E2315 - 移動図書館がつくるウィズコロナでの豊かな日常の可能性

カレントアウェアネス-E

No.401 2020.10.29

 

 E2315

移動図書館がつくるウィズコロナでの豊かな日常の可能性

佐倉市資産管理経営室・榊田大輔(さかきだだいすけ)

 

●はじめに

   佐倉市(千葉県)では,老朽化した市立佐倉図書館を取り壊して新たに「(仮称)佐倉図書館等新町活性化複合施設」(以下「新佐倉図書館」)に建て替える計画が進んでいる。

   図書館機能・子育て支援機能・展示機能・カフェなどが含まれ,2020年11月から工事を開始し,2023年3月の開館を目指している。場所は佐倉城の旧城下町内に位置し,図書館を中心としたまちの活性化を目的の一つとしている。

●コロナ禍における公共施設の在り方

   新佐倉図書館の設計が完了した頃,新型コロナウイルス感染症が蔓延し,公共施設では感染を防止するため様々な規制がなされ始めていた。コロナ禍でオンラインサービスなどの需要が高まり,生活様式が変化していく中,これからの図書館サービスの在り方について,新佐倉図書館の管理運営を検討するために関連部署から集め編成したプロジェクトチーム「佐倉(ココ)しか」でディスカッションを行った。

   ディスカッションの中で,コロナ禍でもサービスを向上させ,安心な場所を提供していくためには,図書館一般があまり積極的に利用してこなかった屋外公共空間の活用が一つの鍵になるのでないかと仮説を立て,実践し検証することにした。

●社会実験『公共空間×移動図書館×豊かな日常』

   社会実験は,移動図書館での貸し出しだけでなく,民間のコンテンツと組み合わせた新たな図書館サービスの可能性を模索し,屋外公共空間の利用を促進しながら豊かな暮らしの提供を行うことを目的とした。

  またこの社会実験の狙いには,開催する場所の特性から,

  1. 今まで本を貸し出すだけであった移動図書館に,公共空間を変容させる魅力的なコンテンツとしての付加価値を見出すこと。
  2. 本で得られた健康に関する知識を日常生活の中で実践し,健康増進による医療費の削減につなげること。
  3. コロナ禍によって自粛を余儀なくされてしまった屋内活動を,屋外公共空間で行うことで,新たな生活様式を模索すること。
  4. 印旛沼等の水辺をより生活に身近なものにし,水質改善などの環境問題を考えるきっかけを作ること。 

など,複数の地域経営課題をまとめて解決することが含まれている。

●豊かな日常をつくるには

   社会実験は,市内の印旛沼近くにある「佐倉ふるさと広場」の駐車場とし,8月11日(火曜日)午前7時から午前10時までとした。この駐車場は水辺の近くにあり,景色もよく,階段状の護岸もあり,本を落ち着いて読む空間に適していて,日常利用が頻繁な場所である。11日は平日だが,夏休み期間であり,前日も祝日のため休みを取っている人も多いだろうと想定した。市内には朝のイベントや,営業している店舗がほとんどなく,日常の変化を感じさせる時間帯として効果があるのではないかと考えたこと,また猛暑での開催は危険を伴うことから,早朝の開催とした。

   普段通りの日常を少し変化させるだけで,いつもより少し豊かな日常を作り出せないか,そんな社会実験となることを目指した。ではこの場所で,多くの人にイメージが伝わりやすく,共感されやすい日常とはどんな風景か?

  『早朝の水辺で,本とコーヒーとパンで豊かな一日の始まり』

   この日常の風景が筆者の頭の中に浮かんだ。

   市内の事業者に参加を募ったところ,この考えに共感した国産小麦粉や地元の野菜や果物を使ったベーグル店,自家焙煎珈琲を提供する移動カフェ,農家から直接買い取った新鮮野菜を使用した健康志向のスムージ店等が出店した。また移動図書館にはターゲットとした人たちに合わせ,司書が,雑誌,新聞,絵本,ランニング・サイクリング・健康増進関連の図書を中心に約2,500冊の本を取り揃えた。

●いざ実践へ

   当日は朝から記録的な猛暑で,準備段階から汗だくになるくらい日差しも強かった。椅子・テーブル・タープテントを準備し,水辺でゆっくり寛げるようにした。また新佐倉図書館のパースや図面のパネルを展示し,広く認知してもらうようにした。チラシなどは近隣の保育園や小学校に配布し,あとはSNS・ウェブサイトで周知した。これらはすべて自前で行い,予算がなくても社会実験は開催できることのチャレンジでもあった。

   移動図書館での本の貸し出しは行わなかったが,誰でも手に取って本を読めるようにした。本がどう扱われるかも,社会実験をやることでわかることである。

   感染症対策も会場入口で行い,万全を期した。7時にスタートしてから多くの市民が来場し,9時前にはどの店も売り切れになった。

   パンを食べながら本を読んでいる人,本をじっと読む子ども,水辺でコーヒーを片手におしゃべりをしている人,サイクリングのついでに寄った人など,実に様々な人たちが各々の日常を楽しんでいた。また絵本の読み聞かせを自発的に行った人もいて,子どもは食い入るように聞いていた。普段の日常が少しだけ豊かになった風景がそこには生まれていた。

●実践してこそ見えてきた課題と次なる実践へ

   前述したとおり,あまりの暑さのため,ゆっくり本を読む環境が作れなかったことが大きな反省であった。暑さ対策のため時間を短くしたが,ゆっくりくつろげる空間を作り出せたとは言い難かった。また外で本を読むのであれば,雑音をなくすために,BGMを流すことも効果的だったかもしれない。これらは次の実践でチャレンジしてみようと思う。

   時間帯を昼・夜と変えてやってみる,Wi-Fiを完備してテレワークが可能な場とし,ビジネス支援もできるようにする,民間側から活用のアイデアを出してもらう,などまだ移動図書館には多くの可能性を秘めていることを感じさせてくれた。

   今後も様々な場所で社会実験『公共空間×移動図書館×豊かな日常』を行い,地域経営課題の解決に向け,実践していく予定だ。実践で得られた知見を生かして,新佐倉図書館の開館に向け,準備をしていく。

Ref:
“佐倉図書館の建て替え”. 佐倉市.
http://www.city.sakura.lg.jp/soshiki/21-1-0-0-0_13.html
“社会実験『公共空間×移動図書館×豊かな日常』について”. 佐倉市. 2020-07-29.
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11525615/www.city.sakura.lg.jp/0000027340.html
編集部i子. 【佐倉ふるさと広場】早朝の水辺で過ごそう!本とコーヒーとパンで豊かな一日に. チイコミ!. 2020-08-07.
https://chiicomi.com/press/135367/
石川敬史. “連作エッセイ うごく・はこぶ 37 豊かな日常, 豊かな一日の始まり ”. 郵研社. 2020-08.
http://www.yukensha.co.jp/contents/essay2/page/essay.html