カレントアウェアネス-E
No.236 2013.04.25
E1425
農家の生活向上を支援する各国の公共図書館サービス5事例
農業が基幹産業である地域にとって,農家の生活や所得の向上は重要な課題である。農業発展への取組みのパートナーとして,公共図書館に着目する動きがある。国際NGOであるEIFL(Electronic Information for Libraries)の公共図書館イノベーションプログラム(PLIP)では,ICTを活用して農業支援プログラムに取り組む各国の図書館に着目し,複数の革新的なプログラムに対し資金提供をするなどして,支援している。2011年から2012年にかけて行われたEIFLから1万5,000米ドルの助成金が提供された5つの事例について,それらが農家の生活・所得向上に貢献したことが報告されている。その中には,ベーシックなICTの利活用の研修プログラムから,日本にはあまり見られない実践も含まれており,興味深い。
アルメニアの田舎町Berdでは,公共図書館が農家の有機農法への関心を高め,農産物のネット販売の機会を拡大する取組みを実施した。アルメニアでは,農業省は,地方に改良普及員を派遣する余裕がなく,またそのサービスを伝えるウェブサイトは開設されているが,地方のインターネット環境は不十分で農家が利用していない状況だった。Berd公共図書館は,EIFLからの助成金を用いて,ICTの研修スペースを整備し,開始から1年で22件の研修コースを用意し,150人に研修を実施した。
コロンビアの公共図書館Laboratorio del Espirituでは,El Retiro周辺の遠隔農村地域にある6つの農村に対して,収入につながる活動を支援し,また電子メールやSNSなどを用いて情報発信する活動を支援した。さらに,将来ラジオ局を開設すべく,ラジオ番組を作る研修を提供した。EIFLの助成金は交通費などにも活用され,1年で130人の農家がICTの研修を受け,20人がラジオ番組制作の研修を受けた。地方の発展に寄与したとして賞を受賞し,今後は,ラジオ局を開設するとともに,さらに遠方の農村にもサービスを拡大していくという。
ラトビアのKlintaine公共図書館では,農家と農業専門家の橋渡しをするウェビナーを活用した研修を提供した。EIFLの助成金はそのためのプロジェクターやウェブカメラ等の備品の購入,ウェビナーの運営費にあてられた。また,農業省を説得し地域の農業に関する会議をウェブでライブ配信した。ウェビナーは,農家の自宅からはもちろん,ラトビアの他の地域の公共図書館に来館しての利用もできるよう,他の公共図書館とも協同して進められた。1年で8つのウェビナーが20の公共図書館やその他の機関との協力で実施され,視聴件数は1,878件あった。農家は政府の補助金や農業環境の評価などについて学んだという。
リトアニアのPasvalys Manus Katiliskis公共図書館では,農家向けにモバイルでの情報提供とビジネス支援サービスが展開された。Pasvalysは,人口の3割を占める農家の大多数が小規模農家という地域であり,農業とビジネスとの連携強化や,持続可能な農村振興を目指している。図書館では,地域の農家が正確な情報へのアクセスとともに,オンラインでの宣伝の機会を必要としているとのニーズを捉え,Pasvalys Soilというポータルサイトを立ち上げた。これは,特に大規模農業と競争しなくてはならない小規模農家のためのものであり,生産物の広告を無料で掲載することができるというものである。EIFLの助成金を用いてICTの活用,特にスマートフォンの活用についての研修などがなされ1年で120人が研修を受け,また,作成された宣伝用のリーフレットは600点に上った。今後については,EUの農村振興プログラムからも助成金を受け,ウェブポータル等のサービスが拡張することとなったという。
マケドニアのGoce Delcev-Stip地域公共・大学図書館では,農家が助成金や補助金を得ることを支援するプログラムが展開された。EUへの正式な加盟を目指すマケドニアでは,2012年度に政府が1億2,000万ユーロの農業補助金を用意したが,その手続きは複雑であり,特にオンラインでの申請が求められている。その一方で農家のICTスキルや環境は十分でないという状況であった。そこで,EIFLの助成金を用いて,農業に関する本や雑誌のほか,その場で補助金情報にアクセスする方法を学べるよう設備を兼ね備えた移動図書館“INFOBUS”を導入した。このバスは,図書館がない4つの農村を巡回した。1年のうちに30件のセミナーが実施され,また145の農家に対して助成金や補助金の申請について個別指導が行われたという。
EIFL-PLIPにおいて着目されたこれらの事例には,補助金情報の入手支援や農家の情報発信支援の必要性など日本の状況とも共通する課題に向き合い,アイデアを絞った様子が見受けられる。地域の発展のために1万5,000米ドルが配分されたら,図書館はどう効果的に活用してみせるのか。まだいろいろなアイデアがありそうである。
(関西館図書館協力課・依田紀久)
Ref:
http://beyondaccess.net/blog/2013/04/08/five-public-library-services-that-improve-farmers-lives/
http://www.eifl.net/public-library-berd-community-armenia
http://www.eifl.net/public-library-laboratorio-del-espiritu-colombia
http://www.eifl.net/klintaine-public-library-latvia
http://www.eifl.net/pasvalys-marius-katiliskis-public-library-lithuani
http://www.eifl.net/regional-public-and-university-library-goce-delcev