E1671 – 2015年CEAL年次大会・NCC公開会議<報告>

カレントアウェアネス-E

No.280 2015.04.23

 

 E1671

2015年CEAL年次大会・NCC公開会議<報告>

 

 2015年3月25日から26日まで,残雪の米国シカゴにおいて,東亜図書館協会(CEAL)年次大会と北米日本研究資料調整協議会(NCC)公開会議が開催された。

 会議開催に先立つ3月24日に,筆者は,シカゴ大学図書館の東アジア図書館およびマンスエト・ライブラリー(The Joe and Rika Mansueto Library)の図書館ツアーに参加した。1936年に設置された東アジア図書館には日中韓の資料が約85万点納められており,日本語の雑誌やその他レファレンス資料も充実している印象を受けた。一方のマンスエト・ライブラリーはガラス張りの卵形ドームが印象的な,2011年に開館した新しい図書館である。地上は閲覧室のみで,資料は全て,最大収蔵冊数約350万点の地下にある自動書庫に納められている。資料を出納する機械の動きは驚くほど滑らかで,利用者から請求があって提供するまでに要する時間は最短で約5分とのことであった。

 同日夜は,NCCとCEALの日本資料に関する委員会(Committee on JapaneseMaterials:CJM)の共同ミーティングに出席した。第1部は,ジャパンナレッジや全国紙各社の新聞データベース,CiNii等の電子リソースの紹介,第2部は,国立国語研究所の小木曽智信准教授による同研究所作成のコーパスの紹介,そして筆者から,事前に寄せられていた国立国会図書館(NDL)の海外ILLへの要望に対する回答を行った。

 25日は,「地域(東アジア)コレクションを越えて: 21世紀における国境を再考する」(Beyond the Local (East Asian) Collection: Re-thinking Boundaries in the 21st Century)をテーマにした総会が開催され,その冒頭の基調講演ではコーネル大学のケニー(Anne Kenney)氏が登壇した。ケニー氏の講演では,大学生や研究者の国際的な移動とネットワーク化が進んでいること,図書館員に必要なスキルが従来の枠を超え,キュレータとしての役割や出版活動に関わるスキル等も求められるようになっていること,図書館員と学生との共同事業等も紹介された。講演の内容はいわば,総会のテーマ通り「越境」がキーワードとなったものであった。

 前回会議(E1558参照)では「コラボレーション」という単語が多用されたというが,基調講演に続く2つの部会のテーマには,まさにその「コラボレーション」と「パートナーシップ」という言葉が掲げられていた。部会では多数の報告が行われたが,そのうち日本に関するものは次の2つだった。1つ目は,オーバリン大学で日本の書物史を研究するシェリフ(Ann Sherif)教授による報告で,図書館とのコラボレーション事例として,日本語を多読するための資料コーナーの設置や古い日本語の書物を使った書物史のワークショップが行われているとのことである。2つ目は,ペンシルバニア大学図書館の日本研究司書であり,近代文学史・書物史研究者のデジァルダン(Molly Des Jardin)氏の報告である。その内容は,同大学図書館に氏らが中心となって開設したデジタル人文学研究コミュニティ“WORD LAB”の紹介であった。このラボはスタンフォード大学のLiterary Labの影響を受けて作られたとのことである。ラボでは,デジァルダン氏がPythonを使った青空文庫のデータのハーベストを研究していること,その他にラボ参加者による多様なテキスト分析の研究が行われているとのことであった。

 同日夜はNCCのILL/DD委員会の会合に出席し,OCLCのメルヴィン(Tony Melvyn)氏による“WorldShare Interlibrary Loan”の新インターフェースに関するプレゼンテーションを聴講した。この会合では,グローバルILLフレームワーク(GIF)における,ISO ILLプロトコルに基づく日米間ILLシステム間リンクの今後についても話し合われた。現在,日米の関係者の間では,NACSIS-ILLとOCLCのシステムとのシステム間リンク途絶後の代替方式について検討が進められているが,会合では,この問題の解決に臨むOCLC側の積極的な姿勢をうかがうことができた。

 翌26日は朝からNCCの公開会議が開催され,ここでNDLの利用者サービス部サービス企画課課長補佐の小坂昌がNDLのオンラインサービスの紹介を,関西館図書館協力課課長補佐の土屋慎一がNDLの海外日本研究司書向けの研修事業について発表を行った。続いて,「日本研究におけるデジタル人文学」(Digital Humanities in Japanese Studies)をテーマにCEALの日本資料委員会の会議が開催された。ここでは,小木曽准教授による国立国語研究所のコーパスの紹介と,シカゴ大学のロング(Hoyt Long)准教授による日本語資料を活用したテキスト分析の研究紹介が行われた。資料のデジタル画像を使った研究だけでなく,テキストを分析する研究も進められていることから,日本研究資料としてそのようなテキストの利用環境の整備も求められていると強く感じた。また,午後には日本近世史研究者の集まりである“Early Modern Japan Network”の年次会合が開催された。ここではNDLの小坂から,NDLのオンラインサービスと「国立国会図書館デジタルコレクション」で提供している近世資料の紹介が行われ,研究者の高い関心がうかがわれた。

 総括すると,米国で盛んなデジタル人文学に,現地の日本研究司書も積極的に取り組んでいる様子が強く印象に残る会議であった。それだけに,日本研究資料のデジタル化とその提供にあたっては,国内だけに視野を留めるのではなく,広く海外まで見据えながら,そこでの動向も意識する必要があると感じた。

関西館文献提供課・菊池信彦

 

Ref:
http://www.eastasianlib.org/
http://guides.nccjapan.org/homepage
https://www.lib.uchicago.edu/e/easia/
http://mansueto.lib.uchicago.edu/
https://upennwordlab.wordpress.com/
http://litlab.stanford.edu/
https://upennwordlab.wordpress.com/
E1558