E1417 – 音声遺産の保存と継承のために-全米録音資料保存計画の概要

カレントアウェアネス-E

No.235 2013.04.11

 

 E1417

音声遺産の保存と継承のために-全米録音資料保存計画の概要

 

 2013年2月,米国議会図書館(LC)は全米に存在する録音資料の保存計画“The Library of Congress National Recording Preservation Plan(全米録音資料保存計画)”を発表した。

 現在,全米の図書館,アーカイブ,公共機関等には,約4,600万点の録音資料が存在し,その多くは適切な保存が必要である。これらの録音資料について,米国連邦議会は米国の貴重な録音資料を保存する目的で,全米録音資料登録簿や全米録音資料保存委員会の設立などを規定した全米録音資料保存法を2000年に制定し,録音資料の保存に関するさまざまな取り組みを行ってきた(E053参照)。

 本計画は,これまでの取り組みの集積であり,初の全米規模の体系的保存計画である。本計画では「保存のためのインフラ」,「保存戦略を実行するための詳細計画」,「教育目的のためのパブリックアクセスの推進」,「保存とアクセスのための長期的・全国的な戦略」の4つの分野について32の提言がまとめられている。本稿では,それら4つの分野の主な提言を紹介する。

 1つめの「保存のためのインフラ」の分野では,原資料及びデジタル化データの保存のためのインフラ整備,保存やアクセス等に関する専門家の育成,保存の最新技術の研究について提言がなされている。インフラ整備としては,低温低湿の保管環境やデジタル化設備を備えた施設の整備,デジタルファイルのストレージの確保に加え,デジタルデータを保存するためのデジタルリポジトリシステムの構築を行うべき,とある。また,録音資料のデジタル化等の専門的知識・技能を身に付けた専門家を育成するために大学での教育プログラムや社会人教育を実施すること,録音資料保存に関する情報をまとめて最新情報や知識の共有ができるオンラインサイトを構築することが提案されている。

 2つめの「保存戦略を実行するための詳細計画」の分野では,録音資料保存のためのマネジメントや新しい技術とガイドラインに関しての提言がなされている。保存のためのマネジメントについての具体的内容としては,非専門家でも活用できるデジタル化の手引や,デジタル化の優先順位の評価方法の策定,公的機関と民間セクターとの協力体制を築くためのガイドラインの普及などが指摘されている。保存のための新しい技術とそのガイドラインとしては,音声素材保存の効率的なワークフローの構築,デジタルオーディオファイルのメタデータの標準化とそのガイドラインを作成することが掲げられている。

 3つめの「教育目的のためのパブリックアクセスの推進」の分野では,資料検索,著作権法の改正,合法的にアクセスできる環境の改善について提言されている。資料検索については,米国に存在する全ての録音資料を研究者が効率的に検索する方法・手段がないという問題を解決するため,全米規模のディスコグラフィーや録音資料コレクションディレクトリの作成が提言されている。目録作成については,LCが中心となり専門家によるワーキンググループを作り,目録の必須データを決め,目録作業におけるベストプラクティスを開発すべきであるとしている。また著作権法に関しては,米国では1972年2月15日以前に制作された録音資料は,連邦政府の著作権法が適用されない。また,研究施設外での研究者等の利用が認められないことや、著作権者を特定できないいわゆる“孤児作品”を利用できない問題が指摘されている。このため,1972年2月15日以前の著作物も連邦著作権法を適用することや,連邦著作権法第108条を改正し図書館等での取り扱いを許容していくことなど,著作権法制度上の改革の必要性が述べられている。

 4つめの「保存とアクセスのための長期的・全国的な戦略」の分野では,全米録音資料保存委員会の活動と役割の拡張,全国規模の収集方針の策定,保存プログラム実行のための資金調達,保存プログラムの定期的な評価などについて提言がなされている。全米録音資料保存委員会については,現在行っている全米録音資料登録簿の管理や登録,録音資料の保存や修復の調査研究指導などに加え,本計画に基づく長期的な保存プログラムの実行と,録音資料と保存に対する国民の関心喚起の責務を担うこととしている。さらに公的機関と民間セクターの代表者によって保存プログラムの実施諮問委員会を設立しさまざまな助言を行うことが提言されている。また,全米規模の資料収集方針の策定の中では,配信音楽などのオンライン資料の収集についても触れられている。

 以上の論点の他にも,過去の再生技術や旧式再生装置などの保存などについても取り上げられている。録音資料の保存とアクセスに係るさまざまな問題点とそれらの解決につながる提言をまとめた今回の保存計画は,日本における今後の録音資料保存の取り組みにも,おおいに参考になるだろう。

(利用者サービス部音楽映像資料課・山本俊亮)

Ref:
http://www.loc.gov/rr/record/nrpb/PLAN%20pdf.pdf
http://www.clir.org/pubs/reports/pub148/reports/pub148/pub148.pdf
E053