E1418 – 博士論文のインターネット公表:学位規則改正

カレントアウェアネス-E

No.235 2013.04.11

 

 E1418

博士論文のインターネット公表:学位規則改正

 

 学位の授与等について定めた学位規則(昭和28年文部省令第9号)の一部がこのほど改正され,2013年4月1日以降に授与された博士の学位に係る論文(博士論文)は,原則として従来の印刷公表に代えて,インターネットを利用して公表されることになった。この改正により,基本的には2013年4月1日以降の学位授与に係る国内の全ての博士論文へのオープンアクセスが実現することになる。今回の学位規則改正は,大学における教育研究の成果である博士論文の流通促進に大きく貢献するものと言えるだろう。

 学位規則は,博士論文の質を担保するという観点からその公表について規定しているが,今回の改正は,情報化が進展する中,電子形態での公表とすることでその目的をより効果的に達成することを主な趣旨としている。

 改正学位規則では,博士号取得者は,学位授与日から1年以内に,大学等の協力を得て論文全文をインターネットで公表することが義務付けられた。そのため,例えば共著論文を博士論文としたい場合には,共著者に事前にインターネット公表の許諾を得ておかねばならない等,学位請求者も論文執筆段階から注意が必要となる。ただし,インターネット公表ができない内容を含む(立体形状による表現を含んでいたり著作権や個人情報に関する制約があることを想定),または公表により不利益が生じる(特許申請や出版刊行の予定があることを想定)等,やむを得ない事由がある場合には,大学等の承認を得たうえで,全文に代えて要約を公表することが可能とされている。もっともこの場合でも,やむを得ない事由が解消すれば,全文をインターネットで公表しなければならない。また,博士論文の内容要旨及び論文審査の結果の要旨についても,大学等に対し,インターネットでの公表を義務付けている。

 公表にあたっては,学位授与大学等の機関リポジトリ(国立情報学研究所(NII)が提供する共用リポジトリサービスによるリポジトリを含む)を利用することが原則とされている。機関リポジトリを有しない大学等については,機関リポジトリが整備されるまでの間,大学等のウェブサイトでの公表や,後述する国立国会図書館(NDL)への送信及びNDLによるインターネット提供をもって,機関リポジトリによる公表に代えることができる。

 NDLは,文部省(当時)からの移管分のほか,同省の通知(昭和50年文大大第150号)に基づき大学等から送付された博士論文約55万件(2013年3月現在)を保存し,利用に供している。インターネットで公表される博士論文についても引き続き,文部科学省の通知(平成25年3月11日24文科高第937号)に基づき,網羅的な収集を図り,学術研究成果の保存と公開の一翼を担う。今後は論文の公表手段等に応じて,(1)NDLによる自動収集(2014年度以降開始予定),(2)NDLのシステムを利用した大学等からの送信(2014年早期開始予定),(3)大学等からの印刷物の送付(電子形態が存在しない場合),のいずれかの方法により収集していく。(1)は,NIIがメタデータを収集する機関リポジトリで公表する場合に該当するが,NIIは今回の学位規則改正に合わせて,機関リポジトリのメタデータフォーマット「junii2」をバージョン3.0に改訂しており,大学側はこの改訂に対応する必要がある。NDLは,あらかじめ大学等に提示した利用条件の範囲,かつ大学等が承諾した範囲において,館内での閲覧,複写物の提供,公衆送信のサービスを行う予定で,詳細はNDLのウェブサイトに記載している。

 博士論文は,専門分野の最新の動向を反映し,多くの新しい知見を含む貴重な学術資料である。にもかかわらず,これまでは学位授与大学等とNDLにしか保管されていない場合が多く,誰もが容易に利用できるとは言い難い状況だった。NDLは,利用促進と利便性の向上のため,1991~2000年度に送付を受けた約14万点をデジタル化し,著者から許諾が得られたものについてはインターネット提供しているが,著者の連絡先の特定が極めて困難である等の理由により,その数は限定的なものにとどまっている。インターネットでの公表が原則義務付けられたことで,状況は大きく改善する。さらには,特に若手研究者のオープンアクセスに対する意識を高めるきっかけとなるかもしれない。今回の学位規則改正は,学術研究成果の流通の促進,さらには研究の質の向上に向けた,新たな一歩だと言えるだろう。

(関西館電子図書館課)

Ref:
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/daigakuin/detail/1331790.htm
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/hakuron.html
http://www.nii.ac.jp/irp/archive/system/junii2.html