E2611 – 2023年東アジア研究に関する国際会議<報告>

カレントアウェアネス-E

No.459 2023.06.29

 

 E2611

2023年東アジア研究に関する国際会議<報告>

総務部支部図書館・協力課・日向智昭(ひゅうがともあき)
利用者サービス部政治史料課・福山樹里(ふくやまじゅり)
電子情報部電子情報企画課次世代システム開発研究室・大沼太兵衛(おおぬまたへえ)

 

  2023年3月、米国マサチューセッツ州ボストン及びケンブリッジにおいて、東アジア研究に関する複数の会議が開催され、研究者や東アジア研究図書館の司書等、関係者が世界中から集まった。本稿では、筆者らが主として参加した会議 “Tools of the Trade: The Way Forward”を中心に、また東亜図書館協会(CEAL)年次大会、北米日本研究資料調整協議会(NCC)公開会議については、日本関係の発表に焦点を当てて、それぞれ報告する。

●Tools of the Trade : The Way Forward

 “Tools of the Trade”は、東アジア研究におけるデジタル技術の活用に関する国際会議であり、各国の図書館に加え、デジタル人文学(DH)の基盤構築や研究を推進している研究機関や研究者等が参加した。会議は3月14日から16日までの3日間にわたり、複数の総会を挟みつつ、地域・テーマ別セッションが同時並行で行われ、活発な発表や議論がなされた。

  会議冒頭の総会「未来の図書館ビジョン」(Library Visions of the Future)では、米・ハーバード大学図書館、台湾国家図書館、ベトナム国家大学ホーチミン市校、国立国会図書館(NDL)、韓国国立中央図書館、米・コロンビア大学図書館、中国・上海図書館(以上、発表順)の7館が、各館のビジョンや戦略計画を発表した。

  ハーバード大学図書館は、多様な視点を取り入れることによる知識へのアクセス方法の拡大、学術コミュニケーションの公平性等といった、多様性・公平性・包摂性(DEI)に関わる幅広い内容をその戦略計画に組み込んでいた。NDLは、同館のミッション及び「国立国会図書館ビジョン2021-2025」のうちデジタルに関係する重点事業を紹介した。また、唯一リモートで参加した上海図書館の発表では、ChatGPTや音声合成技術等を駆使して作成されたLiu Wei副館長の動画が上映され、会場には驚きのざわめきが広がった。

  発表者をパネリストとした全体討論では、図書館が投資すべきツールやプラットフォームが話題に挙がり、デジタルデータの長期保存や持続可能性といった長期的視野を持つよう職員を教育することや、オープンソースソフトウェアを活用した開発力を維持しつつ新しい技術にも対応できるように能力を更新し続けること等、人材育成を重視する意見があった。

  地域・テーマ別セッションのうち、日本の「図書館セッション」では、NDLが近年の具体的な取組として光学文字認識(OCR)関連事業やNDLラボの実験サービス等(E2154E2533参照)を紹介した。会場からは、日本研究支援に資するとの評価と期待が述べられ、また、デジタル化資料の送信サービス等に対しても意見が寄せられた。個別のプロジェクトを紹介するセッション“Exemplary Projects”等では、NDLのほか、人文学オープンデータ共同利用センター、人文情報学研究所、国立歴史民俗博物館、国文学研究資料館、米・スタンフォード大学フーバー研究所、ハーバード大学、上智大学、立命館大学等の研究者から、多種多様なツールやデータセット、アプリケーション等、多くのプロジェクトや成果が報告された。

●CEAL年次大会

  3月16日に開催されたCEAL年次大会の日本資料委員会(CJM)では、若手の司書によるデジタル技術を活用したプロジェクトについての発表が行われた。具体的には、日米の複数の大学の研究者等が協力して日本の女性写真家に焦点を当てる写真史可視化プロジェクト“Behind the Camera”や、日系カナダ人の強制移住に関連する電子展示“I Know We’ll Meet Again”等である。

●NCC公開会議

  同じく3月16日に開催されたNCC公開会議では、各ワーキンググループ等の活動報告があった。冒頭でExecutive Committeeからの報告として、日米友好基金による組織評価の結果、NCCは、評議会の設置と北米の研究図書館センター(CRL)等との提携を勧告され、これを受けてCRLと交渉中である旨が述べられた。

  また、本会議に先立ち、3月13日にハーバード大学燕京図書館において、“Beyond Covid”と題して次世代日本研究司書ワークショップが開催された。日本語の電子書籍の選定上の留意点、米国図書館協会と米国議会図書館による日本語ローマ字化ルールの主な変更点等、実務に役立つ内容から、IIIFを活用したコンテンツキュレーションサービスや古地図のマッピング事例のようなサービスの未来につながる発表まで、充実したプログラムであった。

  2024年のCEAL年次大会及びNCC公開会議は、米国ワシントン州シアトルで開催される予定である。

Ref:
“Tools of the Trade: The Way Forward”. HARVARD UNIVERSITY.
https://sites.harvard.edu/tools-of-the-trade/
“国立国会図書館ビジョン2021-2025 -国立国会図書館のデジタルシフト-”. NDL.
https://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/vision_ndl.html
NDL Lab.
https://lab.ndl.go.jp/index.html
“Annual Meeting”. CEAL.
https://www.eastasianlib.org/newsite/meetings/#cjm-program
“Behind the Camera”. THE UNIVERSITY OF BRITISH COLUMBIA.
https://behindthecamerajapan.arts.ubc.ca/
“I Know We’ll Meet Again: Correspondence and the forced dispersal of Japanese Canadians”. University of British Columbia Library.
https://ubc-library-rbsc.github.io/gillis-2021/
“2023 Open Meeting: Meeting Agenda”. NCC. 2023-03-20.
https://guides.nccjapan.org/2023openmeeting/agenda
“Beyond Covid: Preparing Next Generation Librarians for the Future of Japanese Studies (2023)”. NCC. 2023-04-25.
https://guides.nccjapan.org/nextgenerationworkshop2023/home
青池亨. 国立国会図書館,次世代デジタルライブラリーを公開. カレントアウェアネス-E. 2019, (372), E2154.
https://current.ndl.go.jp/e2154
青池亨. NDL Ngram Viewerの公開:全文テキストデータ可視化サービス. カレントアウェアネス-E. 2022, (442), E2533.
https://current.ndl.go.jp/e2533