カレントアウェアネス-E
No.384 2020.01.30
E2222
第67回日本図書館情報学会研究大会シンポジウム<報告>
白百合女子大学基礎教育センター・今井福司(いまいふくじ)
2019年10月20日,京都市の龍谷大学大宮キャンパスにおいて第67回日本図書館情報学会研究大会シンポジウムが「デジタルアーカイブと図書館」と題して開催された。以下,話題提供および質疑応答の内容について報告する。なお,登壇者による発表資料が日本図書館情報学会のウェブページで公開されている。また詳細な報告は『日本図書館情報学会誌』にも掲載されるので,そちらも合わせて確認して頂きたい。
まず,コーディネーターの古賀崇氏(天理大学)からは,デジタルアーカイブについて“Encyclopedia of Archival Science”に掲載されているテイマー(Kate Theimer)による定義が紹介され,日本での各種団体の動きや提言などが報告された。
1番目のパネリスト福島幸宏氏(東京大学大学院)からは,「デジタルアーカイブ環境下での図書館機能の再定置」として,図書館そのものの役割や位置づけの再検討が行われた。福島氏は地方公共団体の消滅,都市の高齢化による社会構造の変化,資料と認識されるものの増加,災害の多発や,教育格差の拡大を取り上げ,社会状況の変化を説明した。そして,雇用の流動化,リカレント教育の重要性の再認識とともに,データ管理の重要性とコストの増大が起こりつつあると指摘した。その上で福島氏はLibraryを情報の集約と知識の提供を行う場・ハブとすること,地域社会の課題について公的セクターで支えるべきところ,図書館が行う業務の優先順位を考えることに注力すべきで,情報の集約と知識の提供をまず行ってから,周辺の業務を行うべきではないかと提案を行った。
2番目のパネリスト川島隆徳氏(国立国会図書館)からは,「ジャパンサーチ(試験版)のドメイン設計思想」として,国立国会図書館がシステムの運用を担当するジャパンサーチ(E2176参照)を題材にメタデータ,あるいはデータモデルの再検討について話題提供が行われた。ジャパンサーチは「探す」と「活かす」の2つを役割として設定している。システムの開発思想として,機能を先に考えるのではなく,データを先に作ってその要件を考えるドメイン駆動開発を採用している。そのため,ジャパンサーチでは,データのマッピングをシンプルな状態に留めオリジナルデータを完全に保持し最低限の共通項目を抽出する方法を採り,様々な検索の要求に応じられるように設計されているという。川島氏はその上で,データ収集の方法やJSONへメタデータを変換するといった具体的なシステムの仕組みについて解説を行った。そして,今後の課題として,使い勝手の向上とともに,連携先とギャラリーの充実,コンテンツの拡充,利活用事例の蓄積,利活用方法に沿った機能開発等が課題となっていることを報告した。
3番目のパネリスト西岡千文氏(京都大学附属図書館)からは,「京都大学図書館機構のデジタルアーカイブに関する取り組みと図書館情報学への期待」として,京都大学の取り組みが紹介された。京都大学図書館機構は過去20年間,貴重資料画像の公開を進めてきた。2016年12月にはIIIFコンソーシアムに機構として参加し,APIの開発に取り組んでいる。京都大学図書館機構では,使用条件として既存のルールを採用せず,原資料所蔵館の明記をした上で,事前申請なく利活用可能とする形式を取った(E2004参照)。こうしたライセンスを採用した経緯としては,学内の所蔵館ごとの多様な条件への対応,利用実態の把握と評価が目的だったという。加えて外部との連携例として,富士川文庫デジタル連携プロジェクト,SAT大正新脩大蔵経テキストデータベースの例が紹介され,デジタルアーカイブの評価(E1990参照)や一次資料の学術利用の可視化について,引用状況を自動抽出する必要があるなどの課題が挙げられていた。
パネルディスカッションでは,論点が「デジタルアーカイブの利用規約」,「デジタルアーカイブのデータモデル」「デジタルアーカイブを踏まえての,図書館等の活動に関する評価」の3つに絞られ,ライセンス選択の難しさ,評価以前に図書館や各種機関の目的を再定義する必要性などについて議論が行われた。その後の質疑応答では,デジタルアーカイブにおけるメタデータ作成を図書館が行うべきかという問題,図書館員が行うべき業務の再検討,CC0ライセンスを採用するにあたってどこがデータを作成したかの真正性の確保,地域資料への大学の関わり,ジャパンサーチと接続するためのアグリゲーターへのアプローチ,IIIFのメンバーとなることでAPIの規格策定に関与できるメリット,アーカイブの質や住民参加についてやり取りが行われた。
本シンポジウムは,デジタルアーカイブのシステムや実践例まで踏み入った上で,様々な専門集団や団体,個人への関わり,社会構造の変化への対応までを幅広く取り上げた意義深いシンポジウムだった。今後,このシンポジウムの成果を前提とし各所での教育や研修が行われることが必要と考える。
Ref:
http://jslis.jp/2019/10/30/研究大会シンポジウム(2019年10月)の発表資料公開/
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I026264497-00
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchive_kyougikai/index.html
https://jpsearch.go.jp/
https://twitter.com/jpsearch_go
https://www.kulib.kyoto-u.ac.jp/bulletin/1373150
https://www.kulib.kyoto-u.ac.jp/content0/1373844
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/reuse
http://www.kulib.kyoto-u.ac.jp/rdl/digital_fujikawa/
http://21dzk.l.u-tokyo.ac.jp/SAT/
https://togetter.com/li/1419815
E2176
E2004
E1990