カレントアウェアネス-E
No.236 2013.04.25
E1424
デジタル教科書の最前線:東京書籍にインタビュー
教科書出版を手掛ける東京書籍株式会社は,2013年3月25日に高等学校のiPad向けデジタル教科書をリリースした。今回,東京書籍ICT事業本部制作部の長谷部直人さんにお話を伺った。
●今回リリースされたデジタル教科書の概要を教えてください。
今回リリースしたデジタル教科書は,以下の14点です。「国語総合」,「世界史A」,「現代社会」,「数学I+A」,「新編数学I+A」,「新数学I+A」, 「新編化学基礎」,「新編生物基礎」,「Communication English I」 (「PROMINENCE I」,「Power On I」,「All Aboard!I」の3点),「NEW FAVORITE I」,「社会と情報」,「家庭基礎」。価格は,英語以外の10点が4,300円,英語4点が6,500円です。
デジタル教科書開発のコンセプトは,紙の教科書紙面を忠実に再現し,そこに様々な機能を盛り込んで付加価値を高めること,生徒が自学自習で使用する際にも,先生方が一斉授業で使用する際にも使いやすいよう配慮することです。
●コンテンツの機能について教えてください。
紙面の拡大・縮小表示,ページ送りといった基本機能に加え,紙の教科書で実現できない機能として音声教材があります。英語ではネイティブによる本文の音声に加え,単語を表示しながら音声を流すフラッシュカード,同様に意味のまとまりごとに表示させるスラッシュリーディング,一文ずつ表示させるカードなどの音声教材を収録しています。国語でも本文の朗読に加え,漢詩の書き下し文,中国語読みの音声を収録しています。
映像教材も各教科で豊富に収録しています。社会科では貴重な資料映像やワンポイントレクチャー,理科や家庭科では実験や実習の映像を多数盛り込んでいます。その他モデル図をさらにわかりやすくしたアニメーションや,インタラクティブな表示が可能な地図コンテンツなども収録しています。また国語,英語では文の理解度を,数学では教科書や問題集の問題解答の正誤など,簡単な自己評価の履歴を残す機能も搭載しています。
一方で,紙の教科書でできることが再現できなくてはなりません。例えば紙面に書き込みをしたり,覚えたい用語をマーキングしてカラーシートで隠したりといった機能です。いたずら書きもできます。
その他に,現代社会など一部の教科では,最新の情報を入手するための「外部リンク」(例えば総務省統計局のサイト「消費者物価指数」へのリンクなど)を張っています。教科によっては,最新の情報やより発展的な情報を入手することが学習に深まりをもたらすからです。
●コンテンツの利用について教えてください。
さまざまな機能,資料性の高いコンテンツを豊富に盛り込んでいますが,授業でどう活用されるかは先生方の授業スタイルに合わせていただくことが基本です。
国語と英語には,教師と生徒との間での通信機能を搭載していますので,問題解答や日本語訳・現代語訳の表示非表示は教師がコントロールできます。また,教師が生徒に課題を送ったり,生徒が課題レポートを返信して,教師が採点したりすることが可能です。なお,英語には辞書機能を搭載(英和辞典1冊分のデータを収録)していますので「電子辞書」として使うことも可能です。
●今後の取組みについてお聞かせください。
iPadなどのタブレット端末が普及しているといっても,生徒1人1台という環境が整うにはしばらく時間がかかると思います。そのため,今回リリースしたデジタル教科書は,基本的には教師でも生徒でも使える仕様にしています。今後は教師用(指導用),生徒用それぞれに特化したデジタル教科書の開発とLMS(学習管理システム)との連携が必要になると思います。マルチデバイス(OS)対応も必須です。
●教育の将来への期待あるいは意見をお聞かせください。
20年以上,紙の教科書の編集をしてきましたが,いつも思っていたことは,教科書を通じてその教科・科目の持つ本質的な面白さを伝えたい,その魅力に気づいてほしいということでした。紙の教科書でも様々な工夫をしてきましたが,デジタル教科書では明らかに表現の幅が広がっています。デジタルネイティブと呼ばれる児童・生徒にデジタル教科書制作担当者の思いが伝わることを願っています。
●最後に図書館界へのメッセージをお願いいたします。
今まで学校のPCといえばパソコン教室に並んでいるイメージでしたが,タブレット端末の普及により,そのイメージは変わりつつあります。生徒1人1台の環境が実現するのは先の話として,図書館に生徒が自由に使えるタブレットが数台(数十台?)導入され,その中には教科担当の先生方が厳選したアプリや辞典類,できればデジタル教科書もインストールされている。生徒は空き時間等にそれらを活用して調べ学習など自学自習に役立てる。という流れは,現実的な選択肢として考えられるのではないでしょうか。
(協力・東京書籍・長谷部直人さん)
Ref:
http://webworld.tokyo-shoseki.co.jp/tdt_pv.html
http://weekly.ascii.jp/elem/000/000/135/135656/
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20130325/465825/
http://resemom.jp/article/2013/03/26/12785.html