E1535 – Europeana 1914-1918:第一次世界大戦の記憶を共有する試み

カレントアウェアネス-E

No.254 2014.02.20

 

 E1535

Europeana 1914-1918:第一次世界大戦の記憶を共有する試み

 

 2014年1月28日,欧州のデジタル文化遺産のポータルサイトであるEuropeanaが,“Europeana 1914-1918”を公開した。第一次世界大戦の開戦から100年を機に,国立図書館等のコレクションに加え,これまで国立図書館等の蔵書にはされてこなかった,第一次世界大戦に関するさまざまな資料を公開し,新たな観点を提示するものである。

 主なコンテンツは,戦争経験者約7,000人の書簡や写真等約90,000点,国立図書館10館等のデジタルコレクション約40万点,約660時間分の映像資料の三種類である。この三種類のコレクションを中心にEuropeana 1914-1918の概要を紹介する。

 一つ目のコレクションは,欧州12か国の約7,000人の書簡や写真,記念品など第一次世界大戦中の思い出の品の画像90,000点とそれにまつわる物語を集めたものである。このコレクションの構築プロジェクトは,オックスフォード大学が2008年から始めた,英国民から戦時中の家族の書簡,写真,記念品等を集めてデジタル化し,アーカイブした“The Great War Archive”を基礎としている。同学の協力を得ながら,欧州のデジタルアーカイブ,図書館,美術館などの国家的な機関が参加し,進められた。資料の収集方法は二種類あり,一つはウェブサイトから画像や物語を登録してもらう方法,もう一つは,“Family History Roadshows”と題するイベントを各地で開催する方法である。Family History Roadshowsは,各地の国立図書館,公共図書館,博物館等を会場として,参加者に,戦争経験者である家族等の書簡や思い出の品を持ち寄ってもらい,Europeanaのスタッフがスキャニングあるいは撮影を行い,アーカイブに追加するというものである。このイベントは,2011年のドイツを皮切りに,2011年は8回,2012年は19回,2013年は14回実施された。利用者にEuropeanaを広報し,コンテンツの提供者としても巻き込んでいくためのネットワークであるEuropeana Awarenessの活動の一つとしても位置づけられている(E1148参照)。

 二つ目のコレクションは,ベルリン国立図書館が主導し,欧州の8か国から国立図書館10館および2つの関係機関がそれぞれの第一次世界大戦関係のコレクションをデジタル化したプロジェクト“Europeana Collections 1914-1918”の成果である。図書,新聞,塹壕日誌(trench journals),地図,楽譜,児童文学書,写真,ポスター,パンフレット,宣伝ビラ(propaganda leaflets),勲章,硬貨など42万5千点の画像が含まれる。各国のコレクションを統一して検索するための工夫として,メタデータには件名および資料種別が必須とされている。件名は,米国議会図書館件名標目表(LCSH)から同プロジェクトで選定した,第一次世界大戦に関係するものから選択されている。資料種別は2つにわかれており,図書やフィルムなど媒体を表す種別が必須,アルバムや日記など付加的な情報を表す種別は任意となっている。

 三つ目のコレクションは,第一次世界大戦についての映像とその関連資料を収集するプロジェクト“European Film Gateway 1914”から提供された,当時のニュース映画,ドキュメンタリー映画,フィクション映画,プロパガンダ映画,反戦映画などをデジタル化した660時間分の映像資料である。2008年から2011年まで実施された“European Film Gateway”の成果を引き継ぎ,2012年2月から開始された2年間のプロジェクトで,15か国の21のフィルムアーカイブ,5の関係機関の計26機関が参加している。この時期の無声映画はフィルムアーカイブ等の保存機関には20%程度しか残されていないが,それらの大部分をデジタル化したこのコレクションは貴重なものとなっている。

 欧州各地から資料が集められており,また,その利用にも配慮がなされていることは,Europeana 1914-1918のインタフェースが11の言語で提供されていることからもうかがえる。画像に付された解説についても,44か国語への機械翻訳が利用できる。また,Europeana 1914-1918で検索できる資料は,欧州の機関が提供するものに限らない。欧州以外の機関,具体的には,米国デジタル公共図書館(DPLA;E1429参照),オーストラリア国立図書館のTrove,デジタル・ニュージーランドと連携している。これらのデジタルコレクションを一元的に検索でき,タブを切り替えるだけで各コレクションの検索結果を閲覧できるインタフェースになっている。

 単なるデジタル化資料の公開のみにとどまらない試みもなされている。英国図書館では,Europeana 1914-1918で提供されている資料を活用した,教育目的のウェブサイト“World War One”を公開している。プロパガンダ,大戦の原因・大戦勃発とその結果,兵器,兵士の生活など8つのテーマを設定し,専門家による50の解説記事,授業のカリキュラムなど教師のための教材も提供している。

 個人の書簡や日記などは,これまであまり公開されてこなかった資料であり,第一次世界大戦の歴史認識に新たな観点を提示するものである。Europeana 1914-1918が,開戦から100年が過ぎ,遠くなった戦争を,繰り返してはならない悲劇として広くその記憶を共有するための基盤となることが期待される。

関西館図書館協力課・篠田麻美

Ref:
http://www.europeana1914-1918.eu/en
http://pro.europeana.eu/pressrelease/29jan
http://pro.europeana.eu/web/europeana-1914-1918
https://ec.europa.eu/digital-agenda/sites/digital-agenda/files/08%20-%20eAwareness.ppt%20%5BCompatibility%20Mode%5D.pdf
http://www.oucs.ox.ac.uk/ww1lit/gwa
http://dp.la/
http://trove.nla.gov.au/
http://www.digitalnz.org/
http://www.europeana-collections-1914-1918.eu/wp-content/uploads/2012/04/Classification-of-content-in-EC1418.pdf
http://project.efg1914.eu/
http://www.bl.uk/world-war-one
http://pressandpolicy.bl.uk/Press-Releases/Europeana-1914-1918-A-new-website-that-brings-all-sides-of-World-War-One-together-launches-in-Berli-67e.aspx
E1148
E1429