PDFファイルはこちら
カレントアウェアネス
No.317 2013年9月20日
CA1799
岡山大学における博士学位論文のインターネット公開義務化について
岡山大学附属図書館:山田智美(やまだともみ)
はじめに
2013年4月1日付けの学位規則改正により、博士学位論文の公表が従来の印刷公表に代えて、インターネット利用による公表とすることになった。このインターネット利用による公表とは大学等の協力を得て行うもの、とされており、機関リポジトリによる公表を前提としている(1)(E1418参照)。機関リポジトリ(以下、リポジトリ)とは、大学等の研究機関が自機関の研究・教育成果を電子的に保存し、インターネットを通じて無償公開するものである。
岡山大学ではこれに先駆け、2011年度から博士学位論文のインターネット公開を大学として義務化した。この義務化の経緯について報告する。
1. リポジトリにおける研究成果の公開義務化の前例
リポジトリにおける研究成果の公開義務化は海外では、米国のハーバード大学で一部の学部が所属研究者にリポジトリへの論文提供を義務付けた例や、米国国立衛生研究所(NIH)が研究助成に関わる論文をPubMed Centralで公開をすることを義務付けた例などがある(2)。また、国内では北海道大学が研究成果をリポジトリで公開することを学内全ての研究者に強く「推奨」するとした例(3)や、名古屋工業大学が所属教員の公表論文を原則リポジトリ公開するとした例がある(4)。
2. 岡山大学での博士学位論文の公開義務化への動き
岡山大学のリポジトリは2006年4月公開から、学内発行誌を中心にコンテンツを増やしてきた。
一方、図書館では学内発行誌以外の資料も収集したい、という希望もあり、2011年度に学術雑誌のリポジトリ登録義務化を当時の館長に要望したところ、共感した館長が積極的に大学の執行部に働きかけて博士学位論文と学内プロジェクト研究成果論文のリポジトリ登録義務化について賛同が得られた。その後、2011年11月に学内の役員政策会議で決定、12月学内部局連絡会で報告、という形で学内合意の形成ができた。
義務化の対象が博士学位論文、学内プロジェクト研究成果論文となったのは、博士学位論文は本来公表を前提としたものであること、学内プロジェクトは大学経費を使っているので説明責任があるため義務化できるのではないか、という執行部の判断からである。
3. 博士学位論文の公開義務化運用について
博士学位論文公開義務化の実際の運用にあたって、博士学位授与予定者全員にリポジトリ登録許諾確認書(以下、許諾書)の提出を求めることとした。義務化についての説明書の配付、許諾書と博士学位論文全文データの取りまとめは各研究科教務担当へ依頼した。
許諾書には「許諾しない」という選択肢も残し、許諾しない場合は理由を明記してもらうこととした。義務化としながらも「許諾しない」という選択肢を残した理由は、著者と教員に受け入れやすい形でスタートしたい、と考えたためである。
なお学位規則改正後は許諾確認欄を無くし、代わりに公表についての条件と、1年以内に公表できないとする場合は理由についての記入を求めることにしている。
博士学位論文公開義務化の決定が2011年11月であったので、2011年度については周知のみ行い、任意で許諾書を提出してもらった。2012年3月授与分について、学位授与者数150名のうち許諾書の提出があったのは38名、うち許諾が得られて登録できたのは32件であった。
4. 2012年度の実施結果
2012年9月授与分から義務化実施の対象とした。
実際の運用は前述のように、各研究科教務担当に許諾書と全文データの取りまとめを依頼したが、研究科によって事情が異なるため、取りまとめ方法は各研究科教務担当に一任した。
学位申請時に他の必要書類と一緒に提出を求める研究科や、学位申請時に説明書と許諾書の用紙を配付して授与日までに提出を求める研究科など、実際の運用は様々であった。
2012年度は、学位授与者数218名のうち許諾書の提出があったのは209名で、うち許諾件数は176件であった。許諾書未提出者には教務担当から引き続き提出を求めている。
許諾しない理由としては以下のものがあった。
- 特許に関する内容を含んでいる
- 学会誌へ投稿を予定している
- 企業活動に影響する
- 著作権が把握できていない
- 共同研究者または共著者の同意が得られていない
現在、2012年9月授与分41件(授与者数55名)、および12月授与分12件(授与者数14名)をリポジトリに登録済で、2013年3月授与分については登録準備を進めているところである。
まとめ
岡山大学における博士学位論文のインターネット公開義務化の運用には各研究科教務担当の協力が欠かせなかった。業務負担増にも関わらず協力が得られたのは、大学としての義務化という後ろ盾があったためと、オープンアクセスの理念について担当者の理解が得られたためと考えている。
大学としての義務化が決まる以前は、可能な研究科からの実施を考えていたが、義務化により足並みを揃えて実施できたことは大きな成果であった。
また、最初に触れた2013年4月1日付け学位規則改正については、改正通知があった後、学内規則改正、学位申請者向案内の内容、提出書類や提出物の確認、リポジトリ登録に関する事務手続きなどについて、学内関係部署と打合せを行った。現在のところ大きな混乱はなく、比較的順調に対応できている。これは大学としての義務化の経験によるところが大きいと考えている。
ただし、今後はこれまでより厳密な運用が求められることから、書類提出の徹底、公表期限の遵守、論文全文がリポジトリ登録できない場合の対応など、課題も多いが、学位規則を遵守できるよう学内関係部署との連携により対応していきたい。
(1) 文部科学省. “学位規則の一部を改正する省令の施行について”.
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/daigakuin/detail/1331790.htm, (参照 2013-06-17).
(2) 時実象一. オープンアクセス: 機関リポジトリの最近の動向. 情報の科学と技術. 2009, 59(5), p. 231-237.
http://tokizane.jp/Ref/TokiPDF/Tokizane-JKG-2009-59(5)-231.pdf, (参照 2013-06-10).
(3) 北海道大学. “北海道大学学術成果コレクション運営方針”. HUSCAP. 2007-11-22.
http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/staff/policy_ja.jsp, (参照 2013-06-23).
(4) 名古屋工業大学附属図書館. “機関リポジトリへの登録推進について”. お知らせ. 2012-10-12.
http://www.lib.nitech.ac.jp/oshirase/index.html#koukairepo, (参照 2013-07-20).
[受理:2013-08-12]
山田智美. 岡山大学における博士学位論文のインターネット公開義務化について. カレントアウェアネス. 2013, (317), CA1799, p. 4-5.
http://current.ndl.go.jp/ca1799
Yamada Tomomi.
A Case Report on the Obligation to Make Doctoral Dissertation Openly Accessible via the Internet in Okayama University.