E2796 – 図書館の障害者サービスに関するIFLAガイドラインの公開とその意義

カレントアウェアネス-E

No.503 2025.6.19

 

 E2796

図書館の障害者サービスに関するIFLAガイドラインの公開とその意義

特定非営利活動法人支援技術開発機構・野村美佐子(のむらみさこ)

 

  2025年1月27日、国際図書館連盟(IFLA)のEquitable and Accessible Library Services (EALS) Section (旧・特別なニーズのある人々に対する図書館サービス(LSN)分科会)は、図書館の障害者サービスに関する新たなガイドラインとして、“IFLA Guidelines for Making Libraries Accessible for People with Disabilities”(以下「ガイドライン」)を公開した。このガイドラインは、2005年に同分科会が出版した“Access to Libraries for Persons with Disabilities: A Checklist”(以下「旧チェックリスト」)の改訂版である。

  旧チェックリストも依然として有効であるが、障害のある人々と図書館サービスを取り巻く環境は、この間に大きな変化を遂げた。特に、2006年の国連障害者権利条約の成立や、支援技術、電子フォーマット、オンラインツール等の顕著な進歩が影響を与えている。加えて、障害に関連する用語の変化や、知的障害のある人々への対応も新たな課題となってきた。本稿は、3年間にわたるガイドラインの改訂作業に参画した筆者の経験を踏まえ、ガイドラインの概要と意義を紹介する。

●ガイドラインの目的と対象

  ガイドラインの主な目的は、図書館を誰もが利用できるようにすることである。そのための戦略として、ユニバーサルデザインの原則の適用、支援技術の活用、物理的アクセシビリティと情報アクセシビリティの確保を推奨する。また、ガイドラインは、図書館員がアクセシビリティ対応の経験を持たない場合でも適切なサービスを提供できるよう、分かりやすい構成となっている。さらに、障害者団体や関係機関等との連携も重視する。対象となるのは、公共図書館、学術図書館、学校図書館、児童・ヤングアダルト図書館、専門図書館など、あらゆる種類の図書館である。

●図書館におけるアクセシビリティとその発展

  アクセシビリティという概念は、障害者の権利に基づく視点から進化してきた。2003年の世界情報社会サミット(WSIS)において、ICTコミュニティがその重要性を初めて認識した。これを受けて、ユニバーサルデザインと支援技術の重要性が国連障害者権利条約の条文にも反映され、さらに、マラケシュ条約の成立へとつながったと考えられる。

  ガイドラインは、図書館のリーダーシップとマネジメントの重要性も指摘する。図書館のリーダーと管理者は、アクセシビリティとインクルージョンの方針を明確に示し、障害者コミュニティとの連携を推進し、それらを組織内で制度化するという重要な役割を担う。また、イベントや広報活動においても、すべての人が参加できるよう環境を整備し、必要なサポートに関する情報を提供することを推奨する。

●図書館サービスの具体的な改善策

  物理的アクセシビリティは、図書館サービスに不可欠な要素である。施設や情報資源がすべての利用者に開かれていることが求められるとともに、知的障害者など、個々の障害とニーズに応じた配慮も必要である。情報アクセシビリティの面では、図書館が適切なフォーマットで情報を提供し、利用者がそれを有効に活用できる環境を整えることが求められている。具体的には、分かりやすい情報の提示、DAISY(アクセシブルな情報システム)の活用、オンラインサービスにおけるアクセシビリティ向上策など多くの提案が盛り込まれている。

●ガイドラインの柔軟な活用

  ガイドラインは、様々な障害のある人々のニーズに応じた図書館サービスについて、事例に基づき提案を数多く提供している。そのため、読者は全セクションを通読するだけでなく、地域の状況や特定のニーズに応じて、関連するセクションを選択・参照できるよう構成されている。

●用語集と日本での展開

  ガイドラインには、付属文書として専門用語を解説した用語集が提供されている。用語の解釈は国によって異なる場合があるが、そのことが障害のある人々への対応に影響を及ぼすべきではないと述べている。日本においても、このガイドラインの翻訳が進められる予定であり、国内の図書館におけるアクセシビリティ向上のための実践的な手引きとして活用されることを期待したい。

Ref:
“Just published: IFLA Guidelines for Making Libraries Accessible for People with Disabilities”. IFLA. 2025-01-27.
https://www.ifla.org/news/just-published-ifla-guidelines-for-making-libraries-accessible-for-people-with-disabilities/
IFLA Equitable and Accessible Library Services Section. IFLA Guidelines for making libraries accessible for people with disabilities. IFLA, 2024, 68p.
https://repository.ifla.org/handle/20.500.14598/3719
“Change of name: From LSN to EALS”. IFLA. 2024-06-12.
https://www.ifla.org/news/from-special-needs-to-equitable-services/
WSIS. Declaration of Principles: Building the Information Society: a global challenge in the new Millennium. 2003.
https://www.itu.int/net/wsis/docs/geneva/official/dop.html
Stenberg, Peter; Larsson, Karin. A Library Without Obstacles : A Guide to Accessibility. Biblioteken i Malmö, 27p.
https://malmo.se/download/18.1063fd118de5108924902/1709204283971/A%20Library%20Without%20Obstacles%20v2.1.pdf