E2458 – 愛知県図書館開館30周年記念講演会<報告>

カレントアウェアネス-E

No.427 2021.12.23

 

 E2458

愛知県図書館開館30周年記念講演会<報告>

愛知県図書館・米井勝一郎(よねいかついちろう)

 

●はじめに

   2021年4月,愛知県における文化芸術の拠点である愛知芸術文化センター(愛知県名古屋市)を構成する施設・愛知県図書館は,名古屋城の旧城郭内の一角に開館して30周年を迎えた。

  この30年は当館が県内の公共図書館とともに歩んだ30年であることから,県内公共図書館の原点を改めて確認するとともに,新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受け,大きな変化を迎えつつある公共図書館の今後を考える講演会「公共図書館の過去・現在・未来」を10月29日に当館にて開催した。

●講演

  当日は,近藤雅俊・当館館長の挨拶の後,第1部として岩瀬彰利氏(愛知県豊橋市図書館主幹学芸員)による講演「近代図書館の先駆け愛知県羽田八幡宮文庫」(E2170参照)を,次に第2部として福島幸宏氏(慶應義塾大学文学部准教授)による講演「愛知県から考える図書館機能の再定置」を行った。

  岩瀬氏は,幕末,在地知識人が地域の課題解決のため「知の拠点」として開設した羽田八幡宮文庫について,図書館という視点から概説するとともに,旧蔵書のデジタル化等について紹介した。

  福島氏は,高齢化等により社会が大きく変化するとともに,図書館を迂回した情報流通が進展するという状況下では,地域に関する情報の拠点である公共図書館は,地域資料を中心とした資料のデジタル化を通じて必要な情報を,直接,利用者に届けることが今後の役割として重要であるとした。

●シンポジウム「コロナ禍の中の公共図書館におけるデジタルリソースを考える」

  講演会前半の岩瀬氏,福島氏の講演を踏まえて,講演会の後半は,第3部としてシンポジウムを開催した。進行は筆者が担当した。

  シンポジウムは,講師の二人が互いの講演についてコメントした後,会場からの質問に,講師二人が回答するという形式で進めた。会場からは(1)コロナ禍での図書館運営のあり方,(2)今後の図書館を担う職員の外部委託による民間化,(3)非刊行物をデジタル化した場合の公開の問題,という三つの質問が寄せられた。

  (1)について,福島氏は,図書館という場に集うことの必要性は今もあるかもしれない,とした上で,来館せずとも必要な情報を入手することができる環境を,図書館が整備していくことも必要であるとし,デジタルリソースを適切に案内できるような力量が図書館職員に求められるとした。岩瀬氏は,今回のコロナ禍は,図書館のデジタル化を推進するきっかけを与えるものであったとし,今後も社会のデジタル化が進む中で,サービスのあり方について考える契機となったと述べた。

  (2)の質問は,福島氏に向けられたものである。福島氏は,民間か公務員かに関わらず,その業務にあった処遇がなされることの必要性を述べた上で,過去の右肩上がりの局面とは異なる日本社会の今後にあって,専門職としてどうあるべきかを考える職員が必要であるとし,専門職養成課程の教員としてはそうした職員となる学生を養成していくことが責務であると述べた。

  (3)について,岩瀬氏は,スナップ写真などをデジタル化して公開する場合,個人情報の問題はあるが,古い資料が持つ公共性を考慮すると,公開した方が良いという場合もあるとした。福島氏は,この問題は,まず,図書館は収集した資料をすぐに公開しなければならないのかどうか,次に,公開する場合には「時の経過」を考慮する必要があると述べた。前者については,図書館は,行政の中でも,資料を将来に残すという役割を特に担う施設であるとすれば,すぐに公開できない資料も積極的に保存するということに取り組む必要があるとし,後者については,個人の権利と資料の公共性とのバランスを図る必要があるので,「時の経過」を考慮し,公開の対象を広げていくことが望まれるとした。

  最後に,進行役の筆者が,図書館が取り組む地域資料のデジタル化は,縮小する地域の生活や文化の保存といった視点からだけではなく,地元学などの実践を踏まえて地域再生の手法としてより積極的に位置付けるべきではないかと尋ねた。福島氏は,デジタル化は,実際に縮小しつつある地域の個性を残すことに資すると同時に,自治体などが施策を考える素材としての役割もあると述べた。岩瀬氏も,地域資料をデジタル化して残すことにより,将来地域を担う人々の参考になることがその役割としてあると述べた。

●おわりに

  講演会では,地域の課題解決を担う「知の拠点」として誕生した図書館が,コロナ禍による大きな変化の中でも,デジタル化という取組を介して,今後もなお地域の課題解決を担う拠点であることを改めて確認することができた。これからの課題は,今回確認した地点から実践へと踏み出すことである。

Ref:
“【愛知県図書館開館30周年記念講演会】公共図書館の過去・現在・未来を開催します”. 愛知県図書館.
https://www.aichi-pref-library.jp/index.php?key=bb320vjla-219#_219
“羽田八幡宮文庫”. 豊橋市図書館.
https://www.library.toyohashi.aichi.jp/findbook/collection/hadahachiman/
福島幸宏. 文化施設とCOVID-19アーカイブ. デジタルアーカイブ学会誌, 2021, 5(1), p. 42-44.
https://doi.org/10.24506/jsda.5.1_42
福島幸宏. 地域の博物館や図書館などは「地方(じかた)写真」の拠点たりえるか?. 国立民族学博物館研究報告. 2021, 46(1), p. 163-181.
http://doi.org/10.15021/00009830
“肖像権ガイドライン”. デジタルアーカイブ学会.
http://digitalarchivejapan.org/bukai/legal/shozoken-guideline/
地元学・地域学.
https://jimotogaku.org/
小川訓代. 「とよはしアーカイブ」公開記念シンポジウム<報告>. カレントアウェアネス-E. 2019, (375), E2170.
https://current.ndl.go.jp/e2170
今井福司. 第67回日本図書館情報学会研究大会シンポジウム<報告>. カレントアウェアネス-E. 2020, (384), E2222.
https://current.ndl.go.jp/e2222