カレントアウェアネス-E
No.504 2025.07.03
E2805
2025年CEAL年次大会及びNCC公開会議<報告>
国立国会図書館利用者サービス部複写課・石澤文(いしざわあや)、
国立国会図書館関西館文献提供課・平澤大輔(ひらさわだいすけ)
2025年3月、米・オハイオ州コロンバスにおいて、東亜図書館協会(CEAL)年次大会と北米日本研究資料調整協議会(NCC)公開会議(E2709参照)が開催され、国立国会図書館(NDL)から筆者2人が参加した。
●CEAL年次大会(3月12日、13日)及びNCC公開会議(13日)
3月12日に開かれたCEAL年次大会の総会は2部構成で、午前は「東アジア研究と図書館:過去、現在、そして未来」のテーマの下、研究者3人による日中韓の各国研究についての基調講演が行われた。日中韓の各国研究は異なる発展過程を経てきた一方、昨今、北米研究者が中国国内で研究活動を行うことのリスクが高まっていることや北米における日本研究職の求人の停滞、韓国研究に恩恵を与えたグローバリゼーションについても陰りが見えるなど、北米の大学等において東アジア研究が困難な状況に直面しているとの認識が共有された。
午後は「サービスのギャップを埋める」というテーマで4人の図書館司書による取組の報告とディスカッションが行われた。報告では、中国研究者を対象としたオーラルヒストリー・プロジェクトが、中国研究の発展史に関する資料の不足を埋めるだけでなく、司書のインタビュアーとしての成長にもつながったことや、特別コレクションの資料を活用した展示会を企画する授業を通じて、大学生と司書のコミュニケーションが促進されたことなどが紹介された。同日夕方には基調講演と同テーマのポスターセッションがあったが、日本の地方公共団体の条例等を横断的に検索できる「条例Webアーカイブデータベース」の紹介、Amazon.co.jpでの中古書価格の分析等、内容は多岐にわたった。
技術処理委員会(CTP)のセッションでは、同志社大学の原田隆史氏から、日本語のローマ字変換に、商用及びオープンソースのソフトウェア、国立国会図書館サーチAPI、生成AIを用いた場合に、コストや精度等にどのような違いが生じるか、という観点から比較した報告があった。
その他、日本資料委員会(CJM)では特色ある日本関係コレクションの紹介が行われるなど、様々なセッションが開催された。
NCC公開会議は、2024年6月に開始された“NIJL-NCC/CDDP Digitization Grant Program”に関する報告が中心であった。「包括的デジタル化と発見プログラム」(CDDP)の一環であるこの取組は、NCCと国文学研究資料館(NIJL)との協力に係る基本合意に基づき、北米の機関が所蔵する日本の古典籍資料のデジタル化に助成金を支給するものであり、デジタル化された資料は古典籍資料のポータルサイトである「国書データベース」に収録される。
●Informal Business Meeting(3月13日)
3月13日の夜にCJMとNCCの共催で開催されたInformal Business Meetingは、NDLのデジタル資料の提供サービスの利便性を広く周知する趣旨で企画されたもので、平澤が図書館向けデジタル化資料送信サービス(以下「図書館送信」)及び個人向けデジタル化資料送信サービス(以下「個人送信」)について、石澤が遠隔複写(PDFダウンロード)サービスについて、それぞれ発表した。2025年2月に提供を開始したばかりの遠隔複写(PDFダウンロード)については、対象となる資料やサービスの利用方法を中心に説明した。図書館送信については、海外の機関が参加しやすくなることを目的として2025年3月に行った申請手続の見直しについて詳しく紹介した。
Informal Business Meetingには北米の日本研究者や日本研究司書ら50人を超える参加があり、発表後の質疑応答では、参加者から多くの質問や意見が寄せられた。遠隔複写(PDFダウンロード)に関しては、利用者登録や支払いの方法などに関する具体的な質問があり、今後、NDLが所蔵する資料への新たなアクセス手段の一つとして、サービスの利用が進む可能性が感じられた。また、図書館送信について、新たに参加を検討する意向を示す機関があり、今回の手続の見直しによって、より多くの機関の参加が実現することが期待される。
一方で、対象者が日本国内の居住者に限定されている個人送信に対しては、海外へのサービス展開を強く望む意見も寄せられた。図書館の予算や人員の削減が進められ、北米における日本研究が困難な状況に直面する中で、NDLに対する期待は高まっており、海外からの日本国内刊行資料へのアクセスの確保をはじめとする、日本研究への支援策を引き続き検討していくことの重要性を改めて認識した。
2026年大会はカナダ・バンクーバーで開催予定である。
Ref:
“Annual Meeting 2025 | Columbus, Ohio”. CEAL.
https://www.eastasianlib.org/newsite/meetings/
条例Webアーカイブデータベース.
https://jorei.slis.doshisha.ac.jp/
国書データベース.
https://kokusho.nijl.ac.jp/
“Comprehensive Digitization and Discoverability Program: 2024-2025 NIJL-NCC CDDP Digitization Grant Program”. NCC.
https://guides.nccjapan.org/cddp/nijl-ncc/digitalgrant
“遠隔複写サービス”. NDL.
https://www.ndl.go.jp/jp/copy/remote/index.html
“海外の図書館向けデジタル化資料送信サービスの申請に必要な書類を見直しました”. NDL. 2025-03-10.
https://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2024/250310_01.html
福林靖博, 青池亨. 2024年CEAL年次大会及びNCC公開会議<報告>. カレントアウェアネス-E. 2024, (482), E2709.
https://current.ndl.go.jp/e2709
マルラ俊江, 原田剛志. 図書館向けデジタル化資料送信サービスへの北米からの参加の現状と今後への期待. カレントアウェアネス. 2023, (355), CA2037, p. 8-10.
https://doi.org/10.11501/12767607