況下においては、図書館が情報通信の技術基盤とその技術に精通したスタッフを有し、そして包括的なデジタルコレクションの提供を行うことで、学生や学者に不可欠な支援を行うことができるとして、多角的にプログラムを実施しているのである(10)

 持続可能な地域開発のための知識へのアクセスについては、EIFL-PLIPというプログラムを実施している。ここでは情報通信技術(ICT)の活用に着目した事業を展開している。すなわち、テクノロジーを通じた知識へのアクセスは、人々の生活の向上に貢献するものであるにも関わらず、支援を最も必要とする国で、公共図書館に必要な資源が不足しているとして、公共図書館におけるテクノロジーを活かした革新的なサービスの実施を支援している(11)

 このほか、EIFLでは、EIFL-Consortium Managementというプログラムも実施している。

 以下では、これら6つのプログラムについて順に見ていく。

 

(1)EIFL-Licensing(ライセンスプログラム)(12)

 研究と教育のために不可欠である、学術情報へのアクセスを高めるために、利用料の割引と公正な利用規約を求めて出版社と交渉する。例えば、EIFL の交渉の結果、現在、25以上の出版社から60を超える商用のデジタル資源が、多くの場合無償で、図書館における利用が可能となっている。2012年には、EIFLとともに活動する図書館では、平均97%の割引となり、合計2.15億ドル(現在のレートで約220億円)の節約がなされた。

 

(2)EIFL-OA(オープンアクセスプログラム)(13)

 オープンアクセス方針や義務化の導入にむけた提唱活動を行う。また、オープンアクセスのリポジトリを構築し維持する能力を育成する。例えば、2003年から2012年の間に、37か国でイベントやワークショップが開催され、50を超える国から52,359人が参加した。他にも、オープンアクセス支援のための国際連携組織(COAR)の設立メンバーであり(E992参照)、オープンアクセス学術出版社協会(OASPA)の発足にも協力している(E849参照)。ウェブサイトで、オープンアクセス出版の調査報告書やデータを公開している(14)。現在、EIFLとともに活動する国では、600以上のオープンリポジトリと3,400以上のオープンアクセスジャーナルがある。

 

(3)EIFL-IP(著作権等に関するプログラム)(15)

 知識へのアクセスを提供する図書館を支援するため、公正でバランスのとれた著作権制度の普及啓発活動を行う。例えば、ハーバード大学ロースクールと共同で開発した教材や、欧州孤児著作物指令(CA1771参照)や視聴覚的実演に関する北京条約などのトピックについての実用的なガイドをウェブサイトで公開している。また、EIFL-IPを通じて、2012年だけでも6,000人以上の図書館員が研修を受けている。さらに、研修を受けた図書館員のネットワークが、35か国以上で構築されている。

 

(4)EIFL-FOSS(無料のオープンソースソフトウェアプログラム)(16)

 無料のオープンソースソフトウェアの導入を支援し、図書館が大幅なコスト削減を達成できるように、必要な研修を提供する。例えば、ウェブサイトで、free and open source software (FOSS)を導入するためのツールやノウハウを公開している。また、2009年から2010年にかけては、アフリカ電子図書館支援ネットワークプロジェクトを実施し、ケニアやナイジェリアなど8か国において、Greenstone(E873参照)を用いた電子図書館の構築を支援した。

 

(5)EIFL-PLIP(公共図書館イノベーションプログラム)(17)

 開発途上国の公共図書館と協力して、地域のコミュニティが必要とする革新的なサービスを指導し、持続可能な開発を支援する。また、成功した革新的な公共図書館コミュニティが開発したサービスについての知識の共有化をはかり、他の公共図書館によるサービスの模倣を支援する。例えばICTを活用して農業支援プログラムに取り組む図書館(18)E1425参照)や、ホームレスの社会復帰を支援する図書館(19)E1322参照)など、 これまで23か国の39の革新的サービスに対して資金を提供している。また社会的包摂や女性の経済活動の促進を図る革新的サービスを実施する図書館に対して、イノベーション賞を贈与するプログラムも実施しており、例えばセルビアの金融に関する教育を実施する図書館(20)E1340参照)などが受賞している。

 

(6)EIFL-Consortium Management(コンソーシアム運営プログラム)(21)

