E2170 – 「とよはしアーカイブ」公開記念シンポジウム<報告>

カレントアウェアネス-E

No.375 2019.08.29

 

 E2170

「とよはしアーカイブ」公開記念シンポジウム<報告>

豊橋市文化・スポーツ部まちなか図書館開館準備室・小川訓代(おがわさとよ)

 

   2019年6月16日,豊橋市図書館(愛知県)は,中央図書館において「とよはしアーカイブ」公開記念シンポジウム「近代図書館の先駆けー羽田八幡宮文庫」を開催した。本稿ではアーカイブの紹介とシンポジウムの様子を中心に報告する。

●羽田八幡宮文庫について

   羽田八幡宮文庫は,江戸時代末期の1848(嘉永元)年,現在の豊橋市内に所在した吉田城下の羽田八幡宮境内において宮司の羽田野敬雄や町人たち15人が発起人となって設立された文庫である。蔵書は国学,神道,史学,歌書,俳諧など多岐にわたり,身分を問わず広く公開し,貸出も行っていた。明治になると文庫の維持が困難となり,蔵書は売却・散逸したが,その後買い戻された蔵書を基に1912(明治45)年4月に豊橋市立図書館が設立された。現在,羽田八幡宮文庫の旧蔵書は,中央図書館において「羽田八幡宮文庫」として提供されているほか,当館ウェブサイト上でも「羽田八幡宮文庫デジタル版」として一部を公開している。


●とよはしアーカイブについて

   2019年6月1日より公開した「とよはしアーカイブ」は,「羽田八幡宮文庫」に加え,中央図書館所蔵の和装本・絵図・地図・写真等の郷土資料を中心に新しくデジタル化し,デジタルアーカイブを検索・閲覧するためのクラウド型プラットフォームシステムであるADEACで公開したものである。市指定文化財の吉田城の絵図や橋良文庫(故近藤恒次氏が収集した郷土資料)の和装本の一部,豊橋空襲や市内に所在した軍隊等の戦争関連の写真がインターネット上で見られるようになった。「三州吉田城図」と1944年刊の『豊橋市街地図』はグーグルマップを使用して現在の地図と重ね合わせて見ることができ,まち歩きに活用されることが期待できる。また,小中学生向けに市が編集発行した『とよはしの歴史』(1996年刊)をフルテキスト化し,子どもの調べ学習にも使えるようにしている。
 

●シンポジウムについて

   はじめに,会場のスクリーンに「とよはしアーカイブ」を投影しながら,簡単な操作の説明や資料の解説を当館司書が行った。その後,市民グループとして当館を活動場所に研究を続けている羽田野敬雄研究会会長の鈴木光保氏が開会のあいさつをし,続いて二人の講師による発表が行われた。

   まず,藤井奈都子氏(愛知大学文学部非常勤講師)による「羽田八幡宮文庫の成り立ちと特色」と題する講演があった。同氏は,同文庫は江戸時代の文庫の設立過程や運営などの様子がわかる事例のひとつであること,旦那衆と呼ばれる地域の人々により自発的に設立・運営され,神社が管理するものではなかったこと,会員制をとらずに一般の人々にも公開して貸出もしていたことなどを特徴としてあげた。また,文庫設立時に一人3両の出資金を募ったところ,69人から187両が集まり,文化活動への理解が深い地域だったことがうかがえることを指摘した。

   次に,新藤透氏(國學院大學文学部准教授)が「近世に於ける「図書館的活動の萌芽」-羽田八幡宮文庫-」の発表を行った。はじめに現在の図書館の定義を確認し,その構成要素(資源・施設・司書・コミュニティの場)について説明した。そして,江戸時代に各地域に存在した文庫と現在の図書館を比べることで,同文庫の活動が他の文庫と比べて現在の図書館活動と極めて近い内容の存在であり,近代的図書館の萌芽であると述べられた。

   講師の発表後,司会進行役として山田邦明氏(愛知大学文学部教授)が加わって,同文庫の実態について,設立経緯,蔵書内容,閲覧と貸出という3つの観点から討論が行われた。その内容をすべて記すことはできないが一部を以下に挙げる。

   山田氏から二人の講師の発表を受けて,同文庫は個人や寺社が収集した蔵書が結果的に文庫となって公開されたのではなく,はじめから公開することを前提に収集していたこと,また,文化人を招いて文庫の閲覧所で講義を行っていたことなどから,地域の人々のコミュニティの場としての機能を持っており,現代の図書館に近い機能があったことがうかがえ,今後の図書館の在り方のヒントになるのではないか,との指摘があった。また,現代の感覚からすると蔵書は「かたい」ものが多いのではないかという山田氏の指摘に対し,藤井氏は寄附をされたら「やわらかい」ものでも受け付けていたと述べ,一方,新藤氏は農民や町人が利用していたがそれは趣味人や文化人といわれる知識層であり,庶民向けの蔵書構成ではなかったようだと発言した。

●おわりに

   今回のシンポジウムによって,羽田八幡宮文庫は日本でも最古級の市民が設立した公開図書館といえることが改めて確認された。当館では,2018年度に同文庫の旧蔵資料に対し保存管理計画を策定し,現在は市の文化財指定に向けて準備をすすめている。市民の宝としてどのように遺し,未来へ継承していくのかが今後の課題である。

Ref:
http://www.library.toyohashi.aichi.jp/
http://www.library.toyohashi.aichi.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=journal_view_main_detail&post_id=505&comment_flag=1&block_id=714#_714
https://trc-adeac.trc.co.jp/WJ11C0/WJJS02U/2320105100
http://www.library.toyohashi.aichi.jp/?page_id=69
https://www1.library.toyohashi.aichi.jp/toyohashi_library/
http://www.library.toyohashi.aichi.jp/?action=common_download_main&upload_id=2750