E2323 – 諸外国における読書習慣調査と読書推進活動

カレントアウェアネス-E

No.402 2020.11.12

 

 E2323

諸外国における読書習慣調査と読書推進活動

関西館図書館協力課・木下雅弘(きのしたまさひろ)

 

   読書量は過去20年間で減少しており,特に若年層での減少は顕著である。国際出版連合(IPA)が2020年10月に公開した報告書“Reading Matters: Surveys and Campaigns – how to keep and recover readers”(以下「本報告書」)では,26か国における読書習慣調査のレビューを行った上で,そのような傾向が広く見られることを指摘する。

   IPAは世界の出版協会等が加盟する業界最大の国際団体であり,日本書籍出版協会も含め,69か国から83の組織が加盟している(2020年1月現在)。2020年5月にノルウェーで国際出版会議を開催予定であったが,新型コロナウイルス感染症の感染拡大により中止を余儀なくされた。IPAは,同会議に提出された複数の報告書を10月にオンラインで公開しており,本報告書もその一つである。以下,その概要を紹介する。

   IPAとノルウェー出版協会が作成した本報告書は,26か国における読書習慣調査と読書推進活動のレビューを行い,その結果を国別に英文で報告している。対象国は,掲載順にアルゼンチン・ベルギー・ブラジル・カナダ・中国・デンマーク・フィンランド・フランス・ドイツ・アイスランド・イタリア・メキシコ・オランダ・ニュージーランド・ノルウェー・ロシア・スロベニア・南アフリカ共和国・スペイン・スウェーデン・スイス・タイ・トルコ・アラブ首長国連邦・英国・米国である。読書習慣調査では,政府機関,出版社・書店の業界団体,その他民間団体等が2015年から2020年までに実施した調査をレビューの対象としているが,各国でどのような組織が読書習慣調査を実施しているかを把握できる意義は大きいと思われる。同一組織が繰り返し調査を行う傾向が見られることから,将来時点で各国の読書事情を調査する際にも参考情報源としての活用が見込めるためである。

   本報告書が言及する各調査の枠組みは多様であるが,年齢・性別といった読者の属性と,読書習慣に関するデータとの相関を調査し,その経時変化に着目するものが多い。読書習慣に関するデータには,閲覧時間数・頻度・冊数・好まれるフォーマット(紙・電子書籍・オーディオブック)等が含まれる。調査結果の比較から判明した興味深い点として,年齢と読書量との相関関係を挙げる。ブラジル・スペイン・タイ等では年齢が上がるにつれ読書量が減少する一方で,カナダ・デンマーク・フランス・アイスランド・ノルウェー等では年齢とともに増加している。他にも様々な傾向を指摘しているが,特に強調されているのは冒頭で述べた若年層による読書量の減少である。

   そもそもなぜ読書が重要なのか。ノルウェー出版協会会長のEdmund Austigaard氏は,本報告書の冒頭で読書の意義を強調する。読書は自己表現と社会参与に求められる言語能力の発達や知識へのアクセスを,そして他者の視点を通じて物事を見る機会を提供する。読書は他者を理解する試みであり,時として読者の信念とぶつかり,その思考や行動に変化をもたらす。それゆえに,同氏は(他者との対話を促す)読書を民主主義の基盤を成すものと見なしている。本報告書の結論部では,読書を取り巻く環境は厳しい一方で,各国の調査で多くの回答者が読書への意欲を示していたことも指摘する。潜在的な読者を本へと呼び戻すため,読書習慣の変化を考慮した戦略を立案しなければならないとし,イタリア出版協会の調査手法に注目している。同協会では2017年から,現代社会において「読書」の意味が変容しつつあることを踏まえた調査を開始した。例えば,雑誌・SNS・料理や旅行等に関するウェブサイトといった媒体上の記事の閲覧も「その他の読書」として調査対象としており,その結果,「その他の読書」のみを行う層が2017年には全体の19%,2018年には21%存在することが明らかになった。

   具体的な読書の推進方法についても,本報告書では各国での実践を幅広く紹介している。同じくイタリアの例となるが,イタリア出版協会は全国規模の読書推進キャンペーン“#ioleggoperché”を2016年から毎年開催している。将来の読者層を増やす上で学校図書館が果たす役割に注目した取組である。賛同者は,キャンペーン期間中に特定の書店で本を購入すると学校図書館への寄贈を選択できる。最後に出版社も国全体の合計寄贈冊数と同じ冊数(最大10万冊)を寄贈する。このキャンペーンにより,過去4年間で1万5,000を超える学校に約105万冊が寄贈されたという。この他にも,ドイツの非営利組織“LitCam”らによる難民を対象とした読書推進活動“Books Say Welcome”や,メキシコの民間企業による児童書のサブスクリプション型宅配サービス“Little Bookmates”等,各国では工夫を凝らした活動を展開している。

   本報告書では日本は調査対象となっていないが,日本でも同様に読書量は減少傾向にある。文化庁が全国16歳以上の男女を対象に実施した平成30年度「国語に関する世論調査」によれば,1か月に1冊も本を「読まない」と回答した人は47.3%,「読書量は減っている」と回答した人は67.3%に上る。本報告書にまとめられた諸外国の調査手法や取組は,共通の課題に直面する日本においても参考に資するものと思われる。

Ref:
“IPA Launches new State of Publishing Reports”. International Publishers Association. 2020-10-15.
https://www.internationalpublishers.org/copyright-news-blog/1037-ipa-launches-new-state-of-publishing-reports
“Reading Matters: Surveys and Campaigns – how to keep and recover readers”. International Publishers Association.
https://www.internationalpublishers.org/state-of-publishing-reports/reading-matters-surveys-and-campaigns-how-to-keep-and-recover-readers
“What is the IPA?”. International Publishers Association.
https://www.internationalpublishers.org/about-ipa/background
“IPA Membership”. International Publishers Association.
https://www.internationalpublishers.org/about-ipa/ipa-membership
#ioleggoperché.
https://www.ioleggoperche.it/
““Books Say Welcome”: Book Sector Launches Initiative For Refugees”. LitCam.
https://www.litcam.de/en/books-say-welcome
Little Bookmates.
https://littlebookmates.com/
“平成30年度「国語に関する世論調査」の結果について”. 文化庁.
https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/1422163.html