E1897 – 「認知症の人にやさしいまちづくりと図書館」<報告>

カレントアウェアネス-E

No.322 2017.03.23

 

 E1897

「認知症の人にやさしいまちづくりと図書館」<報告>

 

 2016年12月3日,フォーラム「認知症の人にやさしいまちづくりと図書館」を開催した。このフォーラムは,雑誌『ライブラリー・リソース・ガイド(LRG)』第16号(2016年夏号・2016年9月7日)の刊行を記念したものである。本誌でフォーラムと同タイトルの論考を執筆した加藤学氏(浜銀総合研究所),図書館の現場から取り組みを進めている野口和夫氏(福岡県・直方市立図書館),加藤氏の論考の中で紹介した認知症フレンドリージャパン・イニシアチブ(DFJI)の活動に取り組む岡田誠氏(富士通研究所)を招いた。司会進行は,岡本真(アカデミック・リソース・ガイド株式会社)が務めた。当日の参加者は33名であった。

 まず,加藤氏が,今回の論考の狙いや背景を語った。すでに社会のなかに出来上がっている介護保険制度を始めとした支援の仕組みだけでは不足しがちな視点や考え方を伝えるために,自身のDFJIにおける体験やDFJIの立ち上げに関わったメンバーのインタビューを論考に織り込んだ,との説明があった。根本にあるのは,この論考が図書館員の目に触れ,たくさんの人が認知症のことを知るきっかけになってほしいという思いだと語った。

 直方市立図書館では,認知症に関する資料展示や講座開催等を行っている。その取り組みに至る背景やきっかけが,館長である野口氏から説明された。自己紹介として,「なにもないねこ」を素話した。そもそも図書館とは,「なにもないねこ」に寄り添う場であり,誰もが目的もなくただ過ごすことができる場でもあり,そしてすべての事柄が入るうつわである。図書館はあらゆることが何でも入る,何をやってもいい場だからこそできることがあり,そこで何をするかが重要な意味を持つはずだということから,あらゆる年齢層の人と障害を持つ人達にとってやさしい図書館になるのが目標だという。この目標は前館長から引き継ぎ,今後も継続して取り組んでいくと語った。あらゆる人が居て良い場である図書館には当然いろいろな人が利用者として存在していることを改めて確認したところで,ランガナタンの五原則にある「読者の時間を節約せよ」ということばを次のように解釈した。時間を節約するためにスピーディーさを重視して,利用者の話をゆっくり正確に聞くことを怠っては本末転倒である。利用者に時間をかけて向き合うことこそ,利用者の求めにきちんと対応するための判断をする近道であり,信頼関係を結ぶことはお互いにとって時間の節約になる。これらのことは,認知症に限らずあらゆることに共通する重要な点であると訴えた。

 岡田氏からは,DFJIの取り組みが紹介された。DFJIの活動は,個人から企業まであらゆるセクターの人達がそれぞれに合ったやり方で認知症と向き合うことを支援したいという企業の取り組みからスタートしている。DFJI自体が主体になって取り組むのではなく,それぞれのプロジェクトの背中を押す人々のネットワークがDFJIである。

 トークセッションでは,加藤氏が改めて,どのようなささいなことでもいいから「知ること」につながると思って取り組むことが大切だということを強く訴えた。野口氏からは,何でも入る図書館だからといって全てはできないのだから何を取り出すかが重要だという言葉も聞かれた。また,プロジェクトを継続する秘訣として,続けることに楽しさを見いだせることがポイントだという岡田氏からのアドバイスもあった。

 最後に参加者から登壇者への質疑応答が行われた。総じて,できないことよりも身近にあって簡単にできることからスタートして継続していくことや,その道の専門家など自分たちだけではできないことを可能にする人とつながることで広がる可能性,少しずつ変えていくことで社会が動き,いずれ大きなうねりにつながっていくといった展望が語られ,参加者一人ひとりを勇気づけたフォーラムとなった。

アカデミック・リソース・ガイド株式会社・ふじたまさえ

Ref:
https://www.facebook.com/events/342505076142174/
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I071393614-00
http://www.dementia-friendly-japan.jp/
https://www.facebook.com/Nogata.City.Library/photos/1180842038632668/