カレントアウェアネス-E
No.301 2016.04.14
E1787
GL17,GreyForum4.1:多様化する灰色文献への取組<報告>
2015年11月30日から12月2日にかけて,オランダのアムステルダムにおいて,灰色文献の国際会議である第17回灰色文献国際会議(Seventeenth International Conference on Grey Literature:GL17)及びGreyForum4.1が開催された。
GL17は,灰色文献に関する国際的なネットワーク“Grey Literature Network Service”(以下GreyNet)と,その事務局であるTextReleaseが主催する国際会議である。2014年のGL16において,当時日本原子力研究開発機構(JAEA)の図書館職員であった池田貴儀氏が,福島第一原子力発電所事故関連の情報の収集,整理,発信に関する活動が評価され,GreyNet Awardを受賞された(E1612参照)のは記憶に新しい。筆者は今回,「国立大学図書館協会海外派遣事業(短期)」の助成を受け,この会議に参加し,発表する機会をいただいた。本稿はその報告である。
本会議であるGL17は,基調講演と4つの全体セッション及びポスターセッションで構成され,“A New Wave of Textual and Non-Textual Grey Literature”という題目のもと,一般的な形態の灰色文献のみならず,音声データ等の多種多様な灰色文献に関する取組が取りあげられた。GreyForum4.1はこれまでは独立したワークショップとして開催されていたが,今回はGL17のプレ・カンファレンスとして開催され,“Grey Literature and Digital Preservation: Standards in Practice”という題目のもと,灰色文献の電子的保存と公開に関する事例についての3つの発表と,それについての意見交換が行われた。
本会議の基調講演“Dissertations and Data”では,博士論文の作成過程で生じた研究データ等の公開について触れられている。欧州ではETDs(電子学位論文)への取組が浸透しており,学生へのサポートも盛んにおこなわれている。この発表では,研究分野毎に博士論文の中で使用されているデータの種類の調査を行う等,詳細な調査の報告がなされ,また,論文の本文と研究データとを別のリポジトリで公開する例も紹介されている。GreyForum4.1の欧州原子核研究機構(CERN)の発表の中でも,研究データやソースコード等をデータリポジトリである“DATAVERSE”や“Zenodo”を使って本文とは別のリポジトリで公開する手法が紹介されている。本文やデータについて,それぞれに適した収集,公開方法を考える必要があると感じた。
昨今,学術情報流通においてソーシャルメディアの有用性も広まりつつあるが,これらの活用についての報告もあった。まず,イタリアのConsiglio Nazionale delle Ricerche(CNR)からは、人文社会科学分野に関してソーシャルメディアは研究者の評価や透明性の評価をサポートするツールとしては有用だが,研究のインパクトを評価できるものにはまだなりえていない,とする報告があった。そしてニューヨーク医学アカデミー(New York Academy of Medicine)からは,ソーシャルメディアについて,研究者は研究成果を広めるツールとしては使用しているものの,必要な情報を検索する手段としては使用していない,とする報告があった。ソーシャルメディアの位置付け,活用状況については,今後更に詳細な調査研究が待たれる。
各国,各分野での取組としては,国際原子力機関(IAEA)の国際原子力情報システムINIS(International Nuclear Information System),視聴覚資料や3Dオブジェクトにメタデータを付与して公開するドイツ国立科学技術図書館(TIB)提供の学術ポータル“TIB AV Portal”等が紹介された。そのほか,イタリアの海洋学分野の灰色文献も含めた学術情報プラットフォームであるMAPS(Marine Planning and Service Platform)はポスターセッションの最優秀賞を受賞した。MAPSはイタリアのIstituto di Linguistica Computazionaleと,DELTA PROGETTI2000,ETTsolutions(両者ともイタリアのIT関連のコンサルティング企業)の主導による,海洋学分野の文献やデータを収集・分類し,効果的な検索を可能にするセマンティック検索エンジンを用いて,永続的な保存・公開を目指すプロジェクトである。なお,筆者はGL17の1日目の全体セッションにおいて,博士論文の電子的公開の義務化やオープンサイエンス政策の動向等,日本における学術情報流通を取り巻く現状を発表した。
会議を通じ,海外では既に,研究データ等を含めた灰色文献に関する研究活動や研究成果の全てを公開しようとする動きが活発になっていることを実感した。日本でも「我が国におけるオープンサイエンス推進のあり方について」(E1681参照)が発表され,今後,本文だけでなく,論文の作成に使用された研究データも含めて公開する,という流れは加速していくと思われる。研究分野によってデータの扱いは様々であり,それらの保存・公開は図書館だけで対応するのは難しく,研究者や他の部署との更なる連携を進めていくことが不可欠と考える。
北海道大学附属図書館・磯本善男
Ref:
http://www.greynet.org/
https://web.archive.org/web/20150913001147/http://www.textrelease.com/gl17program.html
https://www.iaea.org/inis/
http://invenio-software.org/
http://dataverse.org/
http://zenodo.org/
https://av.tib.eu/
http://doi.org/10.1241/johokanri.58.193
http://www8.cao.go.jp/cstp/sonota/openscience/
E1612
E1681
E1382