E1989 – IIIF Japanシンポジウム<報告>

カレントアウェアネス-E

No.340 2018.01.25

 

 E1989

IIIF Japanシンポジウム<報告>

 

 2017年10月17日,東京都千代田区の一橋大学一橋講堂において,「IIIF Japanシンポジウム ~ デジタルアーカイブにおける画像公開の新潮流 ~」が開催された。このシンポジウムは,国立情報学研究所(NII)の高野明彦氏,人文学オープンデータ共同利用センター(CODH)の北本朝展氏,一般財団法人人文情報学研究所の永崎研宣氏によるIIIF Japan企画実行委員会が企画したものである。海外のIIIFの中核メンバー6人によってIIIFの基礎的な説明や今後目指すところが語られた後,バチカン図書館と日本国内でのIIIFの活用事例について報告があり,また最後にIIIFへの期待や課題について図書館・美術館・博物館からそれぞれ報告があった。

 はじめに,米・スタンフォード大学等のIIIFコミュニティに所属する中核メンバーの説明に沿ってIIIFについて概説する。IIIFはInternational Image Interoperability Frameworkの略称である。デジタルアーカイブの「サイロ問題」(相互運用性の欠如)の解決と画像を基にしたリソースの活用を目指して構築されている,フレームワークとそのコミュニティを意味している。具体的には,国際的に共通のAPIを開発,それらをソフトウェアに実装し,相互運用可能なコンテンツを公開するという3つのビジョンがある。中心的な機能のAPIとして,Image APIとPresentation APIの2つがある。Image APIは画像を提供するためのAPIであり,画像の一部を切り出すことや拡大縮小,回転に対応している。Presentation APIは,コンテンツ間の関連付け,目次情報などのコンテンツ内部の構造,コンテンツの権利情報,関連するアノテーション(E1916参照)とのリンク等のメタデータを表すためのAPIである。その他に,コンテンツの持つフルテキスト等を検索するためのAPIや,利用者認証のためのAPI,Presentation APIを拡張し音楽や映像といったタイムラインを持ったコンテンツを扱うためのAPIがある。これらのAPIに対応したソフトウェアが開発されており,IIIF対応コンテンツを閲覧するためのビューワとしてMirador,Universal Viewer,Leaflet-IIIFなどが,Image APIとPresentation APIのデモンストレーションを交え紹介された。IIIFに対応したコンテンツとしては,文化遺産に関する画像の他に,動植物の標本など自然科学に関連する画像が挙げられた。中核メンバーによる説明の最後には,IIIFコミュニティへの参加方法や2018年5月に米国のワシントンD.C.で開催予定のIIIFカンファレンスの紹介があった。

 活用事例や今後の期待や課題について多数の報告があったが,本稿ではバチカン図書館におけるIIIFの実装と,CODHによるIIIFのAPIを独自に拡張する提案やそのアイデアを基に開発したIIIF Curation Viewer,国立国会図書館(NDL)のIIIFを用いた実験サービスや今後の対応に関する報告について紹介する。

 バチカン図書館のマノニ(Paola Manoni)氏が,2014年12月から2015年6月にかけて実施したパイロットプロジェクトについて報告した。バチカン図書館が所蔵する資料の中からデジタル化された手稿を対象にIIIFを実装したところ,資料の閲覧や利用が促進された。その後パイロットプロジェクトの経験を基に本格的なIIIF対応が進み,2016年5月に1万5,352点の資料の合計600万点以上のIIIF対応画像を,株式会社NTTデータと協力して開発した新たなデジタル図書館プラットフォーム上で公開した。このプラットフォーム上では,各画像に付与されているアノテーションを検索するAPIが実装され,古典籍研究への活用例がデモンストレーションとともに紹介された。

 また,CODHが開発したIIIF Curation Viewerについて北本氏から報告があった。Presentation APIのバージョン2.1及びそれに対応するビューワでは実現が困難な機能である,複数の資料から複数の画像を選んでまとめるといった「キュレーション」機能を中心に,独自のAPIを定義してIIIFの拡張を提案していた。IIIFの共通仕様と独自の拡張の線引きをはっきりさせることが,相互運用性のために重要であると北本氏は主張していた。この提案について,IIIFの中核メンバーが積極的にSNSに拡散していたことが筆者の印象に残っている。

 NDL次世代システム開発研究室の原田久義からは,永崎氏の協力によりNDLラボで公開している,国立国会図書館デジタルコレクションから挿絵や図のあるページを収集し,IIIFに対応した形で一覧表示する実験サービス「国デコImage Wall」を紹介した。また,国立国会図書館デジタルコレクションがインターネット公開している古典籍資料など一部の資料について,2018年度にIIIFへ対応する予定であることを報告した。

 各機関でIIIFの活用が検討され,世界中の機関との連携につながるという期待がある一方,メタデータやサムネイルのオープン化に関する議論とIIIFのような最新技術の動向をどのように結びつけて解決するかといった点が今後の課題として挙げられた。

電子情報部電子情報サービス課次世代システム開発研究室・里見航

Ref:
http://iiif.io/
http://iiif.jp/2017tokyo_sympo
http://projectmirador.org/
https://universalviewer.io/
https://github.com/mejackreed/Leaflet-IIIF
https://digi.vatlib.it/
http://codh.rois.ac.jp/software/iiif-curation-viewer/
http://lab.ndl.go.jp/dhii/kunidecoview/
E1916