E1988 – COAR Asia Meeting 2017<報告>

カレントアウェアネス-E

No.340 2018.01.25

 

 E1988

COAR Asia Meeting 2017<報告>

 

  2017年12月4日から6日にかけて,ネパールの首都カトマンズにおいて,オープンアクセスリポジトリ連合(COAR)の主催するAsia OA Meeting 2017“Moving to higher ground – from open access to open science in Asia”が開催された。COARによる,アジア地域を主眼とした国際会議は,2016年3月の日本,同11月のマレーシア(E1898参照)に続き,第3回目となる。今回の会議は,オープンアクセス(OA)・オープンサイエンス(OS)の国際動向およびアジア各国の活動に係る情報共有を図ると同時に,開催国であるネパールの活動を発展させる一助となることを目的としていた。日本からは,国立情報学研究所(NII)および鳥取大学から計4人が参加した。

  会議の報告と発表資料はCOARのウェブサイトでも公開されているが,本稿では特に,アジア各国の動向およびネパールの活動について記す。

●アジア各国の動向

  1日目の“Asian country updates”および2日目の“Institutional role in supporting open access, open science, open data”において,韓国・シンガポール・バングラデシュ・日本の4か国より報告がなされた。日本からは,1日目にNIIの武田英明氏が,2日目に筆者が,それぞれ日本における諸活動について報告した。

  特筆すべきはシンガポールの南洋理工大学の事例である。南洋理工大学では,2016年4月より研究データの保存・公開に関する方針“NTU Research Data Policy”を施行しているが,会議ではこれに対応して実装されたデータリポジトリ“DR-NTU(Data)”とその運用について報告がなされた。報告では,DR-NTU(Data)に登録されているデータセットや,それらのレコード,メタデータの画面などが紹介された。登録されたデータは,加除修正・アップデートが逐次記録され,バージョン管理が可能となっているほか,レコードには,DOIを含む,該当データを引用する際の引用記述が自動的に作成されるなど,データの長期的な管理や再利用への配慮を窺うことができる。これらの機能もさることながら,リポジトリ自体を運用する部門“Office of Information, Knowledge & Library Services”および機関全体の役割として,データ管理に関する研究者への教育・啓発活動や,データキュレーションサービスの展開について言及された点が印象深い。特に後者については,単にデータを取り扱うというだけでなく,データの可視性・再利用性を高めるため,研究者と相互に技術的なコミュニケーションをも行っていると報告され,大学図書館員による支援体制も相当に整備されたものであると窺い知れた。

  今回の会議の中でもこれほどシステム・人的支援共に整備された事例はなく,日本国内においてデータリポジトリの発展やデータライブラリアンの養成を推進するに際しても,近隣の先進事例として大いに参考となるものと感じられた。DR-NTU(Data)はまだ運用開始から1年にも満たないとのことであるので,今後の動向も注視すべきだろう。

  バングラデシュからの報告では,2017年2月より開始した“Open Access Bangladesh”の活動と,国内のOA・OSプラットフォームの紹介がなされた。Open Access Bangladeshは政府関係者をはじめとして,バングラデシュ国内の有識者・有志により組織されており,バングラデシュにおけるOA・OSおよびOpen Educationを推進している。報告では,主要な活動として,国としてのOA方針を採択するための推進活動や,全国規模でひとつのリポジトリを運用するナショナルリポジトリに関する活動,出版社との協働などが挙げられた。また,政府運営のオープンデータポータルについて多く言及され,これらを始点として,適切なOA方針の策定や,データを共有した研究者への評価システムの整備が必要であると述べられた。

  ナショナルリポジトリに関する報告は,後述のネパールのほか,韓国からもなされている。韓国科学技術情報研究院(KISTI)が立ち上げを目指す“Korea Open Access Repository”は,国内のOAジャーナル,機関リポジトリその他のグリーンOAコンテンツを収集し,一元的に提供するナショナルリポジトリである。2018年にはパイロット版が開発されるとのことだが,特に興味深いのは,海外のナショナルリポジトリとも連携することにより,Korea Open Access Repositoryという窓口ひとつで,国内のユーザーが世界中のOAコンテンツにアクセスできることを目標としているという点である。筆者には,リポジトリはユーザーよりもコンテンツ提供者との関係を重視している,という先入観があったことから,情報入手のプラットフォームとしてリポジトリを拡大させるという発想は新鮮に感じられた。

●ネパールの活動

  ネパールに焦点を置いたプログラムとして,ネパールにおけるOA活動の現状,教育・研究用ネットワークの紹介,研究分析などに関する報告,そしてワークショップが設けられた。

  OA活動の現状については,ネパールの図書館等によるコンソーシアムNepal Library and Information Consortium(NeLIC)の運営するナショナルリポジトリ“Central Open Access Repository in Nepal”の紹介が主となった。ネパールにおいては,元来いくつかのリポジトリは存在したものの,分野や言語が限定的であり,学術成果全体の公開を推進しているとは言い難い状況であったところ,ネパールにおける中心的なリポジトリプラットフォームを目指してこのリポジトリが立ち上げられた。まだ歴史も浅く,方針の策定や研究者への啓発など様々な課題はあるものの,将来的には国内の全リポジトリとリンクし,教育・研究の質的向上を図るとされた。

  またネットワークインフラについて,教育・研究用の高速ネットワークである“Research and Education Network(REN)”と,それをネパールにて提供するNPO団体“Nepal Research and Education Network(NREN)”の紹介がなされ,ネパールにおけるOA・OSの支援として,コンテンツへのアクセスの高速化のほか,リポジトリのホスティングに関する技術的なサポートの提供が可能であるとされた。またネパールの研究分析の報告では,他国の研究者との共著論文への依存度が高いものの,研究成果の公開数は増加しており,臨床医学や地球科学などの分野では高い研究力を示しているとされた。

  以上の発表を踏まえて,ネパールからの参加者を中心としたワークショップが実施された。ここではCentral Open Access Repository in Nepalの発展がテーマとされた。

  筆者は僅かにディスカッションや発表の様子を傍聴するのみであったが,COARのウェブサイトでは,コンテンツ増加や認知度向上のため,いかに協働するかについて議論され,様々なアイデアが生み出されたと報告されている。筆者はこれまで,OA・OSの先進事例として西洋諸国の事例を見聞することが多かったため,今回の会議において,それらに勝るとも劣らないアジア各国の事例に触れることができ,大いに刺激を受けた。日本国内のOA・OS推進において学ぶべき点は多くあり,それらをどう取り入れるべきか思案する一方で,今回報告されたそれぞれがどのような発展を遂げていくか,今後も注視していきたいと感じた。

鳥取大学附属図書館・中谷昇

Ref:
https://www.coar-repositories.org/community/asia-oa/asia-oa-meeting-2017/
http://research.ntu.edu.sg/rieo/RI/Pages/Research-Data-Policies.aspx
https://researchdata.ntu.edu.sg/
http://www.openaccessbd.org/
http://www.nelic.org/
http://www.nelic.org/open-access-repository/
E1898
E1949

 

 

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