 図書館コンソーシアムとは、同じ目標を共有する図書館のグループのことである。EIFLでは、この図書館コンソーシアムが存在することによって利害関係者や政策担当者、資金提供者にまとまった意見として届けることができるようになると考え、全国的な図書館コンソーシアムの設立や強化を支援している。現在、45か国以上の国のコンソーシアムとともに活動しており、そのほとんどを初期段階から支援している。

 

3. まとめ

 上でみたように、EIFLは、デジタル情報資源を中心に、図書館を通じた情報へのアクセス向上を目指し、広範かつ実務的な提言を行っており、その成果の多くをウェブサイトで公開している。

 日本は、EIFLが活動する国ではない。しかし、日本の図書館は、地方自治体の財政悪化による図書館予算の減少や、電子ジャーナルの高騰、図書館システム費用の増大など、EIFLが立ち向かっている課題と同様の問題を抱えているとみることもできるだろう。EIFLの発するメッセージには、開発途上国にとどまらず、日本でも参考になるアイデアが詰まっている。

 

(1) EIFL スタッフが、2005年に、自らの組織及び活動をまとめたものとして、以下の論文がある。
Kupryte, Rima et al. The eIFL.net Initiative: Access and Management of Electronic Resources by Library Consortia in Developing and Transition Countries. Serial review. 2005, 31(4), p. 256-260.
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0098791305001024, (accessed 2013-08-06).

(2) “Who we are”. eifl.

http://www.eifl.net/who-we-are, (accessed 2013-07-23).

(3) Ibid.

(4) Ibid.

(5) eifl. http://www.eifl.net/home, (accessed 2013-07-23).

(6) Kupryte. op. cit.

(7) eifl. financial report: eifl income and expenditure 2012 . EIFL 2012 annual report . 2012, p. 19.
http://www.eifl.net/eifl-2012-annual-report, (accessed 2013-07-23).

(8) “Our funders”. eifl.
http://www.eifl.net/our-funders, (accessed 2013-07-23).

(9) “Our partners”. eifl.
http://www.eifl.net/our-partners, (accessed 2013-07-23).

(10) “Who we are”. eifl.

http://www.eifl.net/who-we-are, (accessed 2013-07-23).

(11) “What we do” . eifl.
http://www.eifl.net/what-we-do, (accessed 2013-07-23).

(12) “EIFL-Licensing” . eifl.
http://www.eifl.net/licensing, (accessed 2013-07-23).

(13) “EIFL-OA: open access” . eifl.
http://www.eifl.net/openaccess, (accessed 2013-07-23).

(14) “EIFL-OA: Results of the SOAP Survey: EIFL Partner Countries”. eifl.

http://www.eifl.net/news/results-soap-survey-eifl-partner-countries, (accessed 2013-08-06).

(15)”EIFL-IP: copyright and libraries”. eifl.
http://www.eifl.net/copyright , (accessed 2013-07-23).

(16) “EIFL-FOSS: free and open source software”. eifl.
http://www.eifl.net/foss , (accessed 2013-07-23).

(17) ” EIFL- PLIP: Public Library Innovation Programme”. eifl.
http://www.eifl.net/plip, (accessed 2013-07-23).

(18) Ehrke, Amber. “Five public library services that improve farmers’ live”. Beyond Access. 2013-04-08.

http://beyondaccess.net/2013/04/08/five-public-library-services-that-improve-farmers-lives/ , (accessed 2013-07-23).

(19) “Zagreb City Libraries, Croatia”. eifl.
http://www.eifl.net/zagreb-city-libraries-croatia , (accessed 2013-07-23).

(20) “Europe winner – Belgrade City Library, Serbia”. eifl.
http://www.eifl.net/eifl-plip-innovation-award/award-1-economic-wellbeing#europe, (accessed 2013-07-23).

(21) “EIFL-Consortium Management”. eifl.
http://www.eifl.net/consortium-management, (accessed 2013-07-23).

 

[受理:2013-08-15]

 


井上奈智. EIFL:その組織と活動. カレントアウェアネス. 2013, (317), CA1800, p. 5-7.
http://current.ndl.go.jp/ca1800

Inoue Nachi.
EIFL:Its Organization and Activity.