E2708 – 「博物館の収蔵コレクションの現状と課題を考える」<報告>

カレントアウェアネス-E

No.482 2024.06.27

 

 E2708

「博物館の収蔵コレクションの現状と課題を考える」<報告>

法政大学キャリアデザイン学部・金山喜昭(かなやまよしあき)

 

  2024年5月25日、法政大学資格課程が、シンポジウム「博物館の収蔵コレクションの現状と課題を考える」を法政大学市ケ谷キャンパスで開催した。本シンポジウムは、科研費基盤研究(C)22K01019「博物館収蔵資料の保管と活用に向けた調査研究」の助成によるものである。本稿では、その概要を紹介する。

  石川貴敏(法政大学兼任講師)より、「博物館のコレクション管理状況について―公立博物館アンケート調査結果より―」と題した報告があった。科研費助成事業として、令和5年2月から3月まで国内の公立博物館500館を対象にアンケート調査を実施し、317館から回答を得た。多くの館が未整理資料を抱えた状態であることや、収蔵資料の登録・管理に関する手順の明文化がなされていないこと、収蔵庫の使用率が9割を超えていることなど、公立博物館におけるコレクション管理の現状と課題について、データをもとに報告した。

  岡本桂典氏(高知県立歴史民俗資料館前副館長)より、「高知県立歴史民俗資料館の収蔵庫問題」と題した報告があった。平成3年に開館した同館では、平成5年にはすでに収蔵庫が不足する状況になっていたことや、その後の収蔵庫予備室の増設を経てもなお収蔵しきれない資料があふれている状況について、これまでの経緯と対策の取り組みについて報告し、学芸員が常に先を見据えて考えていくことの必要性を指摘した。

  篠﨑茂雄氏(栃木県立博物館学芸部長)より、「栃木県立博物館の収蔵資料の管理と活用」と題した報告があった。令和3年に完成した新しい収蔵庫棟の建設に合わせて検討された「収集、保管、活用等に関する要綱」について報告した。収蔵スペースを考慮した上で適正な資料収集を行うための資料収集方針の再検討や、安易な除籍を防ぐための規定の必要性について指摘した。

  佐々木秀彦氏(東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京企画部企画課長)より、「都立文化施設における収蔵品の収集・保管・活用」と題した報告があった。令和5年5月の「都立文化施設運営指針」で示された収蔵資料の収集・保管・活用に関する課題解決の方向性と、それを受けて同財団が行った事業計画の見直しについて報告した。共通外部収蔵庫の計画、収蔵資料の再評価とそれに基づく除籍や教育目的での活用など、具体的な取り組みについて紹介した。

  筆者より、「収蔵庫の満杯問題の所在と課題」と題した報告を行った。資料収集の制限や収蔵環境の悪化、整理が進まないために資料の活用が図られていない問題について、博物館の基礎機能である「コレクション管理」に人員や予算が配分されてこなかったことや、博物館側においても収集方針や資料の登録・管理に関する手順が明文化されていないなどの瑕疵がある点を指摘した。解決策として、日本の実態に即したコレクション管理の基準となる「日本版スペクトラム」の作成やコレクション管理に関する補助金の創設を提案した。

  半田昌之氏(日本博物館協会専務理事)より、「博物館振興を支えるコレクション管理―課題と展望―」と題した報告があった。コレクションを守るためには相応のコストが必要となることを前提としつつも、博物館が設置者や市民と、対話と連携を行うことで、単にコストの問題にとどめることなく、人類共有の財産としての博物館コレクションの価値を共有し、共に解決を図っていくことの必要性を指摘した。

  中尾智行氏(文化庁参事官(文化拠点担当)博物館支援調査官)より、「博物館政策の立場から」と題した報告があった。収蔵庫問題の理由の一つとして、博物館の資料収集機能に関する社会的認知の低さを挙げ、博物館に予算が割かれにくくなっている現状を説明した。壱岐市立一支国博物館の「魅せる収蔵庫」や鳥取県立博物館の展覧会などを例に、博物館資料とそれを収集していく意義や社会に価値を共有することで、政策上のプレゼンスを上げる必要性を指摘した。

  竹内有理氏(乃村工藝社公民連携開発1部プランナー)より、「コレクションと社会をつなぐ―イギリスの博物館の取組み―」と題した報告があった。英国の博物館の視察と博物館協会(Museums Association:MA)への取材をもとに、国内外の博物館への移管や寄贈者への返却、リユース、売却などの処分を行う際の注意点、情報公開の大切さ、資料の収集方針やコレクションの特徴を明文化した「コレクションポリシー」の作成の重要性を報告し、ポリシーと管理と活用を一体的に考える必要性を指摘した。

  栗原祐司氏(国立科学博物館理事・副館長)より、「自然史系コレクションの収蔵問題と国際的な動向」と題した報告があった。現代だけでなく未来の研究に資するために標本・資料を残していくことの大切さと、それを保管する収蔵庫や自然史専門の学芸員の不足、大学保管標本の喪失など自然史コレクションの収蔵問題を報告した。2019年の国際博物館会議(ICOM)京都大会(CA1971参照)などにおいて、収蔵庫問題が国際的な課題として議論されつつある現状を認識し、国が共同収蔵庫設置のための補助金の新設や税制優遇措置などの施策を講じることの必要性を指摘した。

  その後、田中裕二氏(静岡文化芸術大学准教授)が司会となり、報告者によるパネルディスカッションが行われた。収蔵庫問題が放置されてきた原因、コレクション管理に関わる文書の整備、博物館法施行規則第19条のコレクション管理に関する参酌基準の解釈、コレクション管理の体制づくりなどについて意見交換が行われた。最後に田中氏が三つの要点として、コレクション管理の可視化の重要性、学芸員の専門分業化の議論と展覧会などに偏らない事業展開の見直し、コレクションは誰のものかという問いに関わる、コレクション整理と公開がもたらす博物館と利用者双方へのメリットをまとめ、討議を締めくくった。

Ref:
“法政大学資格課程主催 シンポジウム「博物館の収蔵コレクションの現状と課題を考える」を5月25日(土)に開催”. 法政大学. 2024-04-22.
https://www.hosei.ac.jp/info/article-20240422133843/?auth=9abbb458a78210eb174f4bdd385bcf54
“シンポジウム「博物館の収蔵コレクションの現状と課題を考える」”. 法政大学資格課程.
https://shikaku.i.hosei.ac.jp/?page_id=29
金山喜昭, 石川貴敏. 博物館収蔵資料の保管と活用に向けた調査研究(公立博物館アンケート調査結果)報告書. 2024, 175p.
https://shikaku.i.hosei.ac.jp/?action=common_download_main&upload_id=1269
金山喜昭ほか. 博物館とコレクション管理 ポスト・コロナ時代の資料の保管と活用. 増補改訂版, 雄山閣, 2023, 277p.
“博物館収蔵資料の保管と活用に向けた調査研究”. KAKEN.
https://kaken.nii.ac.jp/grant/KAKENHI-PROJECT-22K01019/
都立文化施設運営指針. 生活文化スポーツ局. 2023, 20p.
https://www.seikatubunka.metro.tokyo.lg.jp/bunka/bunka_seisaku/houshin_torikumi/files/0000000932/toritubunkashisetushishin.pdf
平井俊行. 第25回ICOM(国際博物館会議)京都大会2019. カレントアウェアネス. 2020, (343), CA1971.
https://doi.org/10.11501/11471489