カレントアウェアネス-E
No.377 2019.10.10
E2183
公開10年となるEuropeanaの動向:2018年年次報告書を中心に
関西館文献提供課・高嶋志帆(たかしましほ)
2018年はEuropeana(CA1785,CA1863参照)のウェブサイト公開から10周年となる年であった。Europeanaのウェブサイトでは3,700以上の文化機関から提供された,5,800万点以上の文化的資源へのアクセスが提供されるまでに至った。本稿では,2019年5月に公開された2018年の年次報告書について「重点領域」「人的ネットワーク」「欧州の人々へのアプローチ」の3つの観点に絞り,一部2019年の動向も含め紹介する。
●重点領域
Europeanaは学術研究,創造産業,教育(CA1943参照)を重点領域としている。学術研究の分野に対しては研究助成プログラムを提供しており,経歴の浅い研究者向けに3回目の募集が行われた。3回目は第一次世界大戦に関連するプロジェクトが対象であり,3件のプロジェクトが選定された。創造産業に対してはEuropeanaのコンテンツを利用した教育に関係するアプリなどの作品のコンテストを実施し,欧州の鳥とその鳴き声の学習アプリなど2点の受賞作品を発表した。
教育分野に対しては,初等中等教員向けの講座Europeana in your classroomをMOOCで開講した。Europeanaのさまざまなアプリやツール,Europeanaに搭載された資料の調査・精通方法や,授業での活用方法などを教授する講座となっており,59か国から2,000人以上の登録があった。2019年には英語に加え,スペイン語とポルトガル語も追加した更新版が開講され,2020年にはさらにイタリア語とフランス語が追加される予定である。
●人的ネットワーク
Europeanaはデジタルアーカイブの専門家などが参加する人的なネットワークであるEuropeana Network Association(ENA)を構築している。2018年時点で2,100人以上のメンバーからなる組織へと成長しており,この中から中心的な活動を担う評議員の選挙が行われた。定員36人のうち28人の入れ替え選挙であり,研究者やキュレーター,図書館員,アグリゲーターなどさまざまなバックグラウンドを持つ89人の候補者が集まり,ソーシャルメディアを用いた選挙活動が行われた。
また,ENAは新たにデジタルアーカイブの評価に関するEuropeana Impactや内外への宣伝や内部のコミュニケーションに関するEuropeana Communicatorなど6つの専門コミュニティを立ち上げた。Europeanaの専門家向けサイトであるEuropeana Pro内に各コミュニティのページがあり,情報発信が行われている。
●欧州の人々へのアプローチ(ウェブサイトとキャンペーン)
Europeanaは2017年に更新したEuropeana Strategy 2015-2020(E1620参照)において,優先する3つの項目のうちの一つとして,ウェブサイトおよび参加型キャンペーンを介して人々に関心を持ってもらうことを挙げた。
まず,EuropeanaのウェブサイトEuropeana Collectionsでは,文章と画像からなる展示やブログ,特定のテーマにおいてキュレーションされたテーマ別コレクションといった,検索以外で文化的資源を閲覧する方法が提供されている。2010年から続く展示に対し,テーマ別コレクションは2016年の芸術と音楽をテーマとしたコレクションを皮切りに,ファッションや第一次世界大戦に関する独立サイト(E1535参照)との統合も含め種類を増やしている。これらは,より閲覧しやすく,特定のテーマに関心のあるユーザーを引き付けるショーケースとしての役割を果たすものとして位置づけられている。2018年には,歴史的新聞の一部について全文検索も可能なEuropeana Newspapers(E1741参照)が追加された。また,各資料の詳細情報が表示されるページのデザインが変更された。次の資料や前の資料へ移動するボタンの追加やSNSでの共有,ダウンロード,権利に関する表示の変更が行われた。さらに,25%以上の資料について,ブログや展示,entityページといった,サイトの別の場所へのリンクが明示されるようになった。entityページは2017年に導入されたもので,特定の人物やトピックに関連する資料の入り口となるページである。
また,参加型キャンペーンに関しては,2018年の欧州文化遺産年に関連して,移民をテーマに開催された。30以上の移民に関係する文化機関・教育機関の協力のもと,約9か月の間に12か国で18のコレクション・デイが開催された。コレクション・デイではスタッフによるインタビューや資料撮影を通して,参加者の個人的体験が集められた。キャンペーンを通して,600以上の移民に関する個人的体験と,それに付随する1,000以上の写真や服や食器などの思い出の品がデジタル化された。Europeanaはこれまでにも,第一次世界大戦に関するさまざまな資料を集めたサイトEuropeana1914-1918の構築や,東欧・中欧の7か国と協力し,1989年当時の人々の鉄のカーテンの崩壊に関する記憶や資料を収集するプロジェクトEuropeana1989を実施し,利用者が作成するコンテンツを収集してきたが,新たに移民に関する資料が追加されることとなった。
このように集められた資料は,研究や教育現場でのさらなる活用も想定されるが,それが形になったのが,クラウドソーシングのためのプラットフォームTranscribathonである。TranscribathonではEuropeana1914-1918で収集され,デジタル化された資料の翻刻やタグ付けを行うことができる。2018年には第一次世界大戦終結100周年に関するキャンペーンの一部として,オンライン上で,2,800点以上の手書きの手紙やポストカード,日記などの翻刻が行われた。
2018年9月からは,エンドユーザーが手紙や日記といった手書きの資料の翻刻やアノテーション等の活動ができるクラウドソーシングのプラットフォーム構築を目指すプロジェクトであるEnrich Europeanaがスタートしている。
Europeanaの活動は多岐に渡るが,10年間で関係を深めてきた内部のネットワークや,他の組織との連携が,各プロジェクトやキャンペーンなどの多様性を生み出していると感じる。今後のEuropeanaの活動を把握するうえで,ENAの専門コミュニティの進展や各プロジェクトにおける協力体制,重点領域における他の組織との連携といった部分に,より一層注目していきたい。
Ref:
https://pro.europeana.eu/post/10-highlights-from-2018-in-europeana-annual-report
https://pro.europeana.eu/page/annual-report-2018
https://pro.europeana.eu/files/Europeana_Professional/Publications/Europeana Annual Report and Accounts 2018.pdf
https://pro.europeana.eu/post/europeana-mooc-now-available-in-five-languages
https://pro.europeana.eu/network-association/members-council
https://pro.europeana.eu/files/Europeana_Professional/Europeana_Network/General/Councillor-Terms-of-Reference.pdf
https://pro.europeana.eu/what-we-do/impact
https://pro.europeana.eu/network-association/special-interest-groups/europeana-communicators-group
https://strategy2020.europeana.eu/update/
https://pro.europeana.eu/services/discovery/thematic-collections
https://pro.europeana.eu/post/improving-discoverability-with-new-entities-in-europeana-collections
http://blog.europeana.eu/2018/08/europeana-migration-collection-day-how-does-it-work/
https://pro.europeana.eu/project/europeana-1989
https://pro.europeana.eu/project/enrich-europeana
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