カレントアウェアネス-E
No.503 2025.06.19
E2797
小規模ミュージアムネットワーク(小さいとこネット)の紹介
小規模ミュージアムネットワーク(小さいとこネット)事務局・高田みちよ(たかだみちよ)
●小さいとこネットとは?
全国の多くのミュージアムは学芸員などの職員が不在あるいはわずかしかいない小規模館園である。地域資源を活用し教育や文化の発展に寄与するものとして重要でありながらも、人員不足や運営資金の縮小などが続き、疲弊している。小規模ミュージアムネットワーク(通称:小さいとこネット)は、「小さかったらあつまろう/つながろう」の合言葉のもと、小規模なミュージアムに関わる人たちが集い、困り事に一緒に向き合い、ミュージアムの面白さを確かめ合い、その魅力を伝えていこうとする人たちのゆるやかなネットワークである。メンバーはミュージアムの正職員・学芸員だけでなく、アルバイト、ボランティア、友の会会員、学生、業者など「興味があれば誰でも参加可」が最大の特徴となっている。「小さいとこ」の定義は、「自分が小さいと思えば小さい」としており、建物が小さい、予算規模が小さい、スタッフが少ないなど、「小さい」事情はそれぞれである。入会費も年会費も不要で、ホームページ上の申し込みフォームに記入した後に事務局に入会希望の連絡をすれば、メンバーとしてメーリングリストに登録される。2025年5月現在、320件(同一人物が複数アドレスを登録しているので320人ではない)が登録されている。
●小さいとこサミットの始まりと拡大
小さいとこネットは、2010年2月の第1回小さいとこサミットの開催とともに歩みを始めた。2009年4月、大阪府高槻市の芥川緑地資料館(あくあぴあ芥川)(当時)の指定管理者が交代し、新しい地域博物館としてスタートする旨のシンポジウムが行われた。その時、「小さい博物館のネットワークをつくってはどうか」との提案があり、半年の準備期間を経て第1回小さいとこサミットを開催した。サミット後に参加者が自発的に世話人を決め、メーリングリストを立ち上げ、次につながる仕組みをつくった。
サミットは年1回の持ち回りとし、第2回(2011年)貝塚市立自然遊学館(大阪府)友の会である「自然遊学館わくわくクラブ」、第3回(2012年)吹田市立博物館(大阪府)、第4回(2013年)八尾市立しおんじやま古墳学習館(大阪府)、第5回(2014年)篠山チルドレンズミュージアム(兵庫県)による開催へとつながっていく。第5回篠山チルドレンズミュージアムでのサミットでは、開催後にサミットの宣言文である「ささやま宣言」を公開した。
<ささやま宣言>
- “小さいとこ” だからこそできることを考えよう
- 数値で表わせないことも評価しようと呼びかけよう
- 小さかったらつながって、自分の良さをみつけよう
- “大きいとこ” にもつながって、みんなと共有しよう
- 地域に溶け込み、誇りを持って続けていこう
●小さいとこの新たな展開
活動が関西で始まったため、顔を合わせての活動のほとんどが関西圏で行われていた。東京周辺のメンバーが増えてきた頃、サミット以外でも顔を合わせた活動をしたいと「関東でもちょこっと集まろうジャン」という関東圏での交流会が始まった。また、全国に散らばるメンバーがメーリングリストでの情報交換から仲良くなって共催事業を企画するなど、良い意味での独自活動が活発になっていく。2019年にはICOM京都大会のオフサイトミーティングに参加し、小さいとこネットも国際化!と思った矢先、新型コロナウィルス感染症の拡大により、国際交流どころかサミットも開催できなくなった。この間も、ツイッター(現X)で「#エア博物館」を展開、オンライン情報交換会、「小さいとこnano」という研修会など、交流と情報交換を継続し、「消毒はどうしているのか」「ハンズオンは撤去しているのか」「ボランティアとの関係はどうしているのか」などの情報交換を続けた。初めての危機に対しての情報交換はとても貴重で、同じ仲間ががんばっているんだ、という結束感、安心感に救われた。
コロナ禍で延期になっていたサミットは、2023年9月に飛騨みやがわ考古民俗館(岐阜県)で再開することができた。2024年9月に東京農工大学科学博物館(東京都)で開催したサミットでは「学生と博物館のステキな関係とは?」をテーマにし、ミュージアムに積極的に関わろうとする学生たちの活動を取り上げたことで、その後の活動の活性化やミュージアムとの新しい連携事業に展開するなどしている。
●これからの小さいとこ
小さいとこネットは、ミュージアムに関わる人たちのつながりを大切にし、気軽に情報交換ができる雰囲気を維持している。多様なメンバーがいることで、メーリングリストでは日常的に活発に意見交換が行われており、どんな問いかけにも必ず誰かが応えてくれる。館内に学芸員が一人しかいなくても、メーリングリストにはたくさんの仲間がいる。ささやま宣言では「“大きいとこ”にもつながって、みんなと共有しよう」としており、国立館や学会などに所属するメンバーもいる。このような、ゆるいネットワークでつながりあい、情報交換をしながら、個人個人の顔の見える関係で仲良くなり、ミュージアム業界の問題に立ち向かい、より良いミュージアム運営を続けていくことを今後も目指していく。
Ref: 小規模ミュージアムネットワーク 小さいとこネット. https://chiisaitokonet.jimdofree.com/ “小さいとこの理念”. 小さいとこネット. https://chiisaitokonet.jimdofree.com/%E5%B0%8F%E3%81%95%E3%81%84%E3%81%A8%E3%81%93%E3%81%AE%E7%90%86%E5%BF%B5/