カレントアウェアネス-E
No.301 2016.04.14
E1786
「これからのデジタル・アーカイブ」シンポジウム<報告>
2016年2月9日,東京大学本郷キャンパスにおいて「DNP学術電子コンテンツ研究寄附講座開設記念シンポジウム『これからのデジタル・アーカイブ』」と題するシンポジウムが開催され,大学,学術出版社,システムベンダーなどからデジタル・アーカイブに関わりのある約220名が集う場となった。
本講座は,2015年11月大日本印刷株式会社の寄附により東京大学大学院情報学環に開設された。これまで情報学環で進められてきたデジタル・アーカイブやe-learningに関する諸々の知見を踏まえ,日本のデジタル・アーカイブに関わる様々なプロジェクトと有機的に連携し,特に学術コンテンツの教育利用について実践的な研究開発を行う。設置期間は2015年11月1日から2018年10月31日までの3年間である。
今回のシンポジウムは本講座の開設記念ということもあり,寄附者(大日本印刷株式会社)及び設置機関(東京大学)両者の挨拶から始まり,講座代表である東京大学の吉見俊哉氏から開設の趣旨について説明があり,シンポジウムの本題については関連諸機関やプロジェクトの識者10名から,国内外のデジタル・アーカイブの活動状況や事例について報告があった。
各氏の説明及び報告をまとめると,まず本講座の趣旨に関しては,学内はもとより学外諸機関と強い繋がりを形成し,学術コンテンツの教育活用基盤の構築を目指すとの内容であった。一方,外部関係者の報告に関しては,所属する機関やプロジェクトにおける活動状況の説明,また欧米における先進的なコンテンツサービスの紹介とそれに対する日本国内の取組の状況と課題,今後の進むべき方向性や対策が指摘された。
以下,関連諸機関・プロジェクトの識者10名の報告概要を記す。
●「基調報告:我が国のデジタル・アーカイブを巡る状況」
日本のデジタル・アーカイブ全般に関して識者3氏から報告があった。まず,国立情報学研究所の高野明彦氏から,日本の知的財産推進計画の2015年度における検討状況の報告,続いて弁護士の福井健策氏からは,欧米のコンテンツサービスに匹敵するために,権利処理コストの低減と孤児著作物対策や権利制限規定の範囲拡充などが必要であるとの説明があった。最後に国立歴史民俗博物館の後藤真氏から,資料に情報技術分析を応用した人文学である「デジタル人文学」の変遷と状況説明があった。
●「学術情報デジタル・アーカイブを巡る動向報告」
基調報告に続き,学術分野のデジタル・アーカイブ構築を推進する機関やプロジェクト関係者7氏から動向報告があった。まずは文部科学省の鈴木敏之氏から,学術機関リポジトリ構築連携支援や科研費助成など,同省の支援事業と今後の課題やその対策について説明があった。
続いて,千葉大学の竹内比呂也氏から「大学学習資源コンソーシアム」の活動,慶応義塾大学メディアセンターの入江伸氏からは「大学電子書籍推進会議」の活動報告があった。両者とも本講座と密接に連携する予定の組織であり,学術書・専門書を中心とした学術コンテンツの教育利用モデル構築を主なテーマとしている。
次に,東京大学の生貝直人氏から東京大学の新図書館計画の概要紹介,京都大学附属図書館の甲斐重武氏からは,京都大学における電子図書館や,研究資源のデジタル・アーカイブなど附属図書館が関わる学内のデジタル化プロジェクトについて説明があった。
続いて東京大学の時実象一氏から,米国のGoogle Booksなど書籍のデジタル・アーカイブ事例や文化財のデジタル化資料のポータルサイトである欧州のEuropeana(CA1785,CA1863参照)など,海外事例を網羅したかたちでの報告があった。
最後に人文情報学研究所の永崎研宣氏から,日本における大型のデジタル・アーカイブ事例といえる「大正新脩大藏經テキストデータベース化プロジェクト」の活動状況報告があった。
●「本講座の目指すもの」
シンポジウムのまとめとして,本講座の実務責任者である東京大学の柳与志夫氏から,設置期間3年間の目標と活動内容について説明があった。主要テーマである学術コンテンツのデジタル化と教育利用環境構築を目指す点については,附属図書館を中心とした学内各所はもとより登壇された各氏が所属する学外諸機関やプロジェクトとの繋がりの重要性が挙げられた。さらに期間終了後の新たなステップに踏み出すための下地作りとしても位置づけている旨の説明があった。
東京大学大学院情報学環・井関貴博
Ref:
http://www.iii.u-tokyo.ac.jp/news/4166
http://www.yanesen.net/topics/detail.html?id=1077
CA1785
CA1863