E2709 – 2024年CEAL年次大会及びNCC公開会議<報告>

カレントアウェアネス-E

No.482 2024.06.27

 

 E2709

2024年CEAL年次大会及びNCC公開会議<報告>

利用者サービス部科学技術経済課・福林靖博(ふくばやしやすひろ)、
電子情報部電子情報企画課次世代システム開発研究室・青池亨(あおいけとおる)

 

  2024年3月、米・ワシントン州シアトルにおいて、東アジア研究に関する複数の会議が開催され、研究者や東アジア研究図書館の司書等、関係者が世界中から集まった。本稿では、筆者らが主として参加した、東亜図書館協会(CEAL)年次大会及び北米日本研究資料調整協議会(NCC)公開会議(E2611参照)についてそれぞれ報告する。

●CEAL年次大会(3月13日、14日)

  年次大会全体の傾向として、生成AIを図書館業務へ活用することによる業務効率の向上への期待と、正確な情報を提供する観点からの懸念に関する話題が多くを占めていた印象であった。

  韓国資料委員会(CKM)のセッションでは、大学図書館・公立図書館等におけるAIチャットボットの活用や韓国国立中央図書館におけるAI技術を活用した要約サービスや推薦サービス等の実験サービスについて紹介があった。

  中国資料委員会(CCM)のセッションでは、英語の古い手書き原稿の画像を読み込ませて中国語で要約を出力する、歴史上のイベントを年表にまとめて出力する、美術館の収蔵品の画像に説明文を付与するといった生成AIサービスの利用方法について報告があった。

  日本資料委員会(CJM)のセッションでは、国文学研究資料館の菊池信彦氏及び国立国会図書館(NDL)の青池、加えて、録画による事前公開方式での報告となった東京大学の大向一輝氏から、各機関におけるAI技術等を活用したデジタルアーカイブの取組について発表を行った。NDLからは、2021年度以降力を入れて取り組んできた光学文字認識(OCR)関連事業や国立国会図書館デジタルコレクションにおける大規模な全文検索機能の拡充に関する紹介に加え、次世代デジタルライブラリー(E2154参照)やNDL古典籍OCR、NDL Ngram Viewer(E2533参照)といった、NDL次世代システム開発研究室において研究開発を行い、NDLラボから公開している実験サービスを紹介した。

  技術処理委員会(CTP)のセッションでは、NDL非常勤調査員でもある同志社大学の原田隆史氏から、生成AI(ChatGPT)を利用して、書誌事項から日本十進分類法の推定を行う取組について説明があった。NDLラボが公開しているNDC Predictorによる予測結果との性能の比較を行い、生成AIの予測性能は相対的にまだ低いものの、検索拡張生成(RAG)や再学習(Fine tuning)によってより予測精度を高めることができたと報告があった。

  ほかには、講師から図書館業務において有用なプロンプト(生成AIへの指示)の具体例の説明を受けながら会場で参加者が生成AIを実際に利用して使い方を探るワークショップや、AIを共通テーマとしたポスターセッション等が開催された。

●NCC公開会議(3月14日)

  NCC代表のFabiano Rocha氏の司会・進行の下で進められた。米・デューク大学のMatthew Hayes氏からは、NCCの1年間の活動について報告があった。NDLの福林からは、2024年1月に公開された国立国会図書館サーチを中心に、NDL所蔵資料デジタル化の進捗状況や、海外図書館向け送信サービスにおけるプリントアウトの開始等、NDLのこの1年間のデジタルシフトに係る取組について説明した。続くQ&Aセッションでは、会場からの質問は、2021年の著作権法第31条改正を受け、実施に向けた準備が進められている図書館等公衆送信サービス(E2412参照)についてのものがほとんどで、本サービスに対する海外からの関心の高さがうかがえた(ただし、補償金の収受を行う一般社団法人図書館等公衆送信補償金管理協会の準備が整っていないため、本稿を執筆している2024年6月時点でサービス開始の目処は立っていない)。

  期間中は、会場及びその周辺で、北米日本研究司書の人々との非公式な意見・情報の交換もじっくりと行うことができた。NDLの近年のデジタルシフトに対する肯定的な評価を、その一端を担ってきた者として嬉しく思う一方、北米の日本研究を取り巻く厳しい状況と、中国や韓国の勢いのある取組を目の当たりにして、NDLだけでなく国全体として日本研究支援の取組を考えることの必要性を痛感した。

  2025年のCEAL年次大会及びNCC公開会議は、米・オハイオ州コロンバスで開催予定である。

Ref:
“Annual Meeting 2024 | Seattle, Washington”. CEAL.
https://www.eastasianlib.org/newsite/meetings/
“2024 Open Meeting: Meeting Agenda”. NCC.
https://guides.nccjapan.org/2024openmeeting
NDL Lab.
https://lab.ndl.go.jp/index.html
一般社団法人図書館等公衆送信補償金管理協会(SARLIB).
https://www.sarlib.or.jp/
“サービスの開始延期についてのお知らせ(2024年6月20日から)”. NDL.
https://www.ndl.go.jp/jp/news/maintenance.html#20240613_0800
日向智昭, 福山樹里, 大沼太兵衛. 2023年東アジア研究に関する国際会議<報告>. カレントアウェアネス-E. 2023, (459), E2611.
https://current.ndl.go.jp/e2611
青池亨. 国立国会図書館,次世代デジタルライブラリーを公開. カレントアウェアネス-E. 2019, (372), E2154.
https://current.ndl.go.jp/e2154
青池亨. NDL Ngram Viewerの公開:全文テキストデータ可視化サービス. カレントアウェアネス-E. 2022, (442), E2533.
https://current.ndl.go.jp/e2533
村井麻衣子. 令和3年著作権法改正:図書館関係の権利制限規定の見直し. カレントアウェアネス-E. 2021, (418), E2412.
https://current.ndl.go.jp/e2